第64話ゴンザレスついに捕まる②

 混乱の坩堝るつぼの中。

 ハムウェイがパーミットちゃんの背後霊化しながら、ニヤニヤ笑っている。


「君は世界で唯一、僕が警戒する必要がある男だからね。

 余計なことをしないように、No.8に引き取ってもらうように呼んでおいたんだ」


 貴様か! 貴様がー!!!


 そんなことせんでも、怖くてパーミットちゃんに手なんか出せるかー!


 大体、俺の何を警戒するんだ。

 このクソイケメンがー!!!


 でもちょっとほんのちょっとだけ良い夢見れたので、ありがとう!

 だってNo.8怖いけど美人なんだもの!


 怖いので、心の中だけで叫ぶ。


 ちろっとNo.8を見る。

 船で見た時よりさらに綺麗になっているが、やはり怖い!


 怖いけど美人だから間違いを起こしそう!

 え? すでに事後である?

 はっはっは、そんな訳……ないよね?


 詐欺師がS級美女から性的に逆に捕食されるなんて、常識で考えてみれば分かる通り、あり得ないのよ?


 ねえ?


 あ! 結婚詐欺というパターンもあった!

 美女の方が悪い男に引っ掛かりやすいものかもしれない。


 いやいや、それは1流の詐欺師の話。

 あっしはそんな大層なお方ではごぜぇやせん、ゲヘヘ。


 ないんだよ?


 思い起こせば、カストロ公爵とか言う訳わからない立場も、コイツから始まった。


 そのカストロ公爵だが、以前はカストロ公爵アレス=世界ランクNo.0が同一人物説が主流だったが、最近、酒場での噂では、別人説が主流に変わっている。

 これはどうもかなり信憑性が高そうだ。


 何でも、カストロ公爵アレスは、イリス・ウラハラと行動を共にしており、元首などとの会談以外はカストロ公爵の行ったことではない。


 例えば、帝国領内での暗黒の暴龍退治やNo.2救出、邪教集団壊滅のそれぞれの時期に、カストロ公爵アレスはカストロ公爵領に居たらしい。


 それを聞いて、俺は少しホッとしたのは事実だ。


 何故なら、帝国での邪教の時もNo.2救出の時も俺は現場には居たのだ。

 つまり、俺がカストロ公爵ではないことは実証されたと言えよう。


 No.0は実在を疑ったままだが、やはり、カストロ公爵アレスは何処かで存在するのだ。


 No.8もそこを分かった上で、俺をあるじ様と呼んでいるのだろう。

 俺の影武者説は正しかった訳だ。


 そんな訳で迂闊にNo.8に手を出した日には速攻で、始末されることだろう。


 血迷って、手を出さなくて本当に良かった。

 え? すでに事後……いやいや、そのネタもう良いから。

 認めない、認めないからな?

 認めさせたければもう一晩……。


「あるじ様、どうかなされましたか?」

 俺が考え込んでいたので、No.8がそう声を掛けてきた。


「そのあるじ様、ってやめない?」

 影武者だから、あるじ様呼びなんだろうけど、こちらは影武者になることを了解した訳ではない。


 もっとも、公爵のような雲の上の人からしてみれば、俺からの許可など不要と考えているかもしれない。


 やっぱり、出来るだけ早く逃げよう。

 捨て石にされるなど、まっぴらごめんだ。


「では、アレス様では如何でしょう?」

 ぽっと顔を赤らめてNo.8は言う。


 ヤバい、怒らせたか?

 背筋を凍らせながら、それで良いです、はい、と了承する。


「アレス様、アレス様、うふふ」

 余程、俺の反応が面白かったらしい。

 No.8は嬉しそうに笑う。

 君はーアレだね、笑いながら、殺せるよね、俺を。


「いいね〜」

 ハムウェイがそう言う。


 何がいいね〜だ。

 貴様の目は節穴か。


 ……違うな。

 これは『良い』ではなく、都合が『いい』の方だ。


 貴様! それほどか!

 それほど俺を苦しめてまで、パーミットちゃんが欲しいかー!!


 まあ、S級美女だしね!

 俺なら欲しいね!


 問題は俺とパーミットちゃん、何にも関係がないってことだけ。


 何故だー! 何故俺を苦しめる!?

 関係ないじゃん、俺!?


 勝手に好きにしとけば良いじゃないかぁ!!


 そこにタイミング良く救世主の声が。


「すみませーん、ここにアレスという人が居ると聞いてきたんですけど〜」

 研究室の外から、エルフ女の声が聞こえた。


 おや、と思い研究室の外へ。

「助けて! エルフ女!!」


 ギョッとした顔で俺を見る懐かしの(?)エルフ女とキョウちゃんの姿。


 ガバッとタックル!


 本来なら俺のスピードぐらいなら避けられただろうが、不意をついたのが功を奏した。


 俺は見事にエルフ女にしがみついた。


「ひえ! は、離せ!」

「い、嫌だ! 一緒に逃げてくれると言ったじゃないか!」

「言ったがアレは違う! 洒落にならん離せ! アレス! あんた分かってやってるでしょ!?」


 うん、せっかくだし道連れにしようと思って。

 背後から冷たいオーラが。

「……アレス様?」


 はい。

 言葉もなく、静かにエルフ女から離れ、その場で正座。


「……抱きつく場合は私にお願いしますね、アレス様」

 冷たいオーラのまま、俺を見下ろすNo.8。


 いいえ、怖いのでご遠慮します。





 そして、研究室にてバグ博士にNo.8が事情を説明する。


「そうか、アレス君はカストロ公爵様でありましたか。

 初めて会った時から、ただ者ではないと思っていましたが、そうですか」


「はい、あるじ様……アレス様は世界を救う役目がありますので、これから旅に出ねばなりません」


 さらっとカストロ公爵様だという誤解を広めないで?

 そして簡単に納得しないでバグ博士。

 公爵こんなところにいる訳ないから。


 あと教えて?

 いつから俺は世界を救う使命を帯びたというの?


 詐欺師が世界を救えるなら、その辺歩いている一般人誰でも世界は救えると思うよ?


(ということで教えて、エルフ女。

(ちょ、ばか、今、私に話しかけるな!)

「エルフィーナ? アレス様からもう少し離れて頂けますか?」

「はーい♡」


 そう言って、エルフ女は俺から離れる。

(エルフ女ー! 俺を見捨てるのかー!)


 あっち行けとエルフ女は手で合図。

 冷たい……。


 ならキョウちゃんに。

 そちらに目を向けると、ぶるぶると子犬のように震えながら、あからさまに顔を逸らされた。


 冷たい!


 こうして俺はようやく手に入れた安住の地から、何故か世界救世の旅に拉致されたのであった。


 その時、No.1閃光のハムウェイは妖しく笑った。

「……これで邪魔者は排除した」


 貴様のせいだー!!!

 チクショー!!

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