第49話ゴンザレスとケーリー侯爵②

 カストロ公爵領を渡してしまった事は、失敗だったのではないか?


 ケーリー侯爵は何度、自問自答したかは分からない。

 制御出来ないのだ。


 当初は実績もないカストロ公爵に土地を渡す事ははばかれたために、名義上ウラハラ国元王女イリス・ウラハラに譲渡する形をとっていた。


 その後コルラン国との大戦後、イリス・ウラハラの意思により、カストロ公爵アレスの土地名義に変更が為された。


 エストリア国としても国内に他国を作る訳にもいかないしその方が都合が良いと言うのと、コルラン国との大戦の英雄に全くなんの報酬を与えないのも非常に不味いという政治的判断もあった。


 だがそれが却ってカストロ公爵領の独立を加速させてしまった。


 急速にその力を伸ばし、今ではケーリー侯爵の派閥の一員というには、多少の無理が出ているのではないかと話題にもなるほど。


 それでも立場で言えば派閥の一員のままではあるので始末が悪い。


 確かに、カストロ公爵領からの恩恵は計り知れない。


 交渉の場ではしてやられたが、土地を譲った事は結果的には良い事づくめではあった。


 自然とその領は自身の派閥と捉えられ、国務大臣たるケーリーの地位は急上昇。


 宰相については、怪物と呼ばれる鉄壁の者が居るので叶わないが、もしやすると副宰相に手が届くかとも思われた。


 


 そもそも何故、国務大臣のケーリー侯爵がイリス・ウラハラ元王女とカストロ公爵アレスと面会しようと思ったかと言えば、ケーリー侯爵は裏で帝国と繋がりがあったからだ。


 とは言っても、裏切りとかそういう事ではない。

 帝国内部も一枚岩ではない。

 情報のやり取りや交渉は常に水面下で行われる、それが政治というものだ。


 帝国の拠点が潰された際、帝国関係者に交渉材料とするための情報を探ろうと、No.8イリス・ウラハラ元王女を拠点を潰してもらった報酬を渡すからと屋敷に招いたのはそのためだ。



 本当はTS細胞を使用したかったが、それには国内外への根回しが済んでおらず、公務に支障が出る恐れがあった。


 そのため使用後しばらくは公務がない状態が望ましかった。


 それを小癪こしゃくなカストロ公爵、いや、No.0に防がれてしまった。


 とは言えそれ以降、こちらにNo.0が何か仕掛けて来る事はなかった。


 切り取られた田舎のはずの土地は僅かな期間で今では世界最高の領とまで呼ばれている。


 何かの冗談のようであった。

 元々ウラハラ国というのは帝国の隣にあった小さな小国。


 そのような存在は、エストリア国のような大国で見れば子爵程度。

 頑張ったところで伯爵が良いところだろう。


 ウラハラ国の元王女という肩書きも大したものではない。


 大きいのはNo.8という世界を代表する戦闘力ぐらい。

 それとて政治力などとは別の話。


 国の上層部に於いては1要素に過ぎない。

 戦時において1人で戦局を変えられるというのは脅威以外の何者でもないが。


 とは言え、世界ランクNo.1でさえコルラン国の大軍と共に撃退されている。


 いや、アレは世界ランクNo.0が関わっていたと報告があった。

 実際にカストロ公爵領からも部隊が出動している。


 その数、僅か500!


 万の軍隊が戦う中でたった500で何が出来よう?

 500など精々男爵程度の兵力でしかない。

 誰しもそう思うだろう。


 故にエストリア国の怪物宰相ですらその報告を聞いた時、意味が分からず聞き返した程だ。


 その500がNo.1を撃退し大要塞サルビアを救い、さらには万を超えるコルラン国の大軍を追い返した、と。


 あり得ない。


 その場に居合わせた誰もがNo.0の底知れなさに震えた。


 もし奴らが居なければ、おそらく大要塞サルビアは失陥しエストリア国は大きくその領土を切り取られていただろう。


 そう思える程度にはコルラン国は本気だった。


 エストリア国としては、カストロ公爵に褒美を与えない訳にはいかなかった。


 故にNo.0を王都に呼び寄せるはずであったがNo.0は忽然と姿を消した。

 何かの詐欺のようだった。


 代理の者を要請したが、カストロ公爵領の領主代理を自認するウラハラ国元王女イリス・ウラハラはこれを固辞。


 ただ土地の名義だけはカストロ公爵アレスの物にするようにと言っただけ。


 曰く、あるじ様の指示なく勝手に恩賞は貰えない、と。


 お前が公爵のあるじじゃないのかよー!?


 またしてもエストリア国上層部は思った。

 何故、元とは言え王女が公爵の下についているのか、さっぱり分からない。


 降嫁したというなら分かるがそのような報告はない。

 まあ、それさえもイリス元王女のNo.0への慕いようを見れば時間の問題ではあろうが。


 なんにせよ、名義変更のみでは大戦の英雄への褒美としては十分ではない。

 防衛戦でさして得る物が無くても、形だけでも金なり勲章なりを渡しておかなければならない。


 しかし褒美を渡そうにも、肝心の渡す相手が姿を見せない。

 ……見せないが信じられないような噂だけは伝わってくる。


 その噂の中でも、もっともケーリー侯爵を悩ませたのが帝国のカストロ公爵への扱いである。


 始めはNo.0がNo.2と帝国を救ったという話である。

 ケーリー侯爵も現在は世界の危機なのは分かっている。


 分かってはいるが、仮想敵国に当たる帝国とNo.2をNo.0が救ったと聞いて余計なことをしやがって! そう思わずにはいられなかった。


 エストリア国のナンバーズはNo.8のイリス・ウラハラを除いて全て死亡している。


 よってエストリア国の防衛力としても、否が応にもカストロ公爵領の価値は高まってしまっている。

 それを囲った(ように見える)ケーリー侯爵の評価も上がる。


 対して帝国はNo.2、No.9、No.10全て健在である。


 不確かな情報ではあるが、No.9、No.10もかつてNo.0に命を救われたことがあると言う冗談みたいな話だ。


 もう訳が分からない。


 だが、そこまではまだ良い。

 No.0の噂自体が元々訳が分からないものだし、虚実内混ぜなものだ。


 No.0がただの詐欺師などと言う噂があるぐらいだ。


 ケーリー侯爵としてもこの説を1番に支持したいところだが、本人と会ったことがある身としてはこれだけはないと断言出来る。


 その詐欺師が無手で最強勇者と呼ばれる者を制したり出来るというのか?


 しかも世界ランクNo.8の絶対の忠誠まで得ている。


 ケーリー侯爵もNo.0がただの詐欺師というあり得なさすぎる情報に、思わず腹を抱えて笑ってしまった。


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