第80話ゴンザレス海に行く④

 航海が順調(?)だったのは、そこまで。


 ゲシュタルトに近付くにつれ、魔獣の襲撃が次から次へとやって来た。


 旗艦である俺たちの乗る船は無事だが、護衛艦については次から次へと脱落していった。


 100隻を越えた大艦隊もみるみるとその数を減らし、ゲシュタルトまでその距離を残すところ1日になると、その数は半数となっていた。


 流石にこの状態で船の甲板に出るのは無謀なので、お部屋で待機。


 戦闘要員は皆、外で戦闘中。


 つまり船室には俺1人。

 1級客室っていうの? 豪華なの。


 でも、豪華な部屋を楽しむ余裕はかけらもない。

 激しく揺れるから気持ち悪いのなんの。


 それはともかくとして……。


 外が見えない作りのはずが、今、外が見えましてわたくし魔獣さんとこんにちは、してるの。


 どういうことかって?


 船室の壁を魔獣が破りやがったぁぁぁああああああ!!!!


 俺史上、トップクラスの大ピンチ!!


 さらに激しい横揺れにより、俺は見事にその穴から船の外へ放り出された。


「アーーーーーーーー!!!!!」





 船から放り出され、海に落ちた俺だったがそこは魔獣の暴れる恐怖の海域。


 溺れる者は魔獣をも掴む。


 そこは巨大海獣の頭の上。

「ぼぶぶーぶーぶーがぼぼー!! (俺はーいーきーるぞー!!)」


 水の中を凄い勢いで泳ぐ海獣。

 その巨体は頭にくっついた粗末な存在など、気にも留めない。


 幸運にも海獣は荒れ狂う魔獣の群れから離れ、俺ごと大海の海を自由に走り抜けるのであった。








 ご主人様の居る客室に穴が空いて、ご主人様が海に投げ出された!

 それは誰からの報告からかは分からない。


 現場は混乱していた。


 次から次へと魔獣が襲いかかり息をつく暇もない。


 私は持ち場を離れて主人様の元に向かおうとする。

 その行く手を海老型の魔獣が飛び込んで来て阻む。

「クッ! 魔獣風情が邪魔をするなー!!」


 後ろからもカニ型の魔獣が船に乗り込もうとする。

「そっち、時間稼いで!」

 海戦部隊に指示を出す。

 戦闘指揮もしながらの移動は困難なのは分かっている、だけど……。


「アレスなら大丈夫!」

「なんの根拠で……!」


 エルフ女がカニ型の魔獣を斬り飛ばし、そう言った。


「勘!」

「勘って……!」


 このエルフ女はご主人様に、何故か信頼されている。

 ご主人様が正直に軽口を叩ける立場ゆえか、それを羨ましく思う自分が居る。


 まさか今になって、こんな風に自分の生まれを疎ましく思うなど誰が思ったか。


「分かるのよ、アタシには!

 剣聖の担い手以外の見えざる力によってね!


 世界の叡智の塔は何故各地にある?

 何故、ナンバーズシステムがある?

 何故、魔王は組織的な動きをしない?

 何故、アレスはNo.0と勘違いされる?

 何故、アレスはモテている?

 アレスって本当にただの詐欺師!?

 カストロ公爵って結局、誰!!



 溢れんばかりの疑問を抱えながら、

 誰もが口にはしない!

 でも、私は言う!

 あえて言う!

 あえてツッコミを入れる!

 そこにボケがある限り!!」


「それって勘と関係ないよね!?」


 私は思わず突っ込んだ。


「大アリよ! 私のツッコミが叫ぶの!

 まだだ! まだ終わらんよって!!」


「どっかで聞いたことある言い方しないでよ!

 ……あー、もう!!」


 どうせ、助けに行こうにも行けないのだ。

 ならば、自らの役割というものを果たそうではないか。


 次から次へと飛び込む魔獣を片付け、ご主人様を迎えに行くのだ。








 ……どれほどの時間が経ったか。

 何がどうなったかは分からない。


 気付くと俺は波打ち際で1人倒れていた。

 立ち上がり呆然と周りを見回す。


 静かな海岸。

 人の姿はない。

 魔獣の姿もない。

 ここがどこかも分からない。


 ただ一つ、わかることは……。


「俺は……、俺は生きてる!

 俺は、生きるぞぉぉおおおお!!!」


 そして、俺は歩き出す。

 生きるために。








 それから数週間後、とある魔獣との戦場。

「怯むなー! ここを抜かれれば街は一気に壊滅する。

 我らで魔獣をここで押し返すのだ!!」


 戦姫と呼ばれた第3王女シュナ・ゲシュタルトは、愛馬ルクナートの上で声を張り上げ兵を鼓舞する。


「し、しかし姫様!

 これ以上は! 姫様だけでもお逃げ下さい!」

「ならん! ならんぞ! 爺!!

 ここを引いて私に何処に行けというのか!」


 もはや、ゲシュタルト王都の防衛ラインギリギリなのだ。

 ここで引けば、魔獣の群れは一気に王都を包み込むだろう。


「ぐぬぬ、しかし!」

「しかしもかかしもない!

 ここで踏みとどまる以外道はなし!

 行くぞ!」


 そう言いながらもゲシュタルトの王女シュナは、どうしようもなく追い詰められていることは自覚していた。


 爺ことセバルーツも老練な歴戦の雄、彼をして撤退を申し出るほどに。


「援軍だ!

 し、しかも、No.0だ!

 No.0の軍が援軍に来てくれたぞ!! 

 助かった!

 助かるぞぉぉおおおお!!!」


 周りから声が上がる。


 伝令がすぐにシュナの元に届き、世界ランクNo.0が率いる魔王討伐軍が援軍に来たと通達が届いた。


 事実、左軍側が新たな軍の出現で魔獣を押し返し始めた。


「ようし!! 

 皆の者、ここが正念場だ!!

 行くぞぉぉおおおお!!!」


 オー!! と歓声が上がる。


 この日、ゲシュタルト連邦王国は魔獣の侵攻により滅亡の危機にあった。


 魔王の本拠地と思われる魔王城がゲシュタルト国内にあるため、世界でも最も苛烈な魔獣の侵攻を受けていたためだ。


 その中にあって、大陸より援軍としてやって来た世界ランクNo.0率いる魔王討伐軍により、辛うじて滅びを免れていた。


 果たして世界ランクNo.0は世界の救世主なのか、それとも?


 明かされざる秘密は明かされることはあるのか?

 世界の叡智の塔は未だ沈黙を続ける。


 世界ランクを示す世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。

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