第83話ゴンザレスと連邦王国③

 世界ランクNo.1ハムウェイと魔王討伐軍は、ゲフタルが収穫地に定めた天然の要害の前にいた。


 ハムウェイも遅ればせながらどうにか海を渡り、魔王討伐軍として組織された軍に合流した時、そこにNo.0は居なかった。


 よってランク上、暫定的にハムウェイがその軍のリーダーとなった。


 もっともNo.2以下、他のメンバーが魔王討伐軍をNo.0の軍であることを譲らず、あくまで暫定リーダーではあるが。


 そうは言っても彼女らも別段、戦闘時に反抗したりする訳ではなく、その指揮には大人しく従った。


 大軍を指揮した経験のある者がNo.1だけだったのもあるし、結局のところナンバーズの集まったドリームチームは強く、魔獣に決定的な勝利は得られていないものの、向かうところ敵なしではあった。


「ゲフタルの者たち! 聞こえるか! 僕は世界ランクNo.1のハムウェイだ!」


 最大部族といえどゲシュタルト一部族だけではやはり魔獣戦は厳しく、いくら個々で魔王討伐軍が勝利しようとも数で押し返されてしまっていた。


 そこでゲフタル、グリノアの2部族をなんとか動かそうとやって来たのだ。


 相手の出方次第ではあるが、力を見せる必要があるならばそれすらも選択肢にして。


 これにはゲシュタルト連邦王国全体としての風土の問題もあった。


 一言で言えば、強者に従う風土である。

 海であろうと山であろうと自然の猛威を乗り越えるために、強きリーダーが求められたのだ。


 故にNo.3が存命の頃は、ゲシュタルト連邦王国は問題を抱えながらも表面上、上手くいっていたのだ。


 そのような事情もあり最大戦力である魔王討伐軍にお鉢が回ったということだ。


 事実上の世界最強のドリームチームである力を持ってすれば、ゲフタルとグリノアもいつまでも強硬な態度では居られない、そう考えられた。


 ドリームチームも人同士の争いに難色を示しはしたが、戦いにより強きことを示すのがゲシュタルト連邦王国の気風であること。


 さらにはここで弱腰になれば、ゲフタルとグリノアを味方につけるどころかゲシュタルト内部での信用も失うと言われればそれを無理に逆らうことは出来なかった。


 魔王討伐にあたっては、今ですらドリームチームと魔王討伐軍が全力を出しても、ゲシュタルトへの侵攻を食い止めるので精一杯だったのだ。


 勝利にはなんらかの変化を必要としていると同時に、時間が経つごとに追い詰められている焦燥感が彼らの中にもあったのだ。


 だが、ここでゲフタルが出した答えは、帰れの一言だった。


 同行していたゲシュタルトの者はこれには流石に首をひねった。

 3部族は仲は悪くとも相手を認めていない訳ではない。


 むしろ誰よりもその力を認めていると言って良かった。


 戦力の差が分からぬ程、愚かではないはずなのだ。

 不思議に思えど、はい、そうですか、と簡単に引くわけにはいかない。


 互いの武を認め合うが故に勝つ負けるではなく、ここで力を示さないのはドリームチームに告げたようにゲシュタルトの士気に関わるのだ。


 そして、その渓谷を挟んで互いに弓矢の応酬から始まった。

 流石に土地の利はゲフタルに軍配が上がった。


 いいや、それだけではない。

 まるでこちらが狙われると嫌がる場所が見えているかのように、実に的確にその箇所を狙ってくるのだ。


 ドリームチームを唆した軍司令の1人ゴドワルドは無能な男ではない。


 ゲシュタルト連邦王国の総司令官ケーロット伯爵の片腕にして、1の智将であると自負があった。


 その実、性格の悪さもNo.1であり、今回ドリームチームを唆す策を直接ケーロット伯爵に提案したのも彼である。


 もしも、あと数年魔王騒動が勃発しなければ、総司令官であるケーロット伯爵を唆し、ゲシュタルト連邦王国と麗しきシュナ第3王女を我がモノにしようと動き出していたことだろう。


 その彼をして、ゲフタルの作戦指揮官はよほど性格が悪いと言わざるを得ない、嫌らし〜い戦い方だ。


 あっちと思えば、そっち。

 そっちと思えば、こっち。

 まるでこちらの心理を読み切っているかの如く、背後から攻撃されて後ろを振り向いた瞬間横から弓矢が飛んで来たり。


 背後から鬨の声が聞こえたと思ったら、上から石が降って来る。


 ゲシュタルト連邦は正面から武勇を見せることこそ誉れ、それを見事に裏切って来るのだ。


 ゴドワルドは性格も性質も良くはない、はっきり言って悪質だが、それでも武人のつもりだ。


 そうでないとゲシュタルト連邦王国ではモテないからだという理由はあれど、武人なのだ。


 少なくともこの指揮官は武人ではない!


 ゴドワルドがその答えに行き着いた時には、すでに遅かった。


 いつの間にか誘い込まれた崖の下で、ついに落石に巻き込まれ、ゴドワルドはその野望と共にプチっとイッテしまわれた。


 もしも何処ぞの詐欺師がそんな彼のことを知っていれば、こう言ったことだろう。


 つくづく悪いことはするもんじゃないね、俺以外。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る