第78話ゴンザレス海に行く②

 ラララ、ラーラーラー。


 豪華な馬車で移送されて行きます。

 アレスです。

 詐欺師です。


 ちょっとだけ帝国の大きな森を燃やしたり、邪教集団の教祖やったりした帝国の重犯罪者です。


 何故か帝都への移送ではなく、港町からゲシュタルト連邦王国へ運ばれるそうです。


 島流し?

 ゲシュタルト連邦王国ってそんな地域だったっけ?


 キョウちゃんがゲシュタルト王国ってイギリスみたいな国だね、とか言ってたがイギリスってなんぞや?


 現在、馬車にはNo.2帝国皇女カレンとメメと俺の3人だけ。

 他のメンバーは別の馬車で一緒に移動中。


 馬車に乗る際にエルフ女が俺の肩を叩き、「あんた、もう逃げらんないわよ?」と恐ろしい宣告をしてきた。


 それより、なんで重犯罪人と帝国VIPを同じ馬車に乗せてるの?

 馬鹿なの?


「まったくご主人様はいつもいつもチョロすぎなんです」


 それは仕方ないことなのだ、メメよ。

 超S級美女にあらがえる男は居ない。


「ふふふ、それは酷と言うものよ? メリッサ。これでも、私も帝国の秘宝と同等の美貌を持っていると自負しているのだから。

 メリッサ、貴女と同じようにね。

 ……それでも、貴女も嫉妬とかするのね?

 初めて見たわ」


 カレン姫は可笑しそうにクスクスと笑いながら、メメを揶揄からかい、メメは顔を赤くしてむくれた顔を見せる。


 目の前で2人のやり取りを見せられる俺は現実が理解出来ず、白い魂でも吐いていそうな感じ。


 な〜んで、こうなってるんだ?


 俺って誰だっけ?

 詐欺師ゴンザレス。


 あ、じゃあ、今も詐欺中なんだな、そうに違いない。


 思い込むのも……無理だァァァアアアア!


 俺ってチンケな詐欺師よ!?

 ちょっと小銭を巻き上げたり、一夜の夢見たり、そんな感じの!


 なんで皇女様と同じ馬車に!?

 さらに……。


「あの〜、メメさん?」

「はい! なんでしょう、ご主人様」


 女神が綻ぶ笑顔というか、その満面の笑みの前には邪悪な心を持つものは1秒と耐えられまい。


 ぎゃぁぁぁあああああああ!!


 ……嬉しそうですね?

 わたくしは自分の立ち位置が迷子ですわよ?


「メメは……メリッサと言う本名、なのかな?」

「はい」


 ハハハ(゚∀゚)


 俺は内心動揺しながら丁寧に言葉を返す。

「メリッサって、元レイド皇国の皇女様と同じ名前ですね?」


「はい。言ってませんでしたか?

 メリッサ・レイド。

 レイド皇国元皇女です。

 現在はご主人様のシモベの1人です」


 おかしいおかしい、何で元皇女が詐欺師のシモベしてるの?


 そんなのあり得ないから!

 もしかして、まだ俺No.0と思われてる?

 え、本当に?


 聞けば聞くほど背筋が寒くなる。


 あと、シモベなんて1人も居ないからね?

 同じこと言っている子がもう1人居るけど。


 その娘も元王女様なんだって、ははは……。

 俺、何やっちゃってんの?


「メリッサ元皇女はカストロ公爵様の愛人って聞いた、けど!?」


「はい。商業連合国元代表の前でご主人様がそう宣言してくれたではないですか」

 可愛らしく首を傾げるメリッサ元皇女。


 言ったね、言ったけど!

 魂が口から出そうになる。


 帝国皇女様が楽しそうにクスクス笑う。


「あの〜、カレン皇女様……。

 俺は何処に連れて行かれてるのでしょう?」

「あら? カレンって呼んで良いのよ?」


「……カレン姫様」

「あらあら、メリッサに止められてしまったわね?」

 クスクスとまた笑う帝国皇女様。

 メメが揶揄われてるのを見るのは、初めてだなぁ。

 いつも俺が揶揄われてるのに。


「ゲシュタルト連邦王国。港町から海を隔てたあの国へ行きますわ。

 分かっててご準備されたのではなかったのですか?」


 なんで俺がどんな準備するんだよ?

 あー、船を手配しているって話か。


 あれ、ただの詐欺だしな。


「いいや、何も?」

 俺は手を振って誤魔化す。


 不思議そうにする帝国皇女様。


「ご主人様はこういう方ですので」

「そうなの? 不思議な方ですね」


 そこで、帝国皇女様は何故か身体を真っ直ぐ伸ばし、真剣な顔で俺を見る。


 俺は死刑でも言い渡されるのかと思い腰を引く。

「御礼を申し上げるのが遅くなりました。

 魔獣襲撃の折、帝国と私の命をお救い頂き有難うございました」


 ……なんのこと?


 メメを見る。

 特に何を言うでもなく涼やかなお顔。


 メメちゃん? 貴女知ってるよね?

 俺が何もしてないこと。

 メメは何も言ってくれないので仕方なく自分で言う。


「……俺は何もしていない」


 していたことにした方が良かったかもしれないが、そうなるとまたしても、俺が伝説のNo.0であるかのように誤解されてしまいそうだった。


「メリッサから話は聞いております。では、そのように取り計います」


 メメちゃん説明済みだったのね〜。

 高貴な人が揶揄からかってきただけのことかぁ〜。


 そのように取り計らう意味は分からない。

 分からない!

 分からないからな!!


「じゃ、俺はこれで」

 立ち上がり、動く馬車から飛び出そうとすると、ガシッとメメに止められる。


 は、離すのだメメちゃん!

 例え走ってる最中の馬車でも生きるためには、飛ばねばならぬ時があるのだ!


 それが今だ。


 今なんだ!!


 俺は、俺は生きるぞー!!

 誤解が解けたんだ! きっと多分!

 だからもう帝国皇女様も用はない筈だろ!?



 そして、ついにメメは衝撃的なことを俺に告げる。

「駄目ですよ? ご主人様。

 これから皆で魔王退治に行くのですから。

 それにリーダーはご主人様ですよ?」


 メメの言葉に何故か帝国皇女様……世界ランクNo.2も頷く。


「な、なんでだ!?

 どう考えても、あんたがリーダーだろ!?

 そもそも、何故、俺を連れて行く!?」


 我慢も限界、ついに俺は帝国皇女様に向けて、あんたと叫んでしまった。


 帝国皇女様は怒りもせず、不思議そうに可愛く首を傾げる。


「世界ランクNo.1もゲシュタルトで合流しますし、No.8や剣聖の担い手、それに勇者も居ます。

 帝国皇女の私がリーダーでは国同士の軋轢あつれきを生みます。


 ですので、アレスさんがリーダーです」


 ですので、が何も繋がりありません。

 まったく理由になっておらんとです。


「異端のカストロ公爵様でも良いかとも思いましたが、今回はNo.0の名前で行く方が適任かと思います」


 今は逃してくれなさそうなので時を待つしかあるまい……。

 必ず逃げてみせる。


 魔王退治?


 死ぬわ!!


 俺は。


 俺は。


 俺は生きるぞーーーーー!!!!

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