第95話ゴンザレスと魔王②
魔王城へ向かう戦いは熾烈を極めた。
魔王討伐軍はカストロ公爵軍と帝国、それとエール共和国の冒険者からなる義勇軍だ。
中でもナンバーズを中心に構成されたドリームチームと呼ばれる中に、私チェイミーは親友のツバメと共に参加していた。
魔王城の崖の下までは魔王討伐軍全体で行動した。
そこに至るまでも、脱落者は多かったがドリームチームからの脱落者はゼロだ。
崖を登るのに軍で行動しても犠牲者が増える上に、戦いの邪魔になることが予想されたので、ドリームチームのみで魔王城に突入することになった。
魔王討伐軍はここで退路を確保しておく役目だ。
ドリームチームメンバーは世界ランクNo.1のハムウェイさん。
世界ランクNo.2の帝国皇女カレン様。
世界ランクNo.8の亡国ウラハラ国の元王女イリスさん。
世界ランクNo.10の帝国の秘宝ソーニャ様。
伝説とも呼ばれたエルフの剣聖の担い手エルフィーナさん。
異世界からの最強勇者キョウ君。
帝国ランクNo.1で元レイド皇国皇女のメリッサさん。
世界ランクNo.9で私の親友ツバメ。
そして、私。
こんな最強メンバーを束ねるリーダーこそが、あの人。
今はここに居ない世界最強、世界ランクNo.0。
彼と出会ったのは、私が親友のツバメを助けたくて一緒に村を抜け出していたあの時だった。
駆け出し冒険者となって、一緒に依頼を受けてある村に行った。
私とツバメの2人には、初めてづくしの冒険だった。
2人ではじめての恋も経験した。
ツバメに残されていた僅かな時間の出来事。
命を賭けても親友を助けたかったけれど、私にはツバメを助けることが出来ないことはお互い分かっていた。
その運命をアストと名乗った彼が覆した。
とんでもない人に恋しちゃったな……。
ここに来て、私はますます実感する。
ドリームチームの中でただの村娘だった私には、他の誰よりも才能が無かった。
確かに、ただの村娘には過ぎた程の才能があった。
でも、ここのメンバーは親友のツバメも含んで世界最高の才能の持ち主たちだった。
容姿も全員がS級と呼ばれるほど抜きん出てもいた。
この中で1番自分が彼に釣り合わない。
そう私は考えていた。
余談だが、ただの詐欺師である男からしたら、このチェイミーも上位過ぎて逆の意味で釣り合わない。
幸いと言って良いのか分からないけれど、魔獣との戦いは余裕がなく劣等感に苛まれている暇はなかった。
私はドリームチームの中で実力で一段落ちていることを気付きながらも、どうにか戦いについて行くことが出来ていた。
でもそれも、もうこれまで。
魔王城に登る途上の崖の上で私は魔獣に吹き飛ばされた。
完全な力不足。
「チェイミー!!」
ツバメの声が遠くに聞こえる。
ごめんね、ツバメ……。
口がそう動く。
ずっと一緒に居てあげられたら良かったのに。
……それと、あの人にも。
せめて、もう一度だけでも会いたかったなぁ。
私の初めての……。
そうして、私の意識は深い闇へ。
「ご、ごめんなさい。条件反射で」
目の前の女Bは優しく俺の頬に触れながら、ひたすら俺に謝る。
俺はぶすっとした表情を浮かべながら、内心感動していた。
良い! 良いよ! この娘!
心から心配してくれる感じ!
なんかもうこの尽してくれるオーラの綺麗系美女!
俺の中で女Bの株急上昇中。
でも、名前なんだっけ?
聞き出す良い方法はないかな?
ピンっと閃いた。
ついでにこの女Bを頂く良い手だ。
「じゃあ、誓ってよ?」
「え?」
「自分の名前を言って、俺になんでもしますって」
誓えないの〜?
それで謝罪してるつもり〜?
そんな感じで追い込んで確実に頂こう。
俺は流れてきた幸運を逃さぬように、全力で頭の中を回転させる。
それはもうクルクルと。
気が優しいばかりだと、こんな風に騙されるから注意しよう!
優しさ=お馬鹿だと俺に美味しく頂かれるよ!
でも今回は女Bお馬鹿でよろしく!
こんな美女をゲット出来る機会なんて生涯に1度あるかどうかなんだ、絶対に逃がさねぇぜぇ〜?
……生涯に1度あるかどうかの機会が3度ほど、いや4度、5度ほどあったとか、ゴンザレス信じない。
そんなのきっと詐欺だから。
女Bは戸惑いながらも、胸に手を当て言われるままに。
「わ、私、チェイミーは、アスト……アレスさんになんでもします」
「じゃ、頂きます」
「え!? ここ魔獣の上ですよ!?」
魔獣の上ではなかったら良いみたいな言い方だね。
良いじゃん。
この魔獣、降りようとすると何故か俺を威嚇するんだから。
怖くて降りれない。
数時間後、俺たちは特にすることもなく、何処かへ移動する魔獣の上でボーッとしていた。
ぐーっと俺の腹が鳴るので、果物を取り出しかじる。
チェイミーにジーっと見られたので、仕方なく分けてやる。
チェイミーは果物を齧り、ポツリと。
「これ、食べると魔力が溢れてくるんですけど……」
よく見てみると、これって書物で読んだ伝説の始源の実に形が似ているんだよね、この果物。
でも分かんないし、美味いからいいや。
そう説明するとチェイミーも素直に黙って果物を食べ続けた。
食べ終わったのでまたボーッとする。
「これ、何処に向かってるのでしょう?」
「さあ?」
「私たちどうなるのでしょう?」
さあ? なるようになるんじゃない?
いざとなったら見捨てて逃げようと思うけど。
そう言えば、この娘もドリームチームのメンバーに入ってたな。
「強くなったんだなぁ。
綺麗になってるのも、納得」
俺は考えなしにそう言った。
魔力が前に比べて圧倒的に洗練されたということだ。
あれ? 今更気付いたけど、この娘も化け物の仲間入りしてるよね?
俺はまたしても、今更気付いた。
また……色んな意味でもやっちまったかな、と。
チェイミーは俺を呆然と見る。
そして、泣かれた。
なんで!?
とりあえず、泣き止むまでのつもりで抱き寄せたら、さらにわんわん泣かれた。
失敗した!!
魔獣が寄ってきそうだから泣き止んで!
その恐怖に震えながら、どうやって口を塞ごうかと考えて役得も兼ねて口で塞いでおいた。
大人しくなった。
この娘も簡単過ぎない?
こういう娘ばかりだから、世の中、詐欺とか溢れるんだよ?
しっかりしなさい!
それはともかく。
このカバ魔獣、何処まで行くんだろう。
早く逃げたいなぁ〜。
安全地帯は何処だ!
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