第86話ゴンザレスと連邦王国⑥

 由々しき事態である!


 シュバインにNo.0であると完全に誤解されてしまった俺は、奴らドリームチームが迎えに来てしまうまで監禁されるという事態になってしまった!!


 このままでは奴らが! 

 奴らが来てしまう!

 俺史上、最大級のピンチである!!


 ……ピンチ多くない?

 こんなもん?

 真面目でチンケな詐欺師だというのに何故だ!


 うんまあ、詐欺師だからと言われればどうしようもない。


 俺は閉じ込められた部屋のベッドで、ゴロゴロしながら考える。


 最初に言っておこう。

 会うのが嫌なわけでは無い。


 最近はNo.8も切りかかってくる様子もなく、No.0では無いとバレさえしなければ至れり尽くせりのお世話までしてくれて中々悪くない、というか良い。


 メメも言わずもがな。

 ちょっとS級美女からの理由不明のご奉仕に根源的な恐怖があるだけで。


 だが、だがである。

 そもそもゲシュタルトに連れてこられた理由が魔王退治である。


 ねえ? 知ってる?

 魔王様ってNo.1より強いんだって。

 世界の叡智の塔が教えてくれているの。


 そんな魔王相手にあんたらはただの詐欺師に何をしろと?


 死ぬわ!!


 そんな訳で、なんとしても逃げなければならない。


 これはリアルに脱出である。

 なあに、ゲームみたいなものだ。


 窓、無い。

 部屋、四角い。

 壁、コンコン、硬い。

 ベッド、寝れる。

 扉、ガチャガチャ、鍵掛かっている。

 扉に小窓はあるが鉄格子付き。


 ……出れなくね?


 ゲーム終了。


 とりあえず、誰か呼ぼう。


「おーい」

「なんだ?」

 シュバインの弟のゲーリッヒが小窓から顔を出す。


「出してくれ」

「ダメだ」


 返事はえーな、期待してなかったけど。


「せめて何か本とか無いか?」

「本自体がそんなに無いからなぁ」


 知ってる。

 あっても熟読済み。


「大体、何日待つんだ?」

「さあ? 連絡はしているから2、3日じゃないか?」

「シュバインと話したいんだがいいか?」


 肩をすくめながらも呼んできてくれるようだ。


 力技では無理なので、こうなったらやはり口でなんとかするしかない。


 俺は……生きる!


 魔王討伐なんか連れて行かれたら間違いなくおしまいだ!


「なんだ?」

 シュバインが顔を出す。


「そもそもだ。俺をあいつらに渡して、シュバインたちになんの得があるんだ?」


 無いよね?


「……まあ、特に無いな。

 No.0だからと言って、ゴンザレスが俺たちに不利益をもたらしたわけでも無いからな」

「じゃあ、逃して?」


 ふーむ、と悩む様子。

 お、脈ありか?


「ダメだな。貴様は何をするか分からん」


 小窓を閉めようとするシュバインに、内心は焦りつつも落ち着いた声で語りかける。


「まあ、落ち着けよシュバイン。

 大体、俺の何を恐れるってんだ?

 そもそもがそのNo.0自体が誤解だってのに」


「……だったら」


 そのシュバインの言葉に上から被せる。


「だったら、アイツらにそう言えばいいと言うんだろ?

 話が通じなかったから俺はここに居るんだぞ?

 シュバインも知ってるだろ?

 俺に強さなんてモノはない。

 魔王討伐なんかに連れて行かれたら、間違いなくそこでお終いだ。


 なあ、頼むよ。

 これでもゲフタルのために尽くしたと思ってるんだ。

 逃げるのに協力しろなんて言わない。

 見逃すだけでいいんだ。


 後は俺とアイツらだけの問題だからな」


 シュバインはまたふーむ、と悩む。

 実際、俺は俺が生きるためではあったが、ゲフタルのために良い知恵を出したと思っている。


 これでダメならトイレに行った際にトイレから脱出……ダメだ、俺にそんな根性はない。


 脱獄王の本だと、トイレやら煙突やら様々なうぇっと思う場所から逃げ出しているが俺は無理!


 やがてシュバインは一つ頷き扉を開ける。


「分かった。

 ゲフタルは恩知らずでは無い。

 ゴンザレスがゲフタルに実りをもたらせた分、見逃すこととしよう」


「恩に着るぜ! シュバイン」

 恩はすぐ忘れるけどな!


 あと、恩知らずじゃないなら最初から閉じ込めるな!!


 そうして、俺はシュバインに片手で挨拶をして監禁部屋から出る。

 さらに口八丁手八丁。


 魔獣素材の発明したコルランには退職金なる風習があって、それでお互いの過去に何かあっても水に流すのだと言って、退職金として銀貨5枚をせしめた。


 当然、そんな風習などない。

 太古の文献にそんなのがあったとかなかったとか、言葉だけが存在してサラリーマンなる人種を働かせていたとか、そんな説があるのみ。


 クックック、旅の路銀ゲット。


 そのまま寝床にしていた場所から荷物をささっと取り、誰に挨拶をするでもなく颯爽とゲフタルの地を後にした。


 あばよ!

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