第98話ゴンザレスと魔王⑤

「魔王退治って何?」

 流石に疑問を口にした。


 エルフ女が答える。

「魔王を討伐すること」


 いやいや、それは分かる。

 俺が聞きたいのは言葉の意味じゃない。

 だから俺は尋ねる。

「誰が?」


 エルフ女が答える。

「私たちが」


 俺が言う。

「そう? 頑張って?」

 俺はクルッとカバ魔獣が向かった方へ踵を返す。


 その俺の襟をガシッと掴みながら、エルフ女はさらに言う。

「あんたも行くのよ。あんたリーダーなんだから」


 俺が叫ぶ。

「なんでじゃァァアアアアア!!!!」


 ドリームチーム出陣。

 連行される俺。


 行き先は、オドロオドロシイ岩城魔王城。

 というか現在、その最下層?


 そのドリームチームリーダーは詐欺師らしいですわよ?

 ワオ! 人類終わってる〜!


 あとね? 俺、強くないからね?

 あっさり死ぬよ? サクッて感じに。


 そもそもなんで詐欺師を連れて行こうと思ってんだ?

 エルフ女よ、俺がチンケな詐欺師なのはお前が1番理解理解してるんじゃないのか?

 俺に詐欺られて俺のものされてるんだから。


 俺の素朴な疑問を無視してエルフ女はさらにさらに言う。

「ここからは一気に魔王のところに駆け抜ける。

 辿り着いたら、マーカーを魔王に付けてスイッチを押す。簡単でしょ?」


 頷く全員。


 いやいや、待て待て。

 え? 全員、道分かってるの?

 え? なんで首を傾げる?


「真っ直ぐ走れば、着くんじゃないの?」

 可愛らしく小首を傾げる帝国皇女様。

 可愛いから許してもらえると思うなよ?


 え? 俺は許すよ?

 許しても許さなくても、どうしようもないからな!


「大丈夫よ。伝承でも左手を壁に当ててれば辿り着くらしいわ。左手の法則というらしいわ」


 え? なんで左手?


 しゅぴっと手を挙げるNo.8。

 エルフ女が先生のようにNo.8を指名。


「はい、イリス」

「アレス様は私が連れていきますので、ご安心を!」


 安心出来るかー!!

 何処へだー!

 ベッド以外は行かんぞ!!!


「それは魔王退治のご褒美ですね?」

 No.8が嬉しそうにモジモジする。


 あ、ごめん、やっぱりなしで。

 そもそも俺は魔王退治には行きませんので。


 ソーニャちゃんもマネする様に手を挙げる。

「はい、ソーニャさん」

「壁があっても突っ切れば、辿り着くんですわね!」


 貴様もかー!!

 まともな奴はおらんのか……。


 そこでおずおずと手を挙げるキョウちゃん。


「あの〜師匠。ここがダンジョンと同じなら、落とし穴とか罠とかもしくは転移装置とかあるんじゃないでしょうか?」


 おお……!

 俺はキョウちゃんを凝視しながらポツリと。

「キョウちゃんが初めて役に立った」


「うるさいNo.0! 僕もやる時はやるんだ! 近づくな! 子供が出来る!」


 おー、いーじゃん、キョウちゃん俺とベッドへレッツゴーしようーよー。

 シュビッとエルフ女の後ろに隠れられた。


 ぐぬぬ、代わりにエルフ女をベッドに連れ込んでやる!

「はいはい、後でね。

 キョウから良い意見が出たわね。

 さて、具体的にどうするか、よね」


 おずおずと手を下げるキョウちゃん。

 具体的には無いんかい。


 それとエルフ女、後っていつよ?

 魔王退治後とか俺死ぬよ?

 死んじゃうよ?


「はいはい! エルフィーナさん」

「なんでしょう、ツバメさん」

「特に無いので、進みましょう!」

「良い意見ですね! そうしましょう!」

 女Aことツバメが力強く宣言する。

 エルフ女も力強くそう返事をした。


「なんでじゃー! ふざけてるのかー!?」

 俺が1人わめくが全員が不思議そうな顔をする。

 あ、あっれぇ〜、おかしいの俺の方なの!?


 そこで、フッと笑いながらハムウェイが寄って来る。

 俺は顔をそらす。


「聞いてくれよ〜。No.0」

「違います。No.0じゃありません」

 ガシッと俺の腕を掴むハムウェイ。

 残念! No.1からは逃げられない!!


「良いよなぁ〜。No.0は〜、愛しい人に囲まれて。僕も早く帰ってパーミットちゃんに会いたいなぁ」


 は、離せー!

 何が良いんだ! 何も良くないわ!


 シュタッと今度はメメ。

「はい、メリッサさん」

「はい。ご主人様と共にならば何処へなりとも!」


 メメまでNo.8と同じこと言い出した。

 でもうん、大体分かった。

「お前ら、少し休め」






 コイツら全員、疲れ切って頭が豆腐状態だったようだ。

 これで突っ切るつもりだったらしい。

 まともな奴はおらんのか。


「私が見張りしておきます」

 チェイミーが名乗りを上げる。

 そういえば、この娘だけ暴走してなかったなぁ。

「私はここに来るまでに休めましたから」

 チェイミーがこちらを見て、柔らかく笑う。


 綺麗な娘が柔らかく笑うと良いよねぇ〜。


「ご主人様。私たちと休みましょう」

「アレス様。ちょっとその前にお話しましょう」

 2人が笑顔を向ける。

 怖い笑顔を。


 逃がせてくれー!!

 ガシッとエルフ女を掴む。

「エルフ女〜、助けてくれー!」

「は、離しなさい! マジでこの2人ヤバいから!」


 はっはっは、貴様も道連れだ!


「ご主人様?」

「アレス様……」


 ガシッと元皇女王女コンビに、両サイドから腕を捕まれる。


 ……はい。


 後、No.8?

 その怒りもせず、涙目になるのヤメテ?

 詐欺師ですら反省してしまいそうだから。


「あんたはちょっと反省なさい」

 エルフ女がジト目で言う。

 えー?


「ご主人様はこちらですわ?」

 メメに腕を引っ張られ耳元で言われて、ゴンザレスゾクゾクしちゃう。


 後、No.8小さく袖持つのやめて?

 上目遣いで。

 どこで習ったの! そう簡単に引っ掛かると思うなよ!


 引っ掛かるに決まってんだろ!

 危ない危険な女でも、S級美女の上目遣いだぞ!


 抵抗出来ないに決まってるだろー!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る