第50話ゴンザレスとケーリー侯爵③
衝撃はNo.2のことだけではない。
繰り返しになるが、そこだけならまだ良かったのだ。
No.0は帝国も救って見せ、またいつものように忽然と姿を消した後、何故か商業連合国代表と会談している。
帝国ランクNo.1を愛人として連れたカストロ公爵として。
お前ほんと誰だよ!?
これには聞いた瞬間、ケーリー侯爵は頭を抱えうずくまってしまった。
もうその
派閥にある以上それらの失態の最終責任を負うのは、その派閥の長たるケーリー侯爵になる。
その会談がどのように行われたのか真相は分からない。
その後、如何なる奇術か、魔獣の襲来でボロボロになっていたはずの帝国は急速にその国力を回復させ、商業連合国を併合させてしまった。
これには世界各国が驚嘆した。
帝国内部からすらもその時点ではこの奇術のカラクリを理解していない者が多かった。
……というよりほとんどであった。
ただ情報部が得た情報では後日、元商業連合国代表ベルファレスはこう言ったそうだ。
『全てカストロ公爵にしてやられた』と。
情報部がその過程を整理すればするほど、それは驚愕と言って良い話であった。
帝国が魔獣に襲われ、確かにその時点で弱体化した帝国は商業連合国のエース高原に対する要求を断れる段階にはなかった。
だがら交渉の場ではその要求をどこまで譲れるか、それが焦点となるはずだった。
ところがカストロ公爵はその商業連合国の要求を『全面』受け入れ、代価として要求したのが辺境のセントラル川。
大きな森に面しており、かつては小国のウラハラ国の領土の一つ。
商業連合国がウラハラ国が滅びたドサクサに紛れ接収した重要度は低い地域、だったはずだ。
そもそも何故か小国ウラハラ国を滅ぼした帝国が、その国のカストロ公爵を起用し交渉に当たらせる。
それ自体はやはり異質なものであり、帝国内部のカストロ公爵への扱いが見え隠れする。
これに関してはカストロ公爵がNo.0であることを知り、さらにはイリス元王女と共に居たことを知るケーリー侯爵には簡単に気付くことが出来た。
No.0が帝国と交渉しウラハラ国の復権を求めたのだろうと。
分かったからこそ、その後の展開が分からなかった。
分かる訳がなかった。
カストロ公爵は元ウラハラ国の土地を貰っておいて、その土地に『なんの興味もなかった』のだ。
全ては帝国の利となる。
帝国はセントラル川に港を設置。
それだけなら大した事はない。
どちらにしても、森に囲まれたセントラル川周辺は辺境以外には成り得なかった。
その森が『全て』焼き払われなかったならば。
電光石火の如く行われた帝国のその動きは、各国が情報を掴んだ時には既に全てが終わっていた。
帝都とセントラル川を通じて商業連合国の首都を繋いでしまったのだ。
さらに焼き払われた土地は焼いた森の栄養で豊かな土地となった。
そこからの交易はもう一つの意味で商業連合国と繋いでしまった。
経済とは如何に先を読み、先に動くかにかかっていた。
一時の弱体により生き残りを賭けた帝国の商人は、自らの資産が無くなる前にと繋がった商業連合国へと経済的に襲いかかった。
命懸けでチャンスを伺い準備していた者と、一時の春を謳歌し油断し切っていた者、どちらがどうなるか考えるまでもない。
こうして商業連合国は帝国に喰われた。
それを仕掛けた者はカストロ公爵アレス、またの名をNo.0。
その結果、何が起きたか?
カストロ公爵領への帝国からの支援である。
この後、エール共和国にて姿を見せたカストロ公爵、いや、No.0はまたしても姿を消した。
それによりエール共和国からも、カストロ公爵領への冒険者を使った支援が行われ始めている。
No.0は何処へ行ったのか?
ケーリー侯爵は戦々恐々としてその行方を追った。
そうしている間に何故か武の国の残党を『いつの間にか』抱えていた。
いつ、何を、どうしたらそんな事が可能なのか?
海千山千を乗り超え政治に揉まれ、それなりに策謀についても自信を持つケーリー侯爵をしてさっぱり理解出来なかった。
そしてそいつがまたしても『何故か』目の前に居た。
もうケーリー侯爵はお腹いっぱいである。
ストレスでさらに太った。
前まではただの贅沢で太っていたが、今はストレス太りである。もっとも、太るほど食べられる贅沢が出来る立場であるという事は変わりようがないが。
執事からの報告ではカストロ公爵としてではなく、『No.0』として姿を見せたという事らしい。
生まれて初めて胃が痛い。
きっと気のせいではない。
相変わらず胡散臭い銀髪の男。
パッと見にはチンケな詐欺師にしか見えない。
おそらくNo.0がただの詐欺師という噂も、この男のこの姿に騙されたからだろう。
カストロ公爵領の報酬を根こそぎ取りに来たのだろう? そんな意味で問えば、
こちらの立場を当然のように見越してのことだろう。
ここまでの成果を出している以上、カストロ公爵にはそれなりの報酬をエストリア国として、渡さなければならないのだ。
それなりの報酬が一体どれほどになるのか、検討も付かないが、ケーリー侯爵としてはそれを相手に尋ねるしかなかった。
そこで提示されたものは予想を遥かに超えていた。
「勇者ですが。ご存知ですよね?」
……勇者の解放。
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