第74話ゴンザレスと帝国③

 街をブラブラして帝国脱出のための買い物をする。

 準備不足での旅など自殺と変わらん。


 しっかり準備をしよう。


「アレスさん!?」

 女性に名前を呼ばれ振り向く、と。


 うーん、何処かで見た中年女。

 B上ランク?

 若い頃ならAにもいけたかもしれない。

 疲れた主婦顔が俺の琴線に触れるので、そこは評価プラスアルファ。


「貴女はあの時の……」

 再会出来た喜びと女性への好意を滲ませたどこか嬉しそうで、好青年ぽい笑みを浮かべる。


 思い出せん!

 出掛かってるのに、思い出せん!


 詐欺に掛けたの覚えている!

 それだけは覚えている!

 何処で詐欺に掛けたのか思い出せん!


 これは詐欺師として、実に危険なことだ!

 場合によっては今すぐダッシュして、逃げねばならんのだから。


「はい、お久しぶりです。

 ……よくご無事で」

 女は潤んだ目で近づく。


 これは罠か! 否か!

 どっちだ!

 罠でもいい!

 ゲットか!?


 しかし、今の俺はS級美女に飼い慣らされてしまった悲しい身体。

 A級以上でないと……。

 これがS級美女との出会いを重ねてしまった俺の罪か……。


 だが悲しき女を身体で慰められなくて何が男か!

 しかもB級だ、十分以上に美女、性格も良さげ!!

 俺ならイケる!

 ゴンザレスいくのよ!!


「すまない、会いに戻れなかった」

 俺が優しく抱き締めると女はいよいよ涙を零し首を横に振る。

 戻るって何処によ、と内心ツッコミながら。


「いいえ、いいえ。

 教祖様共々、幹部たちは皆捕まったとお聞きしていたので、貴方ももう駄目なのかと思っておりました」


 お・も・い・だ・し・たー!!!


 あの邪教集団の時のあの中年女だ。


 同期の疲れた主婦で俺の趣味だったから堕としたら、その手腕を買われ幹部の青年に幹部候補にされた時の!


 あの邪教集団は結局ソーニャちゃんに、徹底的に叩き潰されたんじゃなかったのか?


「ここでは不味い。移動しよう」


 あんたの部屋とか?

 とにかく街中で邪教の話とか処刑ものだ。


 連れて来られたのは割と大きな立派な建物。

 使用人らしきギョロ目の男に通され女と共に中に。


 広い屋敷の中で通されたのは、何故か狭くて暗い部屋。


 テーブルに一本だけ蝋燭を置き、その周りを囲んでいる数人の男女。

 その中でも真ん中の偉そうな身なりの良い顎髭男が、俺たちに声を掛ける。


「ライラ。その男は?」

「あの帝国の大襲撃を生き残った幹部のアレス様よ」


 それは誰だーーー!!!???


「何!? あの大襲撃をか!」

 ガタガタっと全員が立ち上がる。


 顎髭男が俺を指差し叫ぶ。

「あの大襲撃で偉大なる教祖様と幹部様たちは全て神の元に旅立った!

 今になって、幹部が残っているものか!」


 そう言って悔しそうに顔を背ける。

 周りの人も目元を抑える。


 何? この雰囲気。


「……もし貴様が幹部だと言うなら。偉大なる教祖様の真名を知っているはずだ。

 ……これを見ろ」

 白い石を懐から取り出す。


「これは教祖様の真名に反応する。

 この石を翳すと秘密扉が開き、我ら教祖様の様々な秘宝の元に行くことが出来る」


「ほう?」

 秘宝とな!

 それを少しばかり頂戴して、旅の資金としようではないか。


「さらにこれが見事に反応するならば!

 貴様を唯一の幹部と認め、我ら一万に及ぶ信徒の正教団の正式後継者として認めようではないか!」

 おお! 中年女を含む周りの人がどよめく。


 うん、それはいらん。


 一万って凄いね、邪教集団。

 世界滅びるんじゃね?

 と言うか真名って、アレか?


「ツンデレイト」

 ピカ〜っと石が光り、部屋の中央の石がゴゴゴっと動きテーブルが下に落ちる。


 階段が見える。

 隠し部屋はこの下にあったのね。


 ガバッと顎髭男も含め俺に跪く。


「大変失礼致しました!

 教祖様より真名を託された大幹部様とは気付かず、御無礼の段平に〜平に〜」


 やっぱ宗教にハマると騙されやすいのかなぁ〜。

 チョロすぎ君だ。

 気をつけなよ?

 俺に騙されるよ?


「良い。面を上げよ。

 早速、秘宝を取りに行こうではないか。

 そこの者、案内せよ」


 髭面男に地下への案内をさせる。

 罠があったら、盾にしないといけないからね。


「ははー!

 私はグレック・ノート男爵と申します。

 アレス様の先導を務めさせていただきます!」

 私はキューリ、私はカーリー、私はクリン、私はジュリー、そして中年女がライラ。


 まあ、誰の名前を覚える気は無いけどな。


 堂々と胸を張る顎髭男を先頭に、階段を降りて行く。


 なんの罠が発動することもなく、下まで降りて、扉に顎髭男が持ってたツンデレイト石を嵌め込む。


 また、ゴゴゴと扉が開く。

 壊滅させてもまだ信徒が一万も居るから、邪教生活儲かったんだろうなぁ前教祖。


 まあ、あっさりソーニャちゃんに切られてたから儚いものだけど。

 悪いことし過ぎると良くない、ほどほどが大事!


 中は埃ぽく見るからにガラクタっぽい物ばかり。


 ツンデレイトとか言う前教祖が、掃除が出来ない駄目男であると実証されてしまった。


 俺? 家ないし。


 その中で、一つだけ宝石っぽいのがあったので自然と懐にin。


「これらの物は邪神研究のための資料のようです。

 前教祖様は、世界の叡智の塔の不自然さについて、善なる神から云々カンヌン」

 ふ〜ん、と論文をペラペラ。


 他に美味しい獲物は無かったので上に戻る。


 貯めてた金は帝国に没収されたのかもね。

 それか目端が効く奴が既に持って行ったか。


 言えることは、一つ!

 ガッカリさせやがって!!


「他の信徒にも新教祖様のことをお伝えすると喜ぶと思います!」


 あー、はいはい。


 とりあえずわたくし、長旅でお疲れなの。ゆっくりこの屋敷で休ませてもらうわ。


 かつては教祖となったならば女遊びをしたいと思ったものだ。

 人のものに手を出すと危ないからね。


 それで偉い公爵様から命を狙われそうだし、No.8恐ろしい女……。

 それにもうS級しか受け付けない身体にされてしまったの、ヨヨヨ。

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