第68話ゴンザレスと聖剣③

 そして、何故か王宮の一室にて。

 実に立派なお部屋に御座います。

 これって王様たちのプライベート空間じゃないの?


 最近、『何故か』が多いなぁ。

 俺ことゴンザレスは遠い目をする。


 王太子とNo.8が話をしている。


「なるほど、聖剣を」

「はい、剣聖の担い手というエルフと勇者が街の広場に来ているはずです」

「分かった。すぐ連絡させよう」


 パチンと指を鳴らすと、兵士が走ってきて、王太子がエルフ女と勇者のことを伝えるとシュタタタと兵士は走っていく。


「先生たちはゆっくりお待ち下さい、では」

 そう言って、王太子は一礼して部屋を出る。


 えっ?

 あれ? 置いていくの?

 ここ来客用の部屋なの?

 すげぇ豪華な天蓋付きベッドもあるけど……。


 それでもソファーでグッタリする俺にNo.8は向き直り、一礼する。


「流石はあるじさ……アレス様ですね。王族の先生になっていたのですね」


 あるじ様でもこの際、どっちでもよい。

 カストロ公爵領のことといい。

 ほんと、なんでこんなことになってんのかなぁ?

 俺、詐欺師よ?


 あ、でもカストロ公爵領のことはカストロ公爵の策謀なんだろうな、多分。


 まあ、いっか!

 どうせもうカストロ公爵領行けないし!

 行ったら殺されちゃう!

 この地雷女のせいで!!


 ……いっそもう一度手を出してしまうか?

 ゴクリと喉が鳴る。

 甘美な禁断の林檎は何度でももぎたくなってしまう、人の業である。


 禁断なので食べたら死にそうだ。

 食べさせられたけど。


 ……とりあえずまー、いっかー。

 そう思って手招きしてみると、素直に元王女の危険な美女No.8は隣に来た。


 あら? 良いのかしら?

 カストロ公爵様への浮気じゃなくて?

 ……すでに事後だからバレなければ良いと?


 怖いけれど美女であるNo.8と半ばヤケ気味にイチャイチャぐーたらしていると、程なくしてエルフ女とキョウちゃんがこの部屋に案内されて来た。


「おー、エルフ女ー。

 キョウちゃん! 早いねー」

「早いねー、じゃないわよ。

 なんであんた王宮に居んのよ?」


 キョウちゃんは落ち着きなくエルフ女の服の袖を掴んで、エルフ女はいつもの感じ。

 お〜、このいつもの感じがなんか落ち着く。


「わかんねー。教えて?」


 俺が軽口を言うと隣に寄り添うNo.8が代わりに答える。


「アレス様が王太子と王太子妃の先生だったそうですよ?」

 No.8は何故か嬉しそうに俺の方を見て笑う。

 あら、可愛い笑顔。


 その様子にエルフ女はギョッとした顔をして、俺の方にコソコソっと。


(ねえ? あんた、なんで急にあるじ様呼びから、アレス様呼びに変わってるのよ?

 後、なんかイリスの雰囲気が……。

 何かあった? あんたまさか!)


 流石、エルフ女!

 見事な察知能力だ。

 ……すでにソファーでイチャイチャしてるもんな、見りゃ分かるか。


(食べられちゃった、てへ)

 食べたのではない、食べられたのだ。


(てへ、じゃないわよ!

 どうすんのよ!

 あの子カストロ公爵の女でしょ?


 カストロ公爵領で暮らして分かったけど、あの子すっごく慕われてて、いずれは公爵様の嫁になるって皆言ってたわよ!

 洒落になんないわよ!

 なんで公爵の女、寝取ってんのよ!?)


 ほんとそんな女なのに、なんで浮気してんだよNo.8。


 ふっ……、より良いオスを目指すは女の業か、それともNo.8も甘美な浮気という果実に溺れたか。


 それでも処罰されるのは俺だけなんだよねぇ、世知辛い!!


 噂の『お嬢』とほぼ同じぐらいNo.8が慕われている様子は、事あるごとに聞いた。


 お館様に是非に嫁にもらって頂ければと言う言葉も。

 お館様って、俺じゃなくて本物の方だもんね。


(寝取った訳じゃない、襲われたんだ!)

(開き直るな!

 殺されるわよ!

 間違いなくあの領の人たちに!

 気付いてる!?

 あの領の人たちびっくりするぐらい優秀よ?

 追いかけて来るわよ!)


 うん、知ってる。


 騎士団とか凄いの。

 ビシッとしてるし奴隷の時の元軍人、今、カストロ公爵領の軍人オッサンも超強そうだった。


 内政官男も娼館の女主人も屋敷のメイドも使用人も全部、ぜーんぶ優秀そう!


 間違いなく、あの領で1番有能じゃないのは俺だった。

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