第85話ゴンザレスと連邦王国⑤

 あの後、見事、魔王討伐軍もといゲシュタルトを撤退に追い込んだことで、ゲフタル陣営は勝利に沸きに沸いた。


 そのまま酒盛りに入り、アイドルのエッリンちゃんにもほっぺたにキスを貰い、野郎どもに大いに羨ましがられた。


 問題は数日後に分かった。


「ゲシュタルトがかなり追い込められているらしい」

「へ?」


 突然のシュバインの話に俺は首を傾げた。


 この間の戦いで、魔王討伐軍のドリームチームを追い返しはしたが、押し返しただけで当人たちは元気いっぱいのはずだ。


 その彼ら彼女らが居ながら追い込められる意味が分からなかった。


 そういう話になったのは皮肉ながらドリームチームの敗北。

 魔獣にも常勝、ゲフタルにもその武威を見せつけるかと思いきや、敗北。


 そのことに1番の衝撃を受けたのは、他ならぬ魔獣侵攻の最前線で戦う兵士たち。


 今までは魔王討伐軍の無敗神話が信仰となり、兵は勝利を信じて戦うことが出来ていた。

 それが敗れた。


 同じように魔王にも敗れてしまうかもしれない、そう考えてしまうのも無理からぬこと。

 その結果、士気は下がる一方となった。


 これはゲシュタルト上層部の明らかな失策であるが、それを想定しろというのは難しかった。


 世界ランクナンバーズは文字通り化け物たちである。

 その現存する全てのナンバーズを集めたドリームチーム。


 誰が負けると思うだろうか?


 つまり、ゴンザレスやっちゃった。

 てへっ♡


「え!? それマズイんじゃね!?」


 俺は今更ながら事態に気付く。


「ああ、マズイ。

 ゲシュタルトが敗れると次は当然、ゲフタルだ。

 しかしゲシュタルト側ももう少し考えていると思っていたが、魔王討伐軍が敗れるとはカケラも思っていなかったようだ」


 そりゃそうだ。

 世界最強ドリームチームだもの。


 やっちまったーやっちまったー。


 えー、だってさー、横暴だろ〜?

 No.1なんてイケメンで強くて、パーミットちゃん捕まえてドリームチームのリーダーだろ?


 ムカつくでしょ?


 だから俺は悪くない!

 悪くないったら、悪くないんだー!!!


「そんな訳で、なんとかゲシュタルト側に頑張ってもらわねばならん。

 全く相手の横暴な要求を突っぱねたら、こんな目に遭うとはな」


 俺もシュバインの言葉にしきりに頷く。

 そうそう、シュバイン分かってるじゃないか。


「そういうことで、目端の利くゴンザレスに調査に行って貰いたいのだ。

 上手くいく方法があるなら実行してもらっても構わん」


 了解。

 まあ、あいつらドリームチームには魔王を討伐してもらわないと、気軽な詐欺生活も出来ないしね!




 そうして早速、俺はゲシュタルト側の街に移動を開始した。


 酒場で情報を集めようと俺は酒を注文。


 なんと素晴らしいことに今回は任務込みなので、金はシュバインたち持ちだ。

 安心して使い切ろう!


 酒場では情報を集めるまでもなく、魔王討伐軍敗北の噂で持ちきりだった。


 魔王討伐軍ではなくドリームチームが敗北しただけだけど、まあ一緒か。

 ある程度情報を確認した後、行動を開始。


 早速、商人風の男たちのところに近寄り、話に興味がある風を装い話に混ざる。


「そう、それ。

 いや実は俺、ゲフタル側から行商中なんだけどよ?

 あっちで聞いた話と結構違うぜ?」


 旅の情報網というのは侮れず、下手な国のプロパガンダやニュースなどより、こういった街の方が正確な情報が手に入ることがよくある。


 例えば盗賊がどこで出るか、誰に話を通しておけば良いか、とかな。


 つまりここで流す情報は適当なものではなく、より真実に近い方が広まりやすいということ。


「結局さ、ゲシュタルトの上層部がこんな時だって言うのに、人同士で武力でどうこうしようとしたのがおかしくて。


 今回はそれにゲフタル側が抗議したってだけなんだよ。


 その証拠にほら、敗北したっていうドリームチーム、誰も酷い怪我とか一切無いだろ?


 つまりさ、敗北とかじゃなくて納得して帰っていっただけなんだってさ」


 この話の中に嘘は一つもない。


 ドリームチームが酷い怪我をしてるかどうかは知らんが、あんな罠で奴らがそんな怪我をするわけが無い。


 奴らは全員化け物だ。


 人は話の中に、落とし所を求めてしまう生き物だ。

 ましてや絶望的な話より、自分に都合の良い話の方が断然信じやすい。


 何故なら信じたいから!


 そうやって街を回り、俺は自慢げにその話をしていった。


 時には、

「No.1が崖から落とされたと聞いたぞ!」

 などと反論もあったが、猿も木から落ちるように、イケメンだって崖から落ちることもありますよ? そう反論しておいた。


 え? 反論になってない?

 良いんだよ、イケメンを擁護しなくても、ドリームチームの美女たちは崖から落ちたりしてないだろ、と話しておいた。


 ほとんどの人は現場なんて見てないしな、言いようはいくらでもある。

 何より事実だ。


 そうしてある程度街を回りそんな噂話を広めた。

 すると徐々に前線の士気が回復して戦線を押し返していると噂が流れて来た。


 俺の任務も終わりと言うことで。

 それからは適当にぶらぶらシュバインから預かった金で遊び歩いて、ゲフタルの地に帰った。


 ゲフタルに帰るとシュバインが出迎え、開口1番にこう言った。

「どう言うことだ?」

「何が?」


 話を聞くと、こうだ。

 始めは俺が流した噂の通りゲフタル側がゲシュタルトに抗議し、それを受けて魔王討伐軍が退いただけという噂だった。


 次第に銀髪の男がそれを話していた、と加わり。

 ドリームチームを追い返したのは本当だ、が加わり。

 それは徹底的に考えられた策によって、とまで加わる。

 さらには魔獣も操り、ときて。

 そんなことが出来るような存在は……。


「世界ランクNo.0しかいない、と」

 シュバインが無感情な声で言う。


 俺は我知らず首を横に振る。


「さらにその銀髪の男が言うならば、それは事実で彼はドリームチームを追い返せる力を持っている、と。

 ドリームチームの全員が認めたらしい」


 ドリームチーム、つまり世界最強の奴らが自分達より上の存在がいると認めたと。

 認めたら、アカン!


 まとめると最終的に俺の噂はこうなった。


『世界ランクNo.0がこんな状況で人同士で争う愚を諌めるために、化け物集団であるナンバーズたちのドリームチームをボコボコにして追い返した。

 なお、No.0は彼ら魔王討伐軍のリーダーである』




 ジリジリとシュバインはにじり寄り、俺は涙目でジリジリと下がる。


「ゴンザレス……貴様、No.0だな?」


 シュバインの威圧に俺は、必死に首を横に振り否定するのであった。

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