第48話ゴンザレスとケーリー侯爵①

 どうもーアレスですー。

 ゴンザレスでもいいですが。


 いや、もうどっちでもいいや。


 ついにエール共和国でも、お尋ね者となりました!


 はっはっは、どうしよー。


(ねえ! ちょっと、どうすんのよ?)

 隣に座ったエルフ女が声を抑えてそう言ってくる。


 そんなエルフ女と俺なのだが、現在な・ぜ・かケーリー侯爵の屋敷にお邪魔しております。


 なーんでこうなったかなー。




 颯爽さっそうとエール共和国を出てエストリア国に入った訳だが、山崩れで最短ルートが封鎖されだいぶ遠回りを強いられた。


 だから本来は通るつもりのなかったケーリー侯爵領に足を踏み入れてしまった。


 とは言え、謎のカストロ公爵領とかいうNo.8の居る地方は、領内の中でもここからは端と端ぐらいには離れている。


 早速、旅の疲れを癒すために宿を取り、酒場で少し早めの食事を取って、酒場のキャサリンちゃんから勇者の話を聞いていた。


 今までなら、キャサリンちゃんを口説いていたはずだがメメちゃんの恐ろしい罠によって、すっかりS級にしか食指が動かなくなってしまった。


 S級なんてそう簡単にいねぇからS級なんだよなー。


 まあ、今は適当な口実で一緒に行動しているS級のエルフ女が居るからいいけど。


 もちろん、恋人とかそんなことはないしお互いに考えたこともない。

 勇者探しの一時的なパートナーに過ぎない。


 ま、持ちつ持たれつということで。


 で、それはいいんだ。

 問題はその酒場からの帰り道、まだ暗くなる前にある大きな屋敷があって、それをちょっと遠くから眺めていた。


 ああ、そういえばこの屋敷でも大変な目に遭わされたなぁ、と。


 ここポイントね!

 ちょっと遠くから。

 近付いてないよ?


 でも、向こうから執事らしき人がさささと近付いてきた。


 逃げたかったけど後ろ暗いことがバレるから逃げれなかった。


「もしや? カストロ公爵様ではありませんか?」

「いいえ、違います」

 目を逸らし、即答。


「成る程……失礼しました。

 あくまで秘密裏にケーリー侯爵様に会いに来て下さったのですね?

 では、こちらへどうぞ」


 違うって言ってるじゃん!

 人の話聞けよー!


 あれよあれよもなく、連れて行かれた。

 逃げたかったけど、なんだかこの執事さん出来る雰囲気醸し出してるから逃げ切れるイメージが無かった!


 とまあ、そんな訳で借りて来た猫のように豪華なふっくらソファーに身を沈ませている訳で。


 どうすんの? と言われたところで、どうにも出来ん!


(いきなり侯爵に直接会うって、あんた何したのよ?)

 まだ侯爵は来ていないが声は潜めてエルフ女は俺に尋ねる。


 それに対し、俺は絞り出すように返事を返す。


(……詐欺さぎった)


(は?)


(公爵をかたって、土地を取った)


「はー!? あんた一体何してんの! 何がどうなったらそんなこと……!」


「シー! シー! 声でかいエルフ女! 落ち着けって」


 そこにタイミングを合わせたように、侯爵が扉を開ける。


「おや? お取り込み中でしたか?」


 金ピカ貴族のおっさん。

 金髪太り、やたらとジャラジャラと悪趣味な服でザッ貴族って感じ。


 口元は笑顔だが、相変わらず目が笑っていない。


「いえいえ、些末さまつなことですよ?

 ウチの連れが侯爵様にお会いするのが緊張すると申しましてね。

 寛大な方だから大丈夫と伝えたところですよ」


「それはそれは、カストロ公爵殿にそう言われるとは恐縮ですな」


 はっはっはと互いに笑う。

 侯爵様は目が笑っていないが、俺は目も笑うぞ!


 だってもう笑うしかない。

 公爵様って誰だよ!

 カストロ公爵って結局ウラハラ国のどんな奴だったんだよ!

 知らねーし。


「さて、ゆっくりと積もるお話でもしたいことですが公爵殿もお忙しいお方。

 例の用件で来ていただいたと思っておりますが、如何かな?」


 如何も何もないよ!

 来る気なんてかけらもないし!


 例の用件って、何だよ!?

 誰とそんな話していたんだ?


 聞くのこえーけど、聞くしかないか。


「はて? 申し訳ない。旅先でたまたま通りがかったところ、侯爵様の執事殿に呼び止められたまで。

 用件については私には預かり知らぬ事です。

 教えて頂けますか?」


 ぐっと息を飲む侯爵。


 ええ!? 何で?


「……要求は、なんだ?」


 要求って……何?

 でもまあ今の要求と言えば、そりゃあ……。


「勇者、ですが。ご存知ですよね?」


 何処に居るか、知ってるよね?

 それだけを聞いたのだが何故か侯爵は握り拳を作り、ぐぬぬ、と震える。


 エルフ女が、ちょっと、大丈夫なの!? と目で訴えてくるのが分かる。


 知るかー!

 何で居場所聞いたら、こんなに震えるのかさっぱりだ。


「……貴殿は、どこまで……知っている」


「いえ、何も?」

 まじで何にも知らんよ!?


「分かった……。国には私から働き掛ける。だが、今、確約は出来ない」

「あー、はい。じゃあ、せめてこのエルフ女を会わせる事は出来ますか?」


 会うのにも国の了解が要るなんて、相変わらず大物だねぇキョウちゃん。


「え? アレスも一緒じゃないと嫌だよ?」


 普通の女に言われたなら嬉しい限りだが、コイツに言われてもなぁ。


「いや、もう金無いし」

「えー?」


 あ、やべ、ケーリー侯爵の前だった。


「そのお方は……?」

 ケーリー侯爵が何故このエルフ女を『そのお方』呼び?


 もう何が何だか。

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