第100話ゴンザレスと魔王⑦

 戦いは熾烈を極めた。

 俺にとって。


 魔獣は一匹も出て来ないが、俺は事あるごとに逃げ出そうと企むが全て阻まれる!


「お、俺は逃げるぞ!」

「はいはい、行くわよ」

 ガシッとエルフ女に両肩を掴まれ、そのまま押されて前に進む。


 俺はなんとか逃げようとそれを振り解き、走り出すが鉄壁の守りを崩せず回り込まれる。

 今度は帝国皇女様に捕まる。


「アレスさんが来てから、魔獣にほんと会いませんね?

 一体なんででしょう?

 何をしてるんですか?」


 何もしてない!

 何もしてないから、離してください帝国皇女様。


 そして、何故に俺を疑う!?


 キョウちゃんがジト目で。

「No.0何をした?」

「ナ、ナニモ?」

 ヤベっ、声裏返った。


 全員からジーッと見られる。

 お、俺が一体何が出来るって言うんだ!


 ハムウェイがため息を吐く。

「……No.0が何かをしているのは、今更だ。

 僕たち全員、以前の魔獣の襲撃をNo.0の力で、逃れることが出来たんだからな」

 ナンバーズ全員とメメちゃんが頷く。


 こういう時、頼りになるエルフ女に確認。

「コイツら何言ってんだ?」


 しかし、今までなら俺に同調してくれたエルフ女も。

「知らなーい。あんた、『また』何かしたんじゃ無いの?」


 ジト目で返してくる。


 くっ! 悔しいけど、エルフ女の美女顔ジト目にゾクゾクしちゃったわ!


「またってなんだ! またって! 

 俺は怪しいことはしていない!!

 俺を信じる俺を信じろ!」


「あんた信じたら人としてダメなんじゃないの?」


「もっともなことを言うなー!

 ならなんで、俺が世界最強集団でも出来ないようなことが出来ると思ってんだー!!

 あり得ねぇだろ!!」


「あり得ないって……。

 あんた、そもそもゲフタルでアタシらボコボコにしたじゃん。

 世界で唯一、それが出来るヤツが世界最強じゃなくて何だってんのよ?

 アタシ、あの時の恨み忘れてないから」


 やっちまったのは、俺でした〜。


 肩を落とす俺の肩をツバメがポンっと叩く。

「アレスさん! 元気出して行きましょう!

 私たちも頼りないかもしれませんが、お力になれるように頑張りますから!」


 チェイミーも、うんうんと頷く。


 全幅の信頼の眼差しが痛い……。

 多分、君らがこの中で1番、俺を無駄に純粋に信じてる気がする。


「私も信じてますよ、アレス様」

 ……心を読まないでNo.8。


「私は最後まで、あんたを信用しないわよ?

 ……でもまあ、グレーターデーモンの襲撃を防いでくれたのは助かったわ。

 私が襲われてたら、カレン様みたいに粘ることも出来なかったでしょうから。

 ……ありがと」


 可愛くそっぽ向きながら、ソーニャちゃんは礼を言う。

 ツンデレか! 可愛いわ!

 信用しないと言いながら、バッチリ信用しとりますやん?


 君は誰が見えてるの?

 俺じゃないよね?


「それでご主人様。

 何を隠してらっしゃるのです?

 突然、逃げようとしだしましたよね?」


 がっちり俺の腕を身体で絡めとり、メメが上目遣いに聞いてくる。

 ふぉお〜、俺の鋼鉄の意志がー溶ける〜。


 言わんぞ! これは俺の命に関わる!


 どうせ逃げれないならとご褒美を糧に進むことを選んだが、逃げられるなら逃げたい。


 そう! 先程から魔獣が出て来ない理由。

 俺には思い当たること、いや、思い当たる物があった!!


 懐に入れっぱなしになっていた、帝国の前教祖の隠し部屋で見つけた宝石。


 休憩終わり辺りで気付いたが、仄かに光ってるんだよねぇ。


 これってもしかすると、もしかして魔王に関係した何かじゃね?


 その効果は今、実証済み。

 魔獣が出て来ない!


 この魔王城は魔獣の発生源であり、うじゃうじゃ出て来ても仕方無いはずなのにまるっきり会わない!


 もっと早くに発動していれば、こんなところにまで来ることはなかった筈だが、発動条件が魔王城に来るとか何かだったのだろう。


 今になって発動しているのだ。


 これを失う訳にはいかん!

 これがあれば俺は逃げられるのだ!!


 コイツら?

 頑張れば生きて帰って来れるだろ?

 頑張れ!


 ついでに魔王倒しておいて?


 内心では俺はほくそ笑む。

 そこでエルフ女はため息を一つ。


「はい」

 何かを渡して来るので、反射的に受け取る。

 金目の物は受け取るクセが発動。


 渡されたのは箱とマーカーと呼ばれる物体で、何かに貼り付けられる布みたいなの。


「何これ?」

「スイッチとマーカー」


 うん、そうだね。

 これをどうしろと?


「世界の命運、あんたに託したから。

 あんた逃げたら世界滅びるから、よろしく♡」


 な、な、なんばしよっと!?


「さあ、これで勝てば英雄、贅沢し放題。

 逃げれば滅びて皆お終い。

 分かりやすくていいでしょ?」


 良い訳ないだろー!!!


「ね? 皆いいでしょ?」

「もちろんです」

「アレスさんお願いします」

「アレスさんなら当然ですね」

「No.0、任せたよ」

「あんたに任すわ」

「ご主人様なら大丈夫です」

「アレス様以外の誰にそれが務まりましょう?」

 No.8、俺以外なら誰でもいいと思う……。


 最後にキョウちゃんが進み出て俺の手を取る。

 うほっ、柔らかい。

 ついに俺の魅力に目覚めてしまったかい?


 キョウちゃんが掴んだ握った手が、淡い光を放ち出す。

 祈りを込めるように、キョウちゃんが取った俺の手を両手で包み込む。


 柔ケェ〜、せっかくなので俺も撫で返しておこう。


 キョウちゃんの額から汗が出てる。

 興奮してる?


 やがて淡い光が収まりキョウちゃんに手を振り払われ、ささっとエルフ女の後ろに逃げられた。


「やい! No.0!! 仕方ないから、僕の称号『救世主』を譲渡したからな!

 譲渡するから『劣化救世主』になってるけど、これで世界を救うんだぞ!」


 何してくれてんの!?

 詐欺師に救世主とかおかしいから!!

 しかも劣化かよ!!!


「もっと良いものくれ!」

「渡せるのは一つだけ! 十分だろ!」

 救世主なんかいらんわー!!


 そこでエルフ女は俺の肩をポンっと叩く。


「さあ、行きましょう。世界を救いに。

 劣化救世主、さ、ま♡」


 絶対にいやだーーーー!!!!!

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