第73話ゴンザレスと帝国②

 あ、どもアレスです。


 帝国に居ます。


 今ですか?

 ははは、ガリヒョロの怪しい男どもと一緒に蝋燭一本を囲み作戦会議中です。

 蝋燭一本って顔を近付けないと顔見えねぇし。

 怪しい男の顔なんて見たくないからいいけどよ。

 すっげぇ不健康な感じ。


 え!? なんで、そうなったって?

 俺の方が聞きたいよ!!


 なんでこうなったんだぁぁあああ!!!







 あれからエルフ女はメメに何処かに連れられ(ハンカチ振っておいた)、他の女性陣もそれに付いて行った。


 俺は1人豪華な部屋に通され待たされる。

 なんでも風呂に入り身支度を整えるそうです。


 何故って?

 皇帝陛下と謁見……との噂。

 メイド……つーか、俺の世話をしてくれている侍女が教えてくれた。


 知ってる?

 侍女ってメイドと違って高貴な人につくお付きの人ね?

 行儀見習いとかで貴族のお嬢様とかがするのよ?


 直接は聞いてないからね、うん、聞いてない。


 だから、逃げた。


 侍女が居なくなったその隙をついて。

 無駄に豪華な、窓付きの部屋での待機で良かった。


 窓のない普通の部屋とかなら流石に逃げようがなかった。


 窓から飛び降り下の植え込みをクッションに、そこから壁伝いに使用人門も正門も見張りが有るから、そこからどう抜け出すか?


 豪華そうな馬車があったのでその下に潜り込みへばりつく。


 暫くすると都合良く馬車は動き出し、門の方に移動して行くようだ。

 落ちそうになるのを懸命に堪える。


 門から出て指が限界を迎えたところで、馬車の下からゴロゴロと転がり出る。


 タイミングがズレればそれだけで大怪我だ。

 豪華な馬車は気づかずに走り去った。


 ありがとう! 見知らぬ豪華馬車!!


 何もかも偶然の為せる技。

 もう一度やれと言われても絶対に出来ないし、もうこんな幸運はないだろう、多分!

 むしろ最初からこんな目に遭いたくなかった!


 だんだん逃げるための難易度が上がっている気がする。

 このままでは、いつか逃げる事さえ出来なくなりそうだ。

 そもそも逃げる前に処刑されそうだが。


 その割には至れり尽くせりな雰囲気を醸し出していたが。


 逃げなくて良かったんじゃない?

 誰かが言いそうだが、そんなことはない。


 考えてみるといい。

 俺、詐欺師。

 相手、皇帝陛下。


 謁見?

 公開処刑の間違いじゃないの?

 皇帝陛下の前で処刑されるほどの重犯罪人?

 ワオ! 身に覚え有り過ぎ!!


 他のメンバー置いてきたけど最強クラスの集団だし、それなりのVIPだし殺されないだろう。


 あの中で唯一、実力的にも立場的にも殺されそうなの俺だけです。


 さあて、切り替えて行こう。

 まずは帝国からの脱出だな。







 ご主人様の準備を手伝う予定のはずの侍女から、ご主人様が居なくなった報告を受け、私メリッサはため息を吐く。


「メリッサお姉様!」

 焦り気味のイリスさんに振り返る。

 いつものことなので仕方ない、と侍女とイリスさんを慰めます。


 イリスさんは長く共に過ごした訳ではないですが、妹のように感じていたりします。

 同じ亡国の王女ですし。


 もっともイリスさんの母国ウラハラ国を滅ぼしたのは帝国ですし、ここに来ることも抵抗はあった筈。


 そんな姿を見せず、私を姉のように慕ってくれています。


 幸せになって欲しいですが、私共々悪い男に引っかかってしまって……。


 居なくなったご主人様を急いで追いかけたところですが、皇帝陛下を待たして居るのでそういうわけにもいかない。


 捕まえられるとは思えないが侍女やメイドたちに王城を探して貰えるように頼む。


 陛下には私たち全員で謝罪に行きましょう。

 さて、その前に。


「エルフィーナさん?」

「は、はい!」

 エルフィーナさんは剣聖の担い手と呼ばれる伝説のエルフ。

 私の威圧で少し緊張気味。


 その隣に座るのはキョウ・クジョウ。

 勇者ですわね。

 こちらは居心地が悪そうにするだけ。

 特に『警戒』しなくてもよさそう。


 実力は『同程度』のようですから、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?

 女としての実力は負ける訳にはいきませんが。


 ご主人様とどうやって知り合ったのか聞くと……。


 私はご主人様の話を誰かに聞く度に、こめかみを揉む癖がつきそうだ。


「……そうですか、密林に。

 ご主人様がおっしゃるように道に迷ったんだと思われます」


 道に迷ったふりだったりして。

 ほんと、ご主人様は分からない人だ。


「あ、あいつは……、アレスは詐欺師じゃないんですか?」


 エルフィーナさんは私の反応に何か感じるものがあったのか、思わず尋ねたという感じでしたが。


 ちょ〜っと聞き捨てならないですねぇ〜。


 エルフィーナさんの言葉に、冷たいオーラが溢れ出してしまいます。


「……へ〜」

 私は感情を凍らせて、それだけを言う。


「「ひー!!」」

 エルフ女と勇者が悲鳴を上げる。


 ご主人様はそこまでこのエルフ女に気を許しておいでなのですね?

 そうですね?

 私にはバラしてくれないというのに。


「……そうですわね、詐欺師ですわ。

 本当に憎いお方」

 私の、私たちの心を詐欺に掛けてくれたのですよ?


 ふふふ、と笑うと実力者のエルフ女と勇者が何故か怯える。


 反対にイリスさんは深く感じ入るように頷いている。


「あ、アレス。

 あんた、いったい何したのよ……」

 エルフ女がポツリと呟く。


 ふふふ、とんでもないことをしてくれたのですよ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る