第77話ゴンザレス海に行く①

 どうも〜、あのまま一度は捕まった俺だが、ちょっと色々有りつつも帝都を無事に抜け出したゴンザレス……アレスです。


 しがない詐欺師をやっております。


 この間は狂信者の中に放り込まれ、危ないところだった。

 ついでに前教祖の部屋から宝石がめてやったけど。

 落ち着いたら高値で売ろう。


 帝都ではついに指名手配の張り紙まで出ちゃったし。

 これで大陸のほとんどが指名手配になってしまったので、海洋にでも出るしかないかと覚悟を決めていたところ。


 

 帝都から1番近い町で荷物を整え、すぐに次の街に移動して酒場で情報収集。


 どうやら、帝都以外に張り紙は出ていないようだ。

 どのような意図かは不明だが、全国指名手配ではないらしい。


 前まで、酒場のお姉ちゃんに声をかけて、そのまま一晩のランデブーに持ち込んでいたのだが、今ではすっかり落ち着いてしまった。


 俺も歳を取った。

 ……なんてね、我慢し続けてるだけだ。


 仕方ないじゃん!

 メメに調教されちゃってるし!


 その瞬間、キュピーンと俺のレーダーが反応。


 居る!

 S級が!


 酒を片手にそれとなく店内の様子を探る。


 居た!


 フードを目深に被り、如何にも怪しいですね?という風体。

 全体的に小柄。


 だが、俺には分かる。

 僅かにフードから見える肌や口元、時々見え隠れする顔はかなり整っている。


 これで男だったら目も当てられないが、虎穴に入らずんばS級を得ず!


 俺は意を決して、相手の目の前の椅子に腰を掛ける。


「訳ありかい?」

 如何にも相談乗りますという雰囲気で。


 そういうのは下心有りだから注意しよう!


 目の前の人物は何も答えない。

 そう、会話をさせないというのは詐欺師封じには基本だ!


「俺は帝都から移動中でね。今から港町に行こうと思う。アテは?」


 僅かに躊躇って目の前の人物は首を横に振る。

 乗ったかな?


「もう1人ぐらいなら、船に乗せられるかも知れないが、一緒に来るかい?」

 もちろん、そんなアテはない。

 まあ、そこは流れで。


 その人物は頷く。


 よし! 始めの一歩!

「俺はアレスだ」

 握手をするように手を出す。


「……カレン」

 一瞬、躊躇したようだが握手に応える。


 ふ……思った通り、女性的な柔らかな手だ。

 声も若い女性だ。

 これで2択!

 女性か、それとも危険な男の娘か!



 なお、キョウちゃんのような元男は女性枠なので問題なし!


「ありがとう……」

「ん?」

 何がありがとうなんだ?


「先に言っておこうと思って」

 ああ、成る程、船に乗るアテのことね。


 すまんね、ただの詐欺だ。


 さて、こうして少し拍子抜けするぐらい簡単に可愛い子と旅の友になれた訳だが、大事なのはここからだ。


 如何にこの子を港町に無事に運び売り払うか、それとも旅の途中で仲良くなって美味しく頂くか。


 港町まで盗賊も居るし魔獣も居る。


 俺1人なら口八丁手八丁の如く商隊に紛れたり走って逃げたり出来るが、足手まといを抱えてはなかなか思うようにはいかないものだ。


 だが、これを口実に色々聞き出すか。

 酒をもう一つ注文。


 カレンの前に置く。

 そこから声を潜ませる。

「カレンはどうやってここまで来たんだ?

 可愛い女の1人旅なんて簡単じゃねぇだろ?

 おっと、事情を聞き出そうって訳じゃねぇ。

 話せるなら話してくれればいいが、聞きたいのはここまで移動して来た方法のことだ」


 カレンは一瞬だけ驚いた様子を見せ、されど抵抗なく俺が注文した酒をグイッと飲む。

 い〜い、飲みっぷりだ。

 いきなり今夜決めてもいいんだぜ?


「いつもそうやってナンパしてるの?」

 おや? 少しだけ雰囲気が変わったカレン。


 フードの奥で笑っている感じがする。


「これで上手くいけば良いんだけどね。

 残念ながらそうそう上手くはいかないよ。

 せいぜい良いお兄さん止まりさ」

 肩をすくめて見せる。


「嘘ばっかり」


 言い方に艶っぽさがあるな。

 顔を見ていないから余計に期待が膨らむ。


「嘘? 嘘なんかついてないぞ? 見ての通りのフラれてばかりの1人旅だ」

 クスクスとカレンが笑う。


 お? 好印象。


「嘘ばっかり。美人を何人もそでにして、風のように気ままな1人旅じゃなくて?」


 そんなことが出来れば最高だね!

 まあ、各国から追われるようなことが無ければ、メメたちと楽しい日々が送れたかも……ってないな。


 彼女らは国家的なお偉いさんのアレやコレやで、一緒に居ただけだから国家的なことに巻き込まれなければ、永遠に関係はなかった筈だ。


 つまり、国際逃亡犯=彼女たちとの関係という図式は崩れなかった筈だ。


 ということで! 考えから除外!


「残念ながら一度もそんな幸運はないな。良ければ最初の1人にどうだい?」


 クスクスと笑う。


「王女様ホイホイだからなぁ〜。

 私も引っ掛かるかなぁ?

 危ないなぁ。

 実に危ない」


 何を言って……。


 俺が現状を理解する前に、彼女は自らのフードを取った。


 今でこそ世界ランクのナンバーズの生き残っている半数に会ったことがあるが、会っていなくても彼女の姿、顔は知っている。


 超有名人だ。


 第一、気絶している姿だが近くで見たこともある。



 世界ランクNo.2。

 帝国のカレン姫。


「初めまして? アレスさん。

 いいえ、世界ランクNo.0さん」


 いたずらっ子がいたずらを成功させたような満面の笑みで、さりとて可愛らしく、とても美しい妖艶な顔を見せながら、彼女は俺に微笑んだ。


 な、何が起きてるんだーーー!!!!

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