第71話ゴンザレスと聖剣⑥

 どうも魔獣の侵攻があったようで、最前線で戦う王太子の服が破けた、のかな?


 ちなみに王太子が乗る象は五体満足無事。


 ……ほんとになんで服だけ破けた。


 その謎はすぐ解けた。

 王太子はクルッと一回転して気合いを入れて両手を広げると、王太子……いや、象を中心に魔力の奔流が放たれた。


 周りの魔獣が吹き飛ぶ。

 ダンス魔法というべきか。


 ついでにお股にあった布も遂に吹き飛んだ。

 ああ!!!!


 こうやって、ダンスで魔獣と戦ってるんだなぁ、と今更ながらに知る。


 あの象もすげぇ、パオーンと魔獣を踏み潰す。

 まさに人象一体だ。

 人の象も……待て、落ち着け、俺。


 それでも形勢不利みたいだなぁ。

 街の正門で戦ってるのはすでに王太子だけで、倒れた兵士や城門の中で傷付いた兵士の姿が見える。


 ……うん、よし!! 

 逃げるぞ!

 色々ともうダメだ。


 パンッと気合いを込める意味で柏手を打つ。

 色んな意味でごめんない、という意味でもある。

 あ、魔獣がこっち向いた。


 急いで逃げよう!


 街に入っても危ないし、今なら王太子が囮になってるから魔獣からは逃げれるだろ。


 俺は逃げるために後ろを振り返る。

 No.8と目が合う。

 No.8は頷く。


 そして魔獣に向けてNo.8が駆け出す。

 その後を慌てて、キョウちゃんも追いかける。

 しゃあないな、とエルフ女も駆け出す。


 ワオ! 3人とも、とっても早ーい。

 頑張って〜。

 俺はハンカチを取り出しフリフリ。


 そう言えば人外の3人が居たんだったな。

 この3人ならすぐ終わるだろ。


 せめて王太子の最後の聖域の布は間に合って欲しかったが仕方ない。

 もう大丈夫だろうから、のんびり歩いて街に向かう。


 魔獣がザクザク斬られていく間をスタスタ。

 俺に近づく間もなくNo.8に切られる魔獣。


 おー、やっぱつぇなぁ。

 というか前見た時より圧倒的に強くなってるよね、No.8。



 正門に辿り着いた時は全て終わっていた。


 キョウちゃんは疲れたのか、膝をついて息を整え、No.8もキョウちゃんの隣に来て何故か俺の前でひざまづく。


 エルフ女は王太子と共に俺の方に歩いて来る。

 あれって、まっぱの王太子から逃げてきてるのかな?


 王太子は俺に一礼。

「先生……街を救ってくれてありがとうございました」


 ひざまづき……からの土下座!!


 やめて、やめて、やめてー!!!


 なんで!? なんで俺なのー!?

 俺、何もしてないじゃん!

 見てたでしょ!

 ねぇ見てたよね?

 なんで誤解出来るの!?


 すぐに王太子に駆け寄り起こす。

 丸裸は俺が見たくないので、荷物からマントを取り出し掛けてやる。


 俺はとにかく必死だった。

 分かってるよ!


 これ、すっごい誤解発生してるからやめて!

 ほんとにやめて!


 俺、君らを詐欺に掛けただけだから!

 ヤメテー!


「皆が頑張った結果だ。俺は何もしていない。

 誤解するな!」


 ほんとに誤解するな!

 いやマジで、心から!

 詐欺師の俺の祈りがここ最近通じたことは、ただの一度もないけれど!


 待て、王太子!

 なんで、そんな感動したように俺を見上げる!


「先生のお心遣い感謝します!」

 王太子は祈りを捧げるように、俺を見上げる。


 ちげーよ!!!


 街から歓声が上がる!

 救世主万歳じゃねぇ!

 勇者万歳は正解だが、俺に向けていうな!

 俺は勇者じゃねぇ!

 勇者はキョウちゃんだ!


 な、なんでこうなったんだーー!!!!






 それは伝説のワンシーンのようであった。

 その光景を街の城壁から、眺めていたある兵士はそう漏らした。


 正門では、ただ1人、と1匹が魔獣を食い止めるために踊り続ける。


 情熱の国バーミリオンが誇る戦闘舞踊で、幾たびも魔獣を跳ね返す王太子。


 それは歴代の中でも最高の完成度。

 だが、魔獣の数も例年の大砂嵐に比べても最高……いや、比較にならない数。


 数千もの魔獣。

 例年が百体程度だったことをみれば、文字通り桁が違った。


 王太子も満身創痍。

 遂にはその身を覆う服すらも吹き飛ぶ。


 傷付き倒れた兵士たちも全員覚悟を決めようとしていた。

 少しでも時間を稼ぎ街の人を逃す。


 その時。


 魔獣の雄叫びの合間を縫った、数瞬の静寂。

 その静寂を捉えたパンッという柏手の音。


 人だけではなく魔獣もその音の先を見る。


 そこには。

 美しい女性たちを連れた1人の男。


 本来は現れるはずのない砂漠から、忽然とその姿を見せる。


 男は振り返り女性たちに合図を送り、女性たちは頷き駆け出した。


 砂漠の中にあるまじきスピード。


 瞬く間に斬り伏せられていく魔獣たち。


 誰もが、王太子もそれを呆然と見守る。

 その中を男が真っ直ぐ歩いてくる。


 魔獣の群れを何一つ気にすることなく。

 近づく魔獣は、全ていつの間にか切り捨てられていく。


 その姿、まさに最強!


 一切の武器も出さず。

 ただ静かに歩むのみ。

 だが、魔獣の死体という結果だけがその強さを物語る。


 彼が正門に辿り着いた時には、魔獣はもう1匹も動いていなかった。


 やがて女性たちが彼の前にひざまづく。

 忠誠を誓う主人への態度。


 美しいエルフの女性が王太子を誘導し、王太子は彼を先生と呼ぶ。

 彼は王太子に自らの英雄の衣を掛ける。


 そして言った。

 皆の力である、と。


 自らの力を誇るでもなく。


 街全体から歓声が上がる!


 正しく英雄の姿。

 救世主、勇者、彼をそう呼んだ。


 だが、ほとんどの者が気づいていた。

 彼を示す最も正しい名を。


 それは世界最強、ランクNo.0!




 世界ランクを示す世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。

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