第69話ゴンザレスと聖剣④

(……助けて?)

(無理に決まってんでしょ!

 やっちまう前ならともかく、既成事実が付いたらもうどうにもなんないわよ!)


「あるじさ、アレス様?

 エルフィーナ、何をこそこそ話してらっしゃるのかしら?」

 あ、なんか寒い。

 魔力で威圧放っておられますね?


「イリスさん、ちょっと殺気抑えて?

 ちょこ〜っとだけ寒いかなぁ、なんて……」


 ジーっとNo.8に見られる。

 そして可愛く拗ねたように呟く。

「……ご命令なら」


 なんで!?


 誰が世界ランクNo.8に命令すんの!?

 俺、俺なの!?


「はは、ははは……、お願い、かな?」

 乾いた笑顔でお願いする。


「……分かりました」

 渋々といった感じでNo.8は殺気を抑える。

 あら、素直な良い子ね?


「あんた死んだわね。こんな子を惑わせちゃったんだから」

 エルフ女はジト目で俺を見た。


 ははは、やっぱり?

 詐欺って罪深いよね?


 だが、しかし!!

 それでも、俺は生きる……!






「多分、伝承が正しければだけど、聖剣はこの砂漠のこの辺りにあると思うの」

 エルフ女は地図に書いてある砂漠を大きく丸する。


「この辺りの何処?」

 大きな丸は砂漠のほとんどを示している。


 エルフ女は答える。

「さあ?」


 うん、聖剣売るの諦めて地道に詐欺して稼ごうかな!

 俺は立ちあがろうとするが、それとなく隣のNo.8にしなだれかかるようにしがみつかれる。


 に、逃げられない。

 ピクリとも動かんぞ?

 どうなってんだ?

 その服の下には鋼の筋肉がついているのか!


 ……非常に女性らしい柔らかさで天に昇る心地でした。

 そんなので、どうやってこのパワー出してるの、ねぇ?


「師匠!

 No.0無しでも僕は聖剣を手にします!

 こんな奴ついて来なくても大丈夫です!」


 キョウちゃんが勇ましくそう言った。

 No.0じゃないぞ?


 勇ましいのだろうけど、こじんまりしているから仔犬がキャンキャン言ってる感じ?

 ちょっとほっこり。


 この娘も美味しそうだよねぇと舌なめずりをすると、素早くエルフ女の背後に隠れられた。

 ちぃ!


 でも確かにあの砂漠の中に突っ込むぐらいなら、そもそも行きたくないな。


 よし! 君らだけで行ってこい!


「何考えてるか大体わかるけど行くわよ」


 俺はエルフ女に手を引っ張られ連れて行かれる。

 その後ろを黙ってNo.8が付いてくる。

 私は怒ってますと頬を膨らましながら。


(ちょっと、あの子なんで怒ってんのよ?)

(あ、やっぱ、そう見える?

 ハハハ……俺に分かるか!)


 そこにキョウちゃんが話に割って入る。

(師匠もNo.0も本気ですか?

 どう見ても嫉妬ですよ。

 さっきNo.0が僕を見て舌なめずりした時に、すっごい殺気ぶつけられたんですから)


 キョウちゃん、だからエルフ女の影に隠れたのね。

 全員で背後のNo.8を警戒しながら王宮を出た。






「そうか、先生は行ってしまわれたか」

 兵の報告を聞き、シャーリースは身支度をしながらそう呟いた。


「最初は胡散臭いとも思いましたが、あの方は想像を超えるほど大きな方でしたわね」

 ユウナはシャーリースに戦闘衣装の上着を着せる。


 まさか世界ランクNo.8を従え、勇者パーティーの『リーダー』をしているとは。


 ゴンザレスが聞けば、いつの間にリーダーに!?

 そう驚くことだろう。


「大砂嵐のお手伝いをお願いしなくてよろしかったのですか?」


 大砂嵐は数年に一度発生する魔物の侵攻だ。


「出来ぬよ。

 大砂嵐を外部の者に手伝ってもらうなど末代までの笑い者だ。

 例え相手が先生であろうともな」


 大砂嵐は例年であれば、数十の魔獣を狩る程度セレモニーに近い。

 現段階では手伝いを願い出るだけで、王太子失格の烙印を押されるだろう。



「しかし、今回は魔王の影響で……」

 ユウナの懸念はシャーリースは分かる。


 今回はどれほどの魔獣が、襲いかかってくるか分からないのだ。


「なればこそ、よ。

 あの方が真にNo.0であると言うならば、聖剣の伝承もまた真実。

 我らの都合で邪魔だてすればそれこそ世界が滅びる。


 ……それに我が国のことは我が国でなんとかせねば、な」


 ユウナはただ頭を下げ、夫の無事を祈るばかりである。

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