第88話ゴンザレスとゲシュタルト①

 どうもアレスです。


 何処へ行くかって?

 クックック、辿り着いてのお楽しみってやつさ。


 とにかくヤツらが、ヤツらが来る!

 捕まればS級美女による至れり尽くせり尽くせりの晩餐の後、魔王様に突撃させられる!


 おおお、俺は生きるぞぉぉおお!!!


 そんなわけでゲフタルの地を抜けて次の新天地へ向け旅立つわけですが。


 こんな魔王様に支配されそうなゲシュタルト連邦王国で1人ヒョコヒョコ歩いていると、魔獣に襲われてサヨナラしてしまうので、商隊に紛れ込んでいます。


 いや別に詐欺って入った訳じゃ無いぞ?

 詐欺って、飯食わせてもらってるけど。


 何を言ったかって?

 いえいえ、新しい商売のネタの話ですよ?


 これでもわたくし、ゲフタルで新しい商売と新技術を提供しましてね?

 その情報を売ったのですよ?


 クックック、俺だけが知る独占技術、美味い美味すぎるぞ!


 ゲフタルは情報を拡散してないようでボロ儲けよ。

 路銀も貰い馬車にも同行、飯の提供をしてもらう。


 素晴らしい! 素晴らしいぞ!

 ありがとうコルランのバグ博士!

 俺の活躍を草葉の陰で喜んでくれているはずだ!

 死んでないけど。


 商隊の交易品の本も品定め、何冊かは提供してもらった。

 大盤振る舞いね? いいの? いいなら遠慮なくもらうよ?


 あれ? 俺、詐欺せず普通に情報を売っただけ?

 いやいや、詐欺師の俺がまさかぁ〜。


 ……あれ、詐欺ってどうやるんだっけ?






「ほほう? では、あんたは毒に耐性があると?」


 俺はその男にそう尋ねた。

 同行した商人の護衛の中に変わった男がいたのだ。


「ああ、昔から毒虫とかも平気だし、蛇に噛まれてもこの通り5体満足だ。

 ……しかし、今回の護衛は楽だな。

 魔獣とろくに遭遇しねぇや」


 身体付きの良い、筋肉マッチョである。

 毒が効かないらしい。


 ほほう? キョウちゃん的に言うスキルがあるのかもな。


 そんな話もしつつ、次の街まで後1日の距離。


 ただゴンザレス、最近学んだ。


 この、後もう少しって時に大体、何かある。


 こういうの知ってる。

 フラグって言うの。


「魔獣だー! 先頭のビーターが噛まれたぞ!!」


 筋肉マッチョが前方へ走る。

 俺! 隠れる!


 ……程なくして、無事、魔獣は討伐された。

 でっかい蛇の魔獣。


 うぇえ、俺、蛇嫌い。

 密林でも1番蛇を警戒した。


 美味いらしいけど。


「コイツ毒があるぞ! おい! あんたも噛まれてたけど平気なのか?」

「ああ、俺は耐性があるから平気だが……」


 筋肉マッチョはダラダラ血の出る腕の傷に唾をつける。

 かすった程度のような扱い。


 ワオ! ワイルド!

 どうでも良いが。


 奴隷にしたら売れそうだな。


 1人地べたでビクンビクンしている奴が居る。

 ビクンビクンよ?

 もちろん興奮している訳じゃないよ?


 最初に噛まれたビーターって奴か。

 尊い犠牲だ。

 俺ではなくて何よりだ


「ビーター!! 誰か! なんとかしてくれ!

 コイツ、ゲシュタルト王都に帰ったら祝言を挙げるはずだったんだ!」


 そりゃ、ご愁傷様。

 俺、帰ったら結婚するんだ、だな。

 それはフラグの中でも、特級の呪いの言葉だな。


 住所教えてくれ、そいつの嫁をベッドで慰めるから。


「頼む! 誰かなんとかしてくれ! 金は幾らでも払うから!」


 何! 貴様! それを先に言え!!


 周りはそれを聞いても、首を横に振るだけ。

 それはそうだ。


 余程の例外、筋肉マッチョみたいな毒の効かない奇跡でもない限り、毒蛇やサソリ、毒ガエル、毒蜘蛛などの危険生物の毒は優しくはない。


 それが魔獣なら言わずもがな。


 俺は進み出る。


「失敗しても恨むなよ?」

 これ大事。


 医者とかでも必死に助けようとして頑張っても、それでダメだったら家族から恨まれるなんてザラにある。

 そんなのやってられんからな。


 クックック、丁度読んでた本に書かれていた内容を実験して見たかったのだ。


 じつーに幸運だ。


 ゲシュタルト連邦王国に連れて来られて散々だったが、ツキが向いてきた。

 ゲシュタルト連邦王国には美人が多い。


 きっと都会の街なら、飲み屋の姉ちゃんで俺のお眼鏡に叶う美女もいるはずだ。

 これで儲けて遊ぶぞ〜。


「おい、あんた。血を分けてくれ。その怪我から取れる分でいい」

 筋肉マッチョに声を掛ける。


 戸惑いつつも俺に怪我をした腕を差し出す。


 商会の中にある器を貰ってその中に血を入れる。

 おお、それなりにくれた。


 あんた大丈夫?

 血の気が多いから大丈夫?


 え!? そんなもん?


「誰か魔力の扱いの得意な奴!」


 筋肉マッチョが1番魔力操作が得意らしい。

 便利な奴だ。


 筋肉マッチョに器に入れた血を凍らせ、さらに魔力を当てさせながら、撹拌、要するに回転させる。


 それを上澄みだけ飲ませる。

 それなりの量だなぁ。


 ビクンビクンしてるけど飲める?


 あ、飲めるんだ、君ら何気に凄いね?

 色んな意味で。


 しばらく様子を見ていると、ビクンビクン男はだんだん静かになった。


「あれ? 死んだ?」

 思わず口にしてしまったが、男の相棒が確かめてみると眠っているだけとのこと。


 いやぁ、良かった良かった。

 あ、謝礼頂戴ね?


 ビクンビクン男を馬車の荷台に乗せて、俺たちは移動を再開。


 無事、街に辿り着いた。








 この時、とある詐欺師は自らの欲望と知的欲求を満たすことしか考えていなかった。


 ゲシュタルト連邦王国には、危険な動植物の毒に対する治療法は確立されておらず、数人の研究者が試行錯誤して、本に書き留めているに過ぎなかった。


 なのに、この男は野外でそれも大した道具を使わずにそれをやって見せた。


 そのことにその場に居合わせたものが何を思ったか。


 また、詐欺師がその商会に告げた魔獣を利用する素材の情報は、ゲシュタルト連邦王国では、『研究すらされていない』画期的な方法である。


 それを告げた銀髪の男を見て何を思ったか。


 聡明なる者たちは気付いたはずだ。


 ゲシュタルト連邦王国には、No.0の話は多くは伝わっていないし、信じられてもいなかった。


 だが……。


 この日、ゲシュタルト連邦王国の者たちは震撼した。


 酒場の冗談話とばかり、だと思われていたNo.0が実在したことに。


 そのことに気付かぬのは、とある詐欺師、のみである。


 つまり、この男。


 またやっちゃった。

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