第76話ゴンザレスと帝国⑤
11人が、作戦がー、決行日がーと話し合っている。
蝋燭一本の前で。
もう今すぐにでも捕まって下さい、お願いします。
俺はこの怪しげな集団に耐え切れなくなり、ついに尋ねてしまう。
「すまんが作戦の内容を教えてもらえるか?」
「は!
新教祖様には朗報をお待ち頂くだけで宜しいかと思われます」
宜しい訳ねーだろー!!
失敗確率100%の襲撃の責任だけ取らされるなどまっぴらごめんだ!
せめて成功させろや!
「前教祖はどうだったかは分からないが、私は貴殿らにだけ全てを任せっきりにするつもりはない。
さあ、私にも話してくれたまえ」
真面目な顔で覚悟は出来ているぞ、と頷いてみせる。
妙に感動した顔で、ヒョロガリヤバい目男の伯爵に見つめられる。
うぇ、可愛い子ちゃんならともかく、狂信者のヤバい目男に見られたくないね!
狂信者は可愛い子でもヤダけど。
作戦は意外とまとも(?)だった。
囮の襲撃が各所で行われ、手薄になったガイアパレスに内通者を使い入り込み皇帝とカレン姫を襲撃するという。
No.2をどうやって、と聞くとどっかで見たことのある杖。
まだ残ってたのね。
真名を言うと動き封じるやつ。
「ガイアパレスには現在No.8も居るが?」
そのことを言うと怪しげな連中全員が動揺し、流石は新教祖様は何でもご存じだ、と謎の祈りを捧げてきた。
呪われそうだからやめて?
皇帝暗殺してそれでどうすんの、と聞いたら新教祖様の威光が世界に広まりますとのこと。
心の底からどうでも良いわ!!!
そもそも新教祖なしで作戦立ててたんだろ?
新教祖関係ないじゃん!
これ、ほんとヤバいし逃げたい。
今すぐ帝国から逃げればなんとかなるか?
逃げようとした瞬間、貴様は偽物じゃー!と襲いかかってきそうだけど!
あ、そうだ。
「その杖は私が持とう」
「はは〜!」
と献上品を捧げるが如く俺に渡すマルーオ伯爵。
そして11人全員の名前を呼ぶ。
うん、全員動けなくなった。
やっぱりこれ本物だったのね。
前見た杖と効果が同じ。
ピクピクしている11人を置いて部屋を出てそのまま屋敷を出る。
あ、ついでに金目の物を物色しておいた。
大した物は何も無かった。
屋敷だけが立派で金は残っていなかったらしい。
ちっ! しけた野郎だ。
あるいはその作戦とやらに全てを賭けていたか、だな。
成功、絶対しないよ?
No.8以外にソーニャちゃんにエルフ女にキョウちゃんにメメに、後、会ったことないけどNo.9。
うん、No.1を除く世界の最強メンバーが全部居るやん。
何でこうなってんの?
誰か集めた?
はっはっは、俺?
いやいやまさか、それってどんな詐欺?
そんな訳で杖を持って帝都の詰所に立ち寄る。
「すみませーん。
そこの角で新教祖っていう人にこの杖と手紙渡されて、詰所に届けてくれと言われたんで渡しておきますね?」
あたかも落とし物を拾いましたよ?
そんな感じに。
衛士に詳しく呼び止められる前にそのまま立ち去る。
手紙の中身はマルーオ伯爵の作戦の計画に杖の効果の説明。
一時的に捕獲しているから急いだ方が良いのと、詳しくは顎髭男爵に聞けと押し付けておいた。
そのまま着のみ着のまま帝都を出る。
準備不足での旅など自殺と変わらん?
緊急事態には仕方ないこともある!!
出来るだけ近い村か町で揃えれば良いのだ!
そうして俺はひっそりと帝都を立ち去った。
私、グレック・ノート男爵は何か詐欺にでも遭ったような気分だった。
「マルーオ伯爵が?」
彼が何かを企んでいるのは気付いていた。
しかし、それを止められるだけの力は自分には無かった。
男爵と伯爵。
同じ貴族であってもその立場の差は大きい。
帝国の国難の折、正教団が一致団結して帝国民を支えるよう尽力した。
その後の商業連合国併合の際にその時に恩を感じた人々の助けで、男爵の地位でありながら伯爵に匹敵する財を築けた。
それでもだ。
かつての幹部の多くは少なからず過激な部分が多く、実は初めの内は新教祖様を信用しているとは言えなかった。
信頼するライラの紹介と前教祖様から真名を聞かされているほどの重鎮ゆえに、新教祖に収まってもらっただけだった。
だが、すぐに新教祖様は私の心を掴んだ。
前教祖様の論文を読む。
椅子にただ静かに座りそうする新教祖様は、かつての二面性を持つ前の優しい前教祖様の姿を思い出させた。
一斉集会や会合をする時もそうだ。
新教祖様に予定されていた信徒による一斉集会を行う時間を報告した。
すると新教祖様は一言、時を待ちなさい、とおっしゃるに留めた。
そのすぐ後、集会予定地にしていた場所で馬車3台による大事故が発生した。
その時間もまた集会が予定されていた時間だった。
幹部による会合についても、新教祖様は一言、時を待ちなさいと告げるにととどめた。
会合については……今、分かった。
あの会合では、マルーオ伯爵と10賢者が来る予定であった。
そうなれば、あのおぞましい計画に強制的に、参加させられることになっていただろう。
それを阻止したのはあの新教祖様。
そうして、彼は去った。
まるで役目が済んだとでも言うように。
「ライラ、良かったのか?
新教祖様について行かなくて?」
彼女は私の隣で朗らかに笑う。
「昔のことよ。旦那様」
元伯爵夫人でもあったライラは過去の夫とも離縁出来、この度、私の妻となる。
その出来事の中に幹部になる前の新教祖様の影響があったことは知っている。
だが、それはもう過去のことなのだ。
「そうか……。
さて帝国上層部に弁解に行かなければな。
新教祖様がお手紙してくださっているとはいえ我が教団の問題。
しっかりと弁明を聞いてもらわねばならない」
「はい、行ってらっしゃい、旦那様」
ライラは穏やかな笑顔で夫を見送った。
旦那様であるグレック・ノート男爵を送った後、私も出掛ける。
辿り着いた場所は表向きは場末の酒場。
実際は帝国第3諜報部隊の隠れ蓑の一つ。
「ライラ。報告かしら?」
そこには、メリッサ・レイド帝国ランクNo.1。
あの人の愛人という噂。
「はい、あの方は海側に向けて出立されました」
「……そう。相変わらず、ね」
優しげな眼差しであの人を想う美しい女性。
ほんの少しの痛みを思い出させながら、でもそれは過ぎ去った過去。
今はもうそれ以上の痛みはなく、私は新しい夫と幸せに暮らしている。
あの大襲撃の後、正教団を内部から監視する名目で私は帝国の犬となった。
私の心を暴力旦那の呪縛から解放した、あの人のことを何か知ることが出来たらと思ったから。
でも結局、詳しくは分からないまま。
ただ上層部のソーニャ隊長やメリッサ様などは、あの方となんらかの繋がりを持っていることは分かった。
とても手の届くような人ではない。
そして何よりとんでもない人物の可能性も。
曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。
曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。
曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
噂通り、聖者のような人だった。
世界ランクNo.0。
全ては謎のまま。
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