第87話ゴンザレスと連邦王国⑦
数日後、ゲフタルの地に魔王討伐軍が姿を見せる。
ゲフタルの地に入るや否や、亜麻色の髪の美女が叫ぶ。
続いてやっぱり美女の茶色の髪の女性も一緒に叫ぶ。
「アレス様ー! アレス様はどこー!! アレス様を出せー!」
「ご主人様ー!」
その後ろからエルフのこれまた美女が、呆れた顔をしながら2人を
「はいはい、落ち着きなさいよ。ちょ、ちょっと剣振り回さない!
なーんで、あんたらあんなのに、引っ掛かるかねぇ。ダメンズ好き?
キョウは悪い男に引っ掛かたらダメよ?あんたメス堕ち……おっと」
「師匠、僕男です。
あと、危ないこと言いかけませんでした?」
明らかに危ない言葉を言われかけた美少女は、へにょっと困り顔をする。
シュバインたち8勇士の元に姿を見せた、やたらと騒がしい一団。
「お初にお目にかかります。帝国皇女カレン・シュトナイダー、世界ランクNo.2です」
優雅な礼でカレン姫がまず挨拶。
その後ろには前髪を巻いた綺麗な女性も綺麗な礼で。
それが済むと騒いでいた集団も次々挨拶。
「それでNo.0は?」
1人だけ居る男性が世界ランクNo.1ハムウェイなのだろう。
ハーレムチームと呼ばれることもあるが、そんな雰囲気は感じないなとシュバインは思う。
ドリームチームは1人以外、噂通りの美女チームだ。
それはつまり、それだけの魔力が洗練された強者の集団とも言えた。
全員が自分と同等以上の強さを持っていることが分かる。
恐ろしいものだ……。
まともに戦えば、一瞬で蹴散らされることだろう。
それだけにそれを撃退して見せたゴンザレスに、初めて底知れないものを感じた。
シュバインたちは、ゴンザレスの策を『そのまま』実行したにすぎないのだから。
「さあな。
残念だがアレスという者はここには居ない」
「そんな!」
亜麻色の髪の女がショックを受ける。
「落ち着きないイリスさん。では銀髪の男性は?」
茶色髪の女がシュバインに尋ねるが、告げられた容姿に思い当たる人物は1人だけ。
「ゴンザレスと名乗る男が1人」
「何処へ?」
「去った」
「そんなー!! すぐ追いかけましょう!」
「慌てない、そんな簡単に見つかんないから」
「羨ましいなぁ〜、No.0。美女にこんなに好かれて」
「フフフ、No.0……今に見ていろ」
本当に元気な一団だ。
それを楽しそうに笑顔で、眺めるカレン姫にシュバインは尋ねる。
「ゴンザレスが……No.0が本当に魔王討伐軍のリーダーなのか?」
「ええ、本当ですよ? 信じられないですか?」
シュバインは頷く。
あの男は知恵はあったが、戦闘については強いと言えない。
カレン姫は何かを思い出すように言葉を続ける。
「本当ですよ。
私はもう少しでNo.3と同様に、グレーターデーモンに殺されるところでした。
それを救ってくれたのが、彼でした。
ですよね? メリッサ」
メリッサと呼ばれた茶色の髪の女は頷く。
「ええ、彼はカレン姫様が気を失われた後、冷静に私を誘導して、毒の沼にグレーターデーモンを誘い込み一撃。
どのような一撃だったかは確認出来ませんでしたが、彼があの瞬間何かをして激しい爆発音の後、グレーターデーモンが消し飛びました。
その後、森を数十万の魔獣ごと焼き払い、帝国を救いました。
……全て魔力を使わず」
シュバインは遠目に、No.3がグレーターデーモンにやられるところを見ていた。
その圧倒的な恐怖も。
No.3を殺した後、グレーターデーモンはすぐに姿を消した。
恐らく転移したのであろう。
お陰でシュバインはまだ生きている。
「あのゴンザレスが、なぁ……」
ゴンザレスはNo.3の仇を取ってくれた。
そして思う。
あの男ならば、やるかも知れないと。
それだけゴンザレスがゲフタルの地でやらかした出来事は、シュバインたちにとって衝撃的であった。
本人だけは自分がやらかした事に気付いていないようだったが。
茶色の髪の女メリッサは微笑む。
「ですから我々にはあのお方の力が必要なのですよ。
魔力以外の力を持つあの方が」
シュバインはそこに深い信頼以上のものを感じ取ったのだった。
この日、ゲフタルの地の者は知る。
伝説の存在No.0の力を。
それはゲシュタルト連邦王国にいかなる結果をもたらすのか、それはまだ誰も知らない。
世界ランクを刻む世界の叡智の塔。
そこには未だNo.0という番号は、ない。
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