第79話ゴンザレス海に行く③

 港町に着くまで鉄壁のガードでした。


 メメとNo.8が何故か完璧に護衛してくれるのです。


 おかしいと思いませんか、皆さん。

 普通なら帝国皇女様の方を護衛するよな?


 本人とんでもなく強いから護衛の必要なんか無いだろうけど。


 確かに死にやすいのは俺の方だから、強者の情けで弱者の俺を保護してるのだと考えれば有り得なくも無いのかしら?


 でもね、おかしいの。

 命を守られて幸せな筈なのに、どうしてか肉食獣が2倍の数になって食べられる草食動物の気持ちなの。


 ミステリ〜。


「今回は2人でしっかりガードしますのではぐれても大丈夫ですよ?」

 ニコッと笑うメメ。


 可愛い笑顔なんですが、それってどう言う意味なんでしょう?

 それはVIP? 監視対象?

 ……はい、脱走前科アリです。


 港町では自由にさせてもらえた。

 どこまで逃げても必ず居場所がバレるけど。


 わたくしの身体に何かしたのかしら、お2人さん。


 逃げれる気配が無いだけで食事は出るし、仕事はないし、何故か世話までされて、至れり尽くせりの日々なの。


 でもね、おかしいの。

 幸せなのに、寿命が縮んでいる気がするの。


 あり得ない事態に異常な恐怖を感じてしまうの。

 いつ何時、その命が脅かされるか分からない恐怖。

 しかも、魔王退治に行くとか。


 あ、コレってアレだ。

 看守が最期に何食べたいか聞くって言うアレだ。

 最期の晩餐。


 うおォォオオオ! 俺は生きるぞー!!!


 気合いを入れるがその直後、船に乗せられました。


 ああん……陸が遠ざかる……。


 後は通りすがりの海賊に拾ってもらうしかありません。

 そっちの方が命の危険があるけど。





「もう諦めなさいよ?

 どうせ魔王を倒さないと人類滅亡よ?」

 エルフ女と並んで椅子に座り、帆先から釣り糸を垂らしているとそう言われた。


「世界の誰が救われようとまず俺が救われ無いといけない!!!

 他の誰かがやればいい!

 何故、俺だ!」


「その誰かがあんたなんでしょ?」


 だから、それが何故か分からないというのに。

 ただの詐欺師に世界の命運とか任せちゃう?

 普通に滅びるよ?


「ご主人様、本航海の艦隊司令官を務める提督がご挨拶をしたいそうです」

 静々と由緒正しき使用人のようにメメが俺に伝えてくれる。


 そりゃあね? 憧れはあったよ?

 突然、偉い人になって美人に囲まれるの。

 3歳ぐらいまで。


 そんな夢を見てられないぐらい生きるのに必死だったから、今頃それをされても恐怖しかない。


 詐欺師に挨拶に来る艦隊司令官……。

 もう、その軍隊終わってるよ?

 撤退しようよ……。


 現れた艦隊司令官は見知った人物だった。

 以前、イリスに拉致されて船に乗せられた時に出会った水夫の気のいい兄ちゃん。


 ただの水夫だったけど、海戦の指揮を俺の代わりに取ってくれたありがたい兄ちゃんだ。


「あんた、あの時の兄ちゃん……」


 騙された。

 あの日、No.8に船に乗せられた時から騙されていたのだ。

 うだつの上がらない風体の兄ちゃんは、始めからあの船の司令官だったのだ!!!

 衝撃の真実!!


「その節はありがとうございました」

 兄ちゃんは、俺に綺麗な敬礼をして見せる。


 何がありがとうだ!?

 なんで俺に礼を言うのかは理解出来ないのですけれど?


「……ああ、兄ちゃんの実力なら当然のことだ」

 始めからあの船の優秀な司令官だったなら、あのピンチも想定内だったのだろう。


「海の魔獣に閉鎖された海域を突破しなければなりませんが、閣下の御恩に報いるためにも全員無事にゲシュタルトにお届け致します」


 嫌味かなぁ〜、そういう冗談が好きな人なんだろうなぁ、この兄ちゃん。


 雲の上の艦隊司令官が大丈夫と言ってるのに、ズブの素人でしかもただの一般人(詐欺師)が文句言える訳ないじゃん!


「兄ちゃんの実力なら出来て当然だ。

 一切疑ってないよ」


 頼むよ! ほんとに!

 海の上は逃げられないんだから!


 俺の言葉に何故か感極まった風を装いながら、艦隊司令官の兄ちゃんは必ずやご期待に添えてみせます、と意気揚々と船の中へ帰って行った。


 わざわざこんな演技しに来るなんて、海の男はイタズラ好きだよなぁ。


 その様子を見ながらエルフ女はポツリ。


「……私、あんたがただの詐欺師と言われても、もう信じないわ」


「頼む、信じてくれ。

 詐欺師を信じる時点で終わってる気がするがそれでも信じてくれ」

「無理」


「ご主人様、次に面会したいと申す者がおりますがいかが致しますか?」

 そのやり取りをツッコミもせずメメはまた俺に声を掛ける。


 あのね? メメちゃん。

 如何いかがも何も俺に拒否権あるの?


 え!? あんの?


 何それ? わたくし怖いわ……。

 うん……、良いから会わせて?


「お久しぶりです、アストさん!

 あの時は助けて頂きありがとうございました!」


 これにはたまらず俺は椅子から転げ落ちた。

 あわわ!


 あの日、崖から突き落とした2人の女Aと女B!


「あれから努力して世界ランクNo.9になりました!

 アストさん……失礼、『今は』アレスさんでしたね。

 アレスさんのご恩に報いるためにチェイミー共々頑張ります!」


 副音声にて。

『テメェに復讐するために、地獄から舞い戻ってやったぜ?

 覚悟しろよ?

 しかも、あの時、偽名だったな?

 この野郎』

 そう言われた訳ですね。


 可愛い顔して言うことが怖いわよ?

 女Aはそんなこと口に出しては言ってないけれど。


 とにかく猛獣を宥めるが如く、穏やかに優しく俺は答える。

「そ、そう?

 あんまり頑張らなくても……いいよ?

 優しく……、そう優しくね?」

 顔は引き攣っているが、なんとか笑顔でそう言った。


 俺の言葉に感動したと『よそおい』ながら、No.9の女Aとチェイミーと呼ばれた女Bは握り拳を作る。


 そして、元気良く敬礼して俺の前から立ち去った。


 その様子を絶対零度の眼差しで見てくるメメと、呆れた顔をしながら釣り竿をしならせるエルフ女。


 エルフ女は俺の様子を見てポツリ。

「これが噂のざまぁ、かしら?」


「ハハハ、そうかもね……ってなんでやー!!!

 もっと悪い奴もいっぱい居るはずだー!!

 俺なんか可愛いもんだろ!?」


 そんな俺の様子を見たメメが、ガシッと俺の服を掴む。

「……ちょっとお仕置きしましょう」


 ずるずると連れていかれる。


「あ、あれ? メメさん? 

 ちょっと待って?

 おーい、エルフ女〜、ちょ〜っと助けて〜」


「あんたはちょっと反省しなさい」と手を振ってくるエルフ女。


 ヒーーーーヤーーーーーー!!!!!!



 ……皆さん、悪いことをしたらいけませんよ?

 自分に返ってきますから。






 次の日、椅子に座り釣り糸を垂らすエルフ女の隣には、色々搾り取られ真っ白になった俺がいた。


 燃えた、燃え尽きたよ……。

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