第65話ゴンザレスついに捕まる③

 とまあ、無理矢理拉致された訳だが……。


 甘い!

 甘いぞ! 貴様ら!


 逃げてやった!

 逃げ切ったぞー!


 どうやってだと?


 木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中だ。


 コルラン国王都は当然、大都市だ。

 買いたい物があると言ってNo.8からお小遣いを貰う。

 何故か金貨100枚ぽんっと、渡してくれた。


 影武者してたから危険手当かなぁ?

 なんでそんな大金ぽんっと渡すの?

 怖いんだけど。


 ま、まあ、元王女だから金銭感覚おかしいんだな、きっとそうだ。

 それ以外ないよ?

 詐欺師がお小遣い頂戴と言ったら、金貨100枚とか渡すか?

 渡さないだろ!?

 そうだろ!

 そうだと言ってくれよ!!


 さて、とにかくそこからの手口は単純。

 市場の人混みに紛れて、おさらば〜。


 ……No.8と出会った日もこれで撒けたら、良かったんだがなぁ〜。


 前の時は人の多さが段違いだったから、簡単に後を付けられてしまった。


 とにかく! これでまた元の詐欺師生活頑張るぞー! そう心の中で気合いを入れつつ。


 ビクビクしながら街の宿で風呂に入り着替えをする。


 慌てて街を出ると思っただろ?

 すぐ捕まるわ!


 奴は鼻が効く。

 多分、強い奴らはなんらかのマーキングが出来るのだろう。


 メメの時もそうだった。

 恐らく、ある程度距離が離れれば大丈夫だとは思うが……。


 それがどのような手段なのかは不明だ。

 不明だが、普通に逃げても駄目なのは確かだ。


 俺はその可能性の一つは匂いにあるのではないかと疑ったのだ。


 奴らは犬と同じということだ。


 餌あげてないよ? なんで付いてくるの?

 むしろ、俺が餌を貰ってるよ?


 まあ、いいや。

 No.8からも何故か知らないけれど金貨100枚貰えたし、これで暫くは生活にも余裕が出る。


 影武者生活の代金として有り難く頂戴しよう。


 こんな風に報酬貰って事前に貴方は影武者ですと言われてたとしても、いつ殺されるか分からないどころか、いつでも暗殺の危険のある生活なんてご免だ。


 俺は安全に平和に本を読んで暮らすんだ。


 その意味では、このコルラン国での研究室生活は実に理想的だった。


 ちょっとS級美女の側には危険な猟犬が居たけど、近寄らなければどうということも無かったはずだ。


 不思議と昨日から、心も体もスッキリしてるし、また暫くは根無草の生活でも大丈夫そうだ。


 ふんふ〜ん、と鼻歌を歌いながら少ない手荷物を準備する。


 不足分は次の街にでも買い揃えよう。

 この間、初めての田舎暮らしをしてみたが意外と悪くなかった。


 都会育ちだから都会でしか生きていけないかと思ってたが、思い込みは良くないな。


 不幸な事故で里を出て行くことになったが、ああいう生活もまたしてみても良いかもしれない。


 とりあえず次は行ったことのないコルラン国の奥かな?


 さあて次はどんな美女と出会えるかな?

 磨けば光るタイプを育てるのもありだ。


 では、詐欺師ゴンザレス出発しますか。


 あばよ! コルラン国首都!

 楽しかったぜ!





 ガチャっと扉を開ける。


「アレス様、ご準備出来ましたか?

 では、出発しましょう。

 エルフィーナたちは先に聖剣のある地域に向かいましたので、私たちも後を追って行きましょう」


 扉の横の壁にもたれるようにして、No.8がとても見惚れる笑顔で立っていた。


 ギギギ……とゆっくりNo.8の方を見る。


「な、なんで、追えて……?」


 キョトンとした後、言葉の意味が分かったのか、笑顔で答えてくれる。

「ああ! メリッサお姉様にマーキングの仕方を教えて貰ったのです。

 アレス様はすぐに何処かに旅立ってしまわれるので、なかなか追い掛ける余裕が無かったですけど」


 メリッサお姉様、って誰?


 乾いた声で尋ねる。


「メリッサお姉様ですか?

 カストロ公爵アレス様の愛人で、元レイド皇国の皇女様ですよね?」


 ですよね? って知らんがな。


 あー、奴隷の時に情報聞いたなぁ、あれってNo.0の話じゃなくて、カストロ公爵の話だったのか。


 それでカストロ公爵繋がりでNo.8と交流があるのね?


 改めて考えるとカストロ公爵すげぇな。

 ここ最近のNo.0の噂の半分が、カストロ公爵のやったことだろ?


 No.0は実在が怪しいけど、カストロ公爵は実在しているみたいだしな。

 生ける伝説だな。


 しかもメリッサ元皇女って帝国に居るんじゃなかったっけ?

 公爵なのに、フットワーク軽いね。


 俺、影武者にされてるけど会ったことない。

 まあ俺みたいな詐欺師が、公爵みたいな雲の上の人に会えることはないか。


 あーそっか、愛人の話は公爵様かぁ、それならあり得るよな。

 公爵だもんな。

 公爵って確か王族の係累だもんな。


 その王族の元王女のはずのNo.8が、俺の付き人のように活動しているのが理解不明だけど。


 もうNo.0ではないことぐらい気づいてるだろうし……。


 ……気づいてるよね?



 こうして逃げ切れたと思いウキウキしていた俺はまた捕獲され、恐ろしい聖剣探しの旅に連れられて行くのであった。


 俺を連れて行って、どうしろっていうんだよぉぉおおおお!!!!!!

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