第47話ゴンザレスとエール共和国再び②

「とにかく、そのNo.8の子にあんまり会わなければ良いんじゃない?

 もう、あんたから騙そうという気ないんでしょ?」


「まあ、そうだな」


 そうだ、関わりを持たなければ良いのだ。

 俺はチンケな詐欺師。


 向こうは世界ランク入りの超有名人。

 本来、関わり合いのないはずの関係なのだ!


 結論が出て、色々スッキリしたところで聞いてたかのように、タイミング良く部屋の扉がノックされる。


「扉の外から失礼します!

 こちらにカストロ公爵様がいらっしゃられるとお聞きしましたので、ご挨拶にお伺いさせて頂きました!」


 俺とエルフ女は顔を見合わせる。


「あんた、公爵なの? 詐欺師はどうなったの?」

「し、知らん。冤罪だ」


 いいから行けっと、背中をエルフ女に押される。

 俺は足を踏ん張り抵抗するが、ズルズルと扉に近付く。


「ひ、人違い、部屋違いだろ?

 いくらなんでもこんなところに、公爵様がいらっしゃられることはない……」


 居るわけ……。

 そこでハッと気付く。


 居るわけないじゃん!

 普通、公爵って超大貴族だよ!?


 ……ということは、いかん!

 あの時の詐欺がバレた!


(おい! エルフ女、窓から逃げるぞ!)

(やっぱりあんた何かしてバレたでしょ! だから迂闊だって……)

(いいから行くぞ。なんなら置いていくぞ!)


 何か言いたそうにしながらもエルフ女は俺の後に続き、窓から外へ。


 幸い、周りを囲まれてはいない。

 なんだが大層立派な馬車が宿の横に停めてある。


 ちい! やはりエール共和国の元首を詐欺しようとしたのが不味かったか!

 結果は未遂だったが、詐欺をしようとしたのは事実。


 国家の威信を懸けて、詐欺犯を捕まえに来ても不思議ではない!


 どちらにせよエール共和国にキョウちゃんが居ないのは分かった以上、これ以上の長居は無用。


 早急におさらばしよう!


 こうして、俺とエルフ女はそのままエール共和国を後にした。







「そうか、行かれてしまわれたか」


 エール共和国元首マーク・アイスは部下からの報告を執務室の椅子で聞いて、そう答えた。


 魔獣の脅威を乗り越え、以前より心持ち精悍になった顔立ちになりチョビ髭も少し伸びた。


「お忙しい方だ。

 それも致し方あるまい。

 報告では、今回は帝国No.1ではなく、エルフの……それもおそらく剣聖の担い手を連れていたとか?」


 剣聖の担い手とは、古き伝承の一つ。


 詳細は不明だが、魔王現る時、忽然と現れ勇者に様々な教えを施すそうだ。


「実在、していたのか……」


 本人がそう名乗っていたという。


 だがそれよりも当然のように、カストロ公爵がその剣聖の担い手を連れて勇者を探していたことの方が、伝承の正しさを……それが実在することの裏付けなのだと誰もが思った。


「分かった。

 あの方がお会いにならないのであれば、それはそういうことなのだろう。

 下がって良い」

 あの方がお会いにならないということは、その必要がないからなのだろう。


 部下は敬礼をして執務室から退出する。


 あの国難を乗り越えて、エール共和国は飛躍的にまとまりを見せた。


 それは元首マークが覚醒したためとも言えるだろう。


 マークからすれば、それらは全てカストロ公爵の……No.0のおかげにしか思えなかったが。


 無論、誤解である。


「お礼の一つもさせて頂けないのは、こんなにも心苦しいとは、な」


 あの国難の前、マークの元首としての評価は決して高いとは言えなかった。


 それを彼により、あの僅かな会談で意識改革を施された。


 マークは国難に対し果敢に立ち向かった。

 持てる全てを使い、冒険者を統率し、そこに勇者の協力も得られた。


 彼女らが街の全面で魔獣侵攻を食い止めている中、恐るべき報告が届いた。


 背後の山側から同数の魔獣が迫る。

 流石にここまでかと思った、その矢先、山が崩れて魔獣を飲み込んだ。


 真実は後に分かった。

 彼の仕業であった。

 彼は最初からこれが狙いだったのだ。


 恐るべきお方で同時に尊敬すべき英雄。

 エール共和国は、微力ながらあのお方の力になることを誓った。


 故に、このようにエール共和国に入られたのならば歓待せねばと思い、人を送ったが無用と言わんばかりにまた姿を消した。


 最強勇者と名高いキョウ・クジョウ。

 彼、No.0の愛人とも聞く。


 その彼女に彼は会いに来たのだろう。

 彼は彼女の成長を待っているのだという話も聞く。


 やはり魔王を打倒するのは、勇者の力が必要なのだと確信する。


「エール共和国は冒険者の国。ならば、その方面からあの方の支援も可能なはず」


 冒険ギルドを通じあの方と勇者の全面支援を行う。


 それが今、エール共和国に出来ることであろう。


 決意を固めマークは立ち上がる。


 帝国エストリア国に続き、エール共和国もまたカストロ公爵領への支援をあの日から行っていた。


 全てはNo.0の力になるため。





 この日、伝承に僅かに残る、剣聖の担い手の存在が確認された。


 それは魔王に対する対抗策。


 その存在を表舞台に登場させたのが、他ならぬNo.0であるという噂が冒険者の間から世界に広まる。


 世界は確かに確信する。


 No.0が魔王討伐に乗り出すのだ、と。


 大きなうねりは世界を包み、そして魔王に到るであろう。

 そう誰もが感じた。

 彼以外。




 エルフィーナの言葉が正しければ、1000年前にはなかったはずの存在、世界の叡智の塔。


 その世界ランクを刻む世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。

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