第92話ゴンザレスとゲシュタルト⑤

「皆の者! 今回は我らのために、総司令官殿が出陣してくれたぞー!」


 おー!!! と野太い歓声が上がる。


 出陣してくれたじゃねぇ!

 させられてるだけだ!


 しかも木に括り付けられて、王女の愛馬の上で。

 これ、出陣と言わない。


「かつて我がゲシュタルト連邦王国の聖人がこのように木に自らを縛り、不退転の覚悟で持っていくさに出向いたと言われております」


 一緒に綺麗な馬体の馬に乗る麗しきS級王女。

 凛とした雰囲気出してるけどさぁ……。


「それって囚人だっただけじゃないの?

 その聖人も生命の危険があるのに、よくやったな?」

「そのままヴァルハラまで突撃したと言われております」


「死んでるじゃん、その聖人!?

 ヴァルハラってあの世のことだよね?

 そうだよね!

 離せー! 俺は生きるんだーー!」


 ジタバタと縄を抜けようと暴れる俺に、王女様は見惚れる笑顔で言った。


「その時は私もご一緒致しますので、ご安心を。

 キャッ♡ 言っちゃった!」


「嬉しくねー!!!!!

 かつてこれほどまでに、S級美女に言われて嬉しくない告白も初めてだァァアアア!」


 常識は!

 常識は何処へ行った!


 俺の常識の守護者エルフ女!

 帰って来い!

 逃げたの俺だけども、それでもだ。

 俺の代わりにコイツらにツッコミ入れてくれ!


 ツッコミ疲れた!


「全軍突撃ー!!」

「突撃じゃねぇ! 誘い込め! 魔獣相手に突っ込むなぁぁああああ!!!!」


 初撃だけは突撃をかまし、その後、興奮する魔獣を引き連れ罠の方に誘導。


 王女様は馬を上手に操り、落とし穴の上をジャンプで飛び越える。


 すげぇな!!

 乗馬は天才的な腕前だ。

 あと問題は頭の中身だけだ!


 後ろから追ってくる魔獣は、大量に仕掛けたいくつもの落とし穴の中へ。


 それを上から弓やら槍やら丸太やら。

 油もかけてトドメに火矢。


 これには流石に、頑丈な魔獣も耐えられずに美味しい焼肉へと変わる。


「「「えいえいおー!」」」

 勝鬨を上げるゲシュタルト軍。


「いーから、一旦退くぞ!

 まだ第一陣が終わっただけだ。

 次々来るぞ。


 今、突撃した奴らは後退して休む!

 魔獣は夜とか関係ないぞ!

 急げ!


 ……っていうか、なんでマジで俺が指揮してんだよ! おかしいだろ!?

 誰か居ないの? ねぇ!?」


 居るだろ、誰か!?


 詐欺師よりマシなの、この世には沢山……いねぇのか!?

 詐欺師って人間のクズだと思ってたけど、実はこの世はクズより下しかいねぇのか!?


 頑張れよぉぉお!

 皆もっと頑張れヨォー!

 夢見てねぇでよ!

 何も考えず生きるのはやめようぜ……。


 あ、今、思い当たったやつ。

 分かったら俺の代わりに総指揮官になろう!

 責任は取らんがな!


「はっはっは。

 我らは突撃において誇りを持っております。

 兵の1人に至るまで物事考えて突撃など致す筈もありません!

 ムキッツ!」

 マッチョ爺さんは馬の上でポージング。


「考えろやァァアアアアア!!!!」


 拝啓、俺の常識の守護者エルフ女。

 脳筋だと思ってたゲフタルの奴らは、コイツらに比べれば超知的でした。

 俺の代わりに早くツッコミしてあげて下さい。

 かしこ。


 追伸、あと俺は隙があったら逃げるから、後よろしく。


 俺は括られたまま遠い目をして、何処かに居るエルフ女に心で手紙を送っておいた。


 このー思いがー届くようにー。






 連日の魔獣の侵攻だが、どうにか罠と街の人も使った人海戦術、おまけに騎馬突撃が効いてゲフタルと結ぶ陸路は確保された。


 援軍も至急送ってくれるらしく、さらには一両日中には海路からも援軍が間に合いそうらしい。


 その報告を聞き俺は深く頷く。


 よし! 逃げよう。

 これ以上、こんなところに居てられるか!


 俺はゲフタルに戻って、アイドルのエッリンちゃんを口説くんだ。


 夜半にこっそり城を抜け出す。

 ひろ〜いお部屋でひろ〜いベッドでは、『なんでか』王女様もスピスピ寝てるよ!


 言っておくが手は出してないぞ!

 S級美女だけど我慢したぞ。


 すげぇぜ、ゴンザレス。

 驚異的な忍耐力だ。


 ちっくしょう……手を出したかったなぁ……。

 ほんと……血に涙出そうだ。


 ほんのちょっとでも触れたら、俺のゴンザレスはゴンザレスになっていただろうからな。


 ほんの少しでもシュナに触れようと、荒れ狂う闇の右手を抑え込むのは大変だったぜ?


 へへへ……、分かってるからな。

 既成事実がついた瞬間、俺このゲシュタルトの王にされちゃう。


 何を言っているか分からねぇと思うだろ?

 へへへ、安心しな。

 俺にも分からねぇ……。


 嘘だ。

 理解したくねぇ。


 マッチョ爺さんとかもシュナの部屋に俺を放り込んで、王冠を片手に持ちサムズアップしてたんだ。


 明日には戴冠式ですな、ムキッとか言いやがって……。


 俺って、詐欺師だったよね?

 誰か俺を詐欺師と認めて?


 決して何処かのNo.0でもないし、公爵様でもないし、何処かの総司令官でもないし、王にされかけたりもしないよね?


 しないと言ってくれよーー!!!


 現実に、打ちのめされながら俺は正門も抜け出す。


 ごめん、嘘。

 普通に見つかって、特殊任務と言ってついでに馬借りた。

 返さないけど。


 衛兵に並ばれて敬礼された。

 涙ながら返礼しておいた。









 そして……今、大量の魔獣に追いかけられています。


 俺は! 俺は生きるぞーーーーー!!!!

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