第94話ゴンザレスと魔王①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0



 どうも、アレスです。

 ゴンザレスよりこっちの名前の方が良いね。


 詐欺師と名乗りたいけれど、詐欺ってません

 廃業ですか?


 良いことですね。

 ですが、公爵とか総司令官とか王様とか世界最強にはなりませんよ?


 ん? 死んでないよ?

 俺は絶対に生きますので。


 ですが、現在魔獣の頭の上に居ます。


 なんでこうなった?







 全力で逃げてた。

 とにかく逃げ続けた。

 馬はよく頑張ったが、途中で自分だけ逃げやがった。


 そこからはただひたすら自分の足でダッシュだ。

 今ならマラソンで世界を狙えそうだ。

 絶対にやらんけど。


 魔獣がドタドタするから地面におっきな穴出来た。


 元々の地形として、そういう大きな空洞が自然に地下に作られていたのだろう。


 んで、一緒に落ちた。

 クッション性の高いカエルみたいな魔獣のおかげで助かった。

 ここ、大事。

 とにかく助かった。


 まだ生きてる魔獣も居たからさっさと逃げた。

 幸い追いかけてくる魔獣は居なかった。


 闇雲に逃げ続けた所為で、何処だか分からない森の中に居る。


 巨大な木に可食可能な赤い果物があったので、それを食す。

 美味かった。


 木の下に大きなカバのような魔獣が来た。

 超デカイやつ。

 こちらを食べてやるぞと涎を垂らし、大きな口を開ける。


 勢いよく木にでも突っ込まれると、この巨大な木ですら簡単に倒れてしまうだろう。

 ふんふん、と鼻息荒く目が血走っている。


 それは困る。

 口の中に上から果物を落とす。

 これで諦めてくれねぇかなぁ、と。


 口を閉じ、もしゃもしゃ。

 また口を開けるので果物を落とす。

 もしゃもしゃ、落とす、もしゃもしゃ。


 繰り返すこと50回ほど。

 なんとか果物が尽きる前に大人しくなった。


 草食系の魔獣も居ることを初めて知った。


 意識が下のカバにばかりいっていた所為で、奴の接近に気付いていなかった。


 そう、俺の天敵、蛇の魔獣!

「うわぁ!!!」


 俺は咄嗟に木から飛び降りた。

 それはカバの魔獣の上。


 カバの魔獣は、俺が落ちてきても物ともせず、むしろ、それを待っていたかのように悠然ゆうぜんと俺を乗せたまま、歩み始めた。


 それが今の状態。

 木々の間から見える行く雲を眺めつつ、俺は世の無常を感じる。


 つまり、現実逃避中。

 やがて岩場の渓谷へと到着。


 視線の先には禍々まがまがしき魔王城。

 こちらが観光名所の魔王城でございま〜す。


 ハハハ(゚∀゚)


 カバは渓谷に流れる水の中に入り水を飲むカバ。


 こうしてみると魔獣も生物なんだね?

 ポケ〜っと今更ながらに思う。


 おや?

 川の向こうから、どんぶらこっこ、どんぶらこ。


 木にしがみついた状態で、ゆっくり流れてくる女がいるではないか。

 目を閉じているのでしがみ付いているのは無意識かな?


 女と木はカバ魔獣にゆっくり当たるが、カバ魔獣は動揺しない。

 それが気にならないほど巨体なのもあるが。


 穏やかな魔獣って初めて見たぞ?

 果物食うまで荒れてたから、たまたま腹いっぱいなだけかもしれないが。


 俺、頑張って女を引き上げる。

 男ならそのまま流した。

 断言する。


 俺の感覚でAランク。

 美女に値。


 Sランクには鍛えればイケる!

 成長性あり!

 魔力が洗練されれば洗練されるほど美しくなっていく、男も女も。


 悔しいかな、だからNo.1はあれほどイケメンなのだ。


 だがこの女、メメともNo.8ともエルフ女ともタイプの違う綺麗系のため、ゴンザレス許容範囲!!


 キター! やったぞーー!!!


 もうね……A級でも少し前の俺から見たら、雲の上の存在だった筈だけど、なんでこんな身体になっちまったんだ……。


 身の丈を超えた幸運は不幸ということか。

 それでも飛びついてしまうのが人のサガなのだ。


 ……だから仕方ない。


 川流れ女の様子を確認。

 おや? この女、見たことあるぞ?


 あの頃から比べて随分綺麗になっているが。

 ……女Bだ。

 ……名前覚えてねぇや。


 とりあえず女Bはただ気絶しているだけなようだから、人口呼吸と称して口付けをしておこう。


 役得役得。

 いっただきまーす。


 む〜っと口をタコのように伸ばして、麗しのA級女に……。


「うう〜ん」


 ちいい!! お約束のようにここで気付かれたか!

 おのれ、お約束!!!


「きゃー!」

「ひでぶ!」


 女Bから繰り出される見事な右ストレート!

 あんたエルフ女と世界を争えるぜ?


 こうして俺は何日かぶりに眠りについた。

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