第99話ゴンザレスと魔王⑥

「つまり優先は誰かが魔王にマーカーを付けて、聖剣を起動させれば良い訳だ」


 全員が休んで正気に戻ったところで、再度作戦会議。

 こいつらに任せてると、魔王に無駄に突っ込んで死にかねん。


 貴様らの中に策を考えるヤツはおらんのか!

 え? 俺?

 真面目に言っていい?


 チンケな詐欺師に命運託してどうすんの?

「ですが、ご主人様がこの世界を見捨てるなら最期までお供致しますが?」

 メメがそう言って、No.8が何度も頷く。


 君たち、休んでも俺という詐欺師への厚い信頼は変わらないのね……。

 ……今、俺は生まれて初めて罪悪感なんて感じそうだよ。


 だから、仕方なく俺がやるべきことを再確認する。


「流石に城の構造は知らないよな?」

「……そうね。ただ、魔王の居る位置はなんとなくだけど分かるわ。

 禍々しい魔力がずっと上からしているもの」


 それに頷くメンバー。

 分からないのは、俺だけ。


「あっそ。ま、頑張って?」

「だから、あんたも行くのよ?」


 なんでじゃー!!!

「なんでじゃー!!!」


 思わず口に出してしまった。

 だが、エルフ女は休んで冷静になったのだろう。

 至極真っ当な説明をしてくれた。

「なんでって、こんなところ置いていけないでしょ?」


 そりゃそうだ。

 置いていかれたら、むしろ泣く。


「よろしくお願いします。エルフ女様」

「エルフィーナだって。意地でも呼ばないわね? あんた」

「おう、真名は隠すものだ」

「だからゴンザレスも隠してたの?」


 何故、その名を知ってる!?


「シュナ第三王女が言ってたわよ?」


 しまったー!!!

 ゲフタルからの流れでゴンザレスと名乗ったんだったー!!


「まあ、ご主人様はご主人様なので良いですが。ちょっと寂しいですわね」

「ゴンザレス様と呼んだ方が良いですか? アレス様」


 ヨヨヨ、とよろける。


「アレスの方でお願い……」

 だって、アレスの方が格好良いんだもの。


 そこ! No.1とキョウちゃん、ソーニャちゃんそれに帝国皇女様、笑うな!

 チェイミーとツバメは、ゴンザレスに違和感が無いらしく首を傾げている。


 農村とか居そうだものね、ゴンザレスって。


 俺はボソッと呟く。

「名前呼びしない方が、詐欺しやすいから……」

「クズが」

 酷いわ! エルフ女。





 突っ走るのは、そういう状況になったらということで落ち着く。

 基本姿勢は慎重に行くべきだし、危なければ引き返すのも大切だ。


 一気に行こうとするなど、無駄死にの特攻と変わらん。


「聖剣の爆発に巻き込まれたら、一緒に吹き飛ぶのだろう?

 どれぐらいの威力か分かってるのか?」

「えっと〜」

 そう言って、エルフ女が明後日の方を向く。


 えー。


「フロア一つは吹き飛ぶんじゃ無いのかな?」

「エネルギーの量にもよりますが、考え方がミサイルと同じなら建物ごと吹き飛ぶかも知れませんね、師匠」


 キョウちゃんが助け船を出すが、聞きたく無い話でもあった。


「あかんやん」

「ほ、ほら、マーカーを付けてその間に逃げれば、良いわけだし?

 それに勇者なら、聖剣のエネルギーの影響を受けないという噂だし」


「噂か!」

 エルフ女がしどろもどろ。


「罰としてベッドに行くぞ! じゃあ! 後は任せた!」

 エルフ女の腰に手を回し、カバ魔獣と来た道を戻ろうと。


 ガシッとキョウちゃんに肩を掴まれた。

「師匠は置いてけ!」


「嫌だ! 連れて行かないと俺が魔獣に襲われた時、どうするんだ!」

「喰われろ!」

 酷い! キョウちゃんヒドイわ!!


 ガシッと今度は両腕を掴まれる。

「大丈夫ですよ、ご主人様はちゃんと運びますから」

「ご安心をアレス様。死ぬ時はお供します」


 首を横にフリフリ。

 あ、安心出来ん!

 俺は何がなんでも生きるんだ。


 そこでメメが妖艶に目を細め、そして耳元で囁く。

「なら、無事、魔王退治を終えたらご褒美あげます」


「カストロ公爵の時もその手だったな、そう簡単に……本当だろうな?」

 ふふふ、と妖しく笑いながらメメは頷く。


 うむ、ならばちょっと頑張るぐらい……いやしかし……今度は文字通り命懸けな訳で。


 今度はNo.8が耳元で。

「わ、私もご褒美頑張りますので……」

 照れながら言われた。


 ちょっとビックリ。

「ご褒美くれるの?」

 モジモジしながら、頷くNo.8。


 じゃあ、ちょっとだけ頑張っちゃおうかな?


 そういう訳で、俺は頷いた。


「あんたって……ほんと簡単な男ね」


 うるせいやい!

 ダブルS級だぞ!


 命ぐらい賭けるだろ!

 死にそうになったら、迷わず逃げるけど。


「いいなぁ〜」

 キョウちゃんがポツリ。

「もちろん、キョウちゃんも一晩……ヘブっ!」


 見事な勇者アッパー。

 あんたがチャンピオンだ……。


「き、気持ち悪いこというなぁぁああ!!」


 二の腕をさすりながら、キョウちゃんがエルフ女の背後に隠れる。


「あー、もう変なことしてないで、行くわよ!」

 いや、待て、まだ心の準備が……。


 定番の両サイドを掴まれたまま、軽く持ち上げられ運ばれる。

「行きますよ、ご主人様」

「お供します、アレス様」


 は、離せー!

 やっぱり怖い!


 俺は何としても生きるから逃がせろー!!

 ジタバタする俺を構わず、2人が運ぶ。

 その後を全員がぞろぞろ付いて進むのであった。


 お助けー!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る