第72話ゴンザレスと帝国①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0





 ボク、アレスジャナイヨ、ゴンザレス、ダヨ。

 チナミニ、世界最強ノNo.0デモナイカラネ?


 チンケな詐欺師だよ?


 良い子の皆。

 良いことを教えよう。


 詐欺師なんてしてはいけない。

 酷い目に遭うよ?


 偽名ですが、アレスで有名なお方がおられまして、その方の奥方候補をその気もないのに寝取ってしまう。


 そんな経験、あなたもおありでしょう?

 あると言ってくれ!


 ちなみにそのアレスというお方は超有名なお方でして、御身分で言いますとなんと!

 公爵様でございます!


 わおー! 素敵ー!


 当然、そんなお方の奥方候補を寝取ってしまったわけですから、レッツ死刑執行! 

 待ったなし!

 天国を味わったら真っ直ぐ地獄へGO!


 どうしよう?


 聖剣(装置)を手に入れて砂漠を抜け、No.8が手配した馬車に合流したエルフ女とキョウちゃんの4人で乗り込む段階になって、俺は何がなんでもカストロ公爵領には行きませんとごねた。


 当たり前だ。


 殺されに行くものだからだ。

 なんで気にもせず、カストロ公爵領に連れて行こうとするの!?


 どう考えても殺されるでしょ!?

 俺が。


「分かりました。では、カストロ公爵領に寄らず帝国に向かいましょう」


 仕方ないですねぇ、とため息を吐くNo.8。


 て、帝国もダメだー!!!

 森を焼いた重犯罪人は俺だー!!!


「アレス……。

 あんたどこの国にも行けなくなってない?」

「い、行けるぞ? コルラン国の奥地とか?」


 あとはこっそり侵入するから俺1人ならなんとか。

 だから逃げさせろ。


「帝国では案内してくれる人が居るから大丈夫ですよ?」


 本当か?

 信じるぞ? 信じるからな!

 帝国でも帝都でなければまだいけるかも?


 優雅な馬車の旅だけど俺は売られて行く子牛の気分。

 ラララ、ラーラーラーラー。





 そして辿り着く帝都。

 ……分かってたよ。

 進路的にも、帝国というより帝都の方向だなぁ〜って。


 逃げないのって?

 逃げれなかったんだよ!


 移動中は身バレが怖くて、馬車の中にずっと居たのもあるけれど、何より……。


 常に隣にNo.8ががっちりホールド。

 奴はおトイレにも付いてきますわ?


 あら? No.8さんセクハラではなくて?


 少しでもアレス様から離れて、何かあったら大変です。

 いつの間にかはぐれるクセがおありなので。


 前科アリ。

 それがわたくしですわ……。


 そしてコレまた良い匂いなんだ、だってNo.8はS級美女。

 殺されないと思ったら美味しく頂くのがジャスティス!

 こうして夜毎、バレてはいけない罪を重ねてしまう。


 仕方ないの!

 だってNo.8はS級美女だから!!

 大事なことなので2回心の中で叫んでおいた。


 そして、そんな夜を幾度も過ごしたせいで帝都にあっという間に着いてしまった。

 い、いつの間に……。


 あら?

 あそこで兵士の方々が沢山。

 兵士の方々のお邪魔をしてはいけませんわ。

 上手く避けてくださること?


「着きました。アレス様」

 だ・ま・さ・れ・た!!!


 馬車は囲まれ逃げ場なし!

 隣にはNo.8!


 全門の虎、後門の狼どころじゃない!

 隣に虎! 全方位狼だ!


 もはやこれまでと切腹状態だが、それでも、それでも俺は生きるぞー!!!!!


 そう決意を固めた俺の前に。

 肩を少し越えたぐらいの茶色のサラサラの髪に、全体的に小柄で可愛らしい。

 クリっとした黒い目が宝石のようで、温かい雰囲気の超S級美女が、仕立ての良い(明らかに高価そう!)使用人服で姿を見せる。


 メメちゃん!


 俺は口をあんぐりと開けたままメメを見る。

「ご主人様、お待ちしておりました。さあ、こちらにどうぞ」


 柔らかそうでシュッとした優美な手先で、道の先を示す。


 兵士がその両サイドに並び、まるでVIPをお出迎えするかのように。

 エルフ女が隣に来て俺にこそっと話しかける。


(どういうことよ? あんた、帝国でも重犯罪者だから行きたくないって言ってなかった?この流れ……カストロ公爵領と一緒なんだけど!?)


 おお……!!

 エルフ女、俺の常識の守護者よ。


(し、知らん。これ、あれかな?

 処刑前の市中引き回しの刑とかかな?)


(こんな市中引き回しの刑なんて聞いたことないわよ)


「ご主人様は目立つことを嫌われているのは分かっておりますが、申し訳ございません。

 これでも最小限なのです。

 本当はカレン姫様より救国の英雄を迎えるパレードをしたいとおっしゃられたほどです。


 滅多に我儘を言われない方なので、皇帝陛下がその願いを叶えようとされまして、……止めるのに苦労しました。


 止めたので褒めて下さいね?」


「め、メメちゃんは凄いなぁ

 ……ハハハ(゚∀゚)」


 皇帝の行動を止めるって何?

 俺は引き攣った顔で、隣のエルフ女に救いを求め声を掛ける。

 明らかにエルフ女は逃げようとしたので、腕を掴む。


(なぁ、エルフ女。皇帝陛下って、官吏の隠語か何かだっけ?)


(そ、そうね、官吏の親玉ということでいけばその通りじゃないかしら?

 ところで、アレス。あんた何者? 

 私を詐欺ってない?)


(詐欺ってない)


 前を歩くメメは実に洗練された歩き方でスタスタ。

「剣聖の担い手、エルフィーナさんでしたわね?」

「は、はい!」


 メメに声をかけられ、歩きながら直立不動になるエルフ女。

 おお……メメから、高貴な怖いオーラが漂ってくる……。


「……後で個別にお話しがあります。

 宜しいですか?」

 ダメって言うんじゃねぇぞ? アアン? 副音声で聞こえます。


 あんたのせいよー!!

 目だけでエルフ女に訴えられた。

 エルフ女は涙目だ。


 し、知らねー!!

 俺は自分のことで手いっぱいだ!!!!








 魔王により世界は未曾有の危機に見舞われた。

 だが、人々は希望を失うことはなかった。


 何故なら、こんな伝説がある。



 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、元男でも関係無く愛せる慈愛の人

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0




 ……やがて、その伝説とされた人物が指先一本で魔王を倒し、更なる伝説を作ることになる。


 ……まあ、とあるチンケな詐欺師に言わせれば、全部詐欺らしいが。


 詐欺師の言うことなので、耳を貸す必要はないだろう。


 今回はここまでにしておこう。

 最後に詐欺には十分ご注意下さい。

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