第81話ゴンザレスと連邦王国①

 どうも〜、アレスです。

 詐欺師ですよ?

 No.0でもなければ公爵様でもないからね?


 今、屈強な白髪マッチョの男共に囲まれております。


「ではゲシュタルトからのスパイではないと?」


 ゲシュタルト連邦王国は3部族による連合体だ。

 盟主部族のゲシュタルト、今は滅びた古都を持つグリノア、そして俺が取っ捕まっている山岳と海に囲まれたゲフタルである。


 3つは形式上連合体でこそあるが、仲は決して良くない。


 ブンブンと首を縦に振る。

「知らない、知らない。

 ここには船から落ちて彷徨ってたら辿り着いただけだから!」


「今、海は魔獣の巣窟だ。

 そこから来たなどと怪しい限りだ。

 兄者、怪しきは罰するべきではないか?」

「ふーむ、それももありなん」


 然もありなんってどういう意味だー!

 処刑ダメー!

 処刑待ったー!


 俺は自由になる首だけを横にブンブンと振る。


 考えろー!

 考えろーー!!

 生き残る手段を考えろーー!!!


 キュピーン!


 その時、俺の頭の中に星がきらめいた!


「俺、実は世界ランクNo.0なんだ!」

「嘘つけ」


 そうだよなぁ!

 それが普通だよな!!


 弟らしきマッチョが青龍刀を煌めかせて俺に近づく。


 ひえー!


「まあ、待て。

 戯れ事はともかくその無様な様子、スパイというにはあまりにも有り得なさすぎる。

 貴様、真に海から来たというならどういう風にやって来た?」


 兄者と呼ばれたマッチョが弟らしきマッチョを止める。

 俺は生きるために思い出せる限りの状況を伝える。

 唯一、俺がよく分からないVIP待遇であったことを除いて。


「……成る程。

 確かに50隻ほどの大艦隊がゲシュタルトの港に寄港したとは聞いている。

 余程、無茶をしたらしくぼろぼろの様子だとか。

 名だたるメンバーもコイツのいう通りだ。


 ……ただ1人、そ奴らのリーダーだけは姿を確認出来ていないようだったが、お主の話ではそれが誰かは知らないのだな?

 噂では世界ランクNo.0というらしいが?」


 し、しまった!?

 ここで余計な名前を言ってしまった!


 言わなければ、ただの船乗りと思ってもらっただろうに!

 ……思ってくれたかな?


 そのまま首チョンパだった気もする。


 ここは正直に言っておこう。

「世界ランクNo.0は見たことはない。

 ……ただ、お題目として俺をNo.0として船に拉致していた」


「貴様をか?

 それ以上の戯言は赦さんぞ?」

 弟マッチョは俺の首元に青龍刀を持ってくる。


「ほ、ほんとなんだ!

 お偉方が何を考えているかは俺には分からないけど、船に拉致されて連れてこられたんだ」


 本当だからそれ以上言いようがない。


「ふーむ。

 そいつの目は嘘を言ってはいないな。

 嘘を偽装するテクニックが無いではないが……良いだろう。

 そいつも暫く監視の上、働かせてみよう」


「宜しいので兄者?」


「うむ、魔獣の侵攻で我らも手が足りん。

 コイツの話が本当なら交渉材料に使えるかもしれんしな。


 ……だが、貴様分かっていような?

 おかしな真似をしようとしたら即座に斬る」

「はは〜! ありがとうございます!!」


 こうして、俺は九死に一生を得たのだった。


 ところでこの人たち、誰?







「あ〜、あんた。8勇士の人たちに会ったんだ?」

 洗濯のオバちゃんと横並びに洗濯しながら、マッチョ集団のことについて聞く。


「あの人たちは私たちのまとめ役でね。

 以前は世界ランクNo.3のレナード様が代表だったんだけれど、魔獣の大襲撃の時に私たちを逃して、ね……うう。


 それ以来、代表は8勇士筆頭のシュバイン様が引き継いでるのさ」


 シュバインとゲーリッヒは兄弟で、2人ともNo.3の下に付いていたそうで。

 シュバインに至ってはナンバーズに匹敵する実力とも言われ、封環にて力を抑えているとか。


 普段の風来坊状態なら、ふ〜んという感じで一切興味はないが、帝国の奴隷をしていた時と同じようにどんな情報が命運を分けるか分からない。


 得られる情報は得ておかなければならない。


「ゴンザレス! 兄者がお呼びだ」


 弟の方、ゲーリッヒとやらに声を掛けられ、オバちゃんに洗濯を任せ代表の兄者シュバインのところに出向く。


「ゴンザレス、よく来た。

 お前が提案したこの魔獣の新素材だが、検討してみたが是非使ってみたいと思う。

 差し当たりもう少し話が聞きたいがいいか?」


 俺は頷きそれについて話をする。

 バグ博士の研究はコルランの最先端技術の研究所だ。


 俺はそこの研究助手だったと話し、技術的なアドバイスを彼らに行った。


「うぅ〜む、ゴンザレスのその知識はなかなかどうして助けになる」


 シュバインたちの部族はこの険しい山岳地方特有の厳しい環境の中、どうしても技術的なものより肉体的なところに特化しやすく、頭を使った技術は苦手な者が多かった。


 No.3が生きていた頃はその頭脳はNo.3が全て賄っていたという。


 ただ技術的なものを拒否するのではなく、積極的に取り入れる柔軟な思考は持ち合わせていた。


 この背景には海を渡り奪った物を積極的に活用し、厳しい環境を乗り越えて来たのだ。


 これは今でこそ魔獣が海に溢れ海洋に出ることが困難ではあるが、元々はシュバインたちも山岳の部族であると共に勇壮なる海の部族でもあった。


 何にしろ俺は腕っ節はイマイチだが、頭脳の方で彼らの中で一目置かれるようになっていった。


 クックック、狙い通り……。

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