第46話ゴンザレスとエール共和国再び①

 俺たちは、エール共和国に無事に入った。

 そこで、早速、キョウちゃんの居場所を探す。


 どうも、キョウちゃんはエール共和国を出て、エストリア国に戻ったようだ。


 入れ違ったようだ。

 とりあえず、長旅の疲れもあるので、暫くはエール共和国の街で休憩することにした。


 どうせ、俺にはどうでも良いことだし。


 少し早めに酒場にて、酒を飲む。


 エルフ女は焼き鳥を美味しそうに頬張りながら、エールを流し込み、ぷはーと実に楽しそうだ。


 そこには、勇者に会えなくて焦った様子はない。


「あれ? エルフ女。お前さん、勇者に会えなかったけどいいのか?」

 俺もエールを煽る。


 肌寒くなってきたから、夏場と違い、エールのぬるさが少しマシになってきた。


「良いんじゃない? 慌てる旅でも無いし」

 エルフ女はあっさりそう言う。


「俺は勇者に用はないから、いつまでも付き合わねーぞ?」


 キョウちゃん本人には興味あるけど、わざわざ探してまで追い求める気はない。


 エルフ女は食べた後の焼き鳥の串を、わざとらしくポトリと落とし、エールのカップをきちんと避けてテーブルにわっと顔を伏せる。


「酷い! 散々、アタシの身体をもてあそんでおいて捨てるんだ!」


 人聞きが悪い!

 見ろ! 酔っ払いどもが酒の肴を求めて、聞き耳を立ててるじゃねぇか!


 わざとなのは、分かっているぞ!

 何処で学んだんだ! そんなの。


「この間アレスが酔い潰れた後、酒場のお姉さんが教えてくれた。捨てられないように事前に言質取っておけって」


 酒場のお姉様方、余計なこと教えないで?

 逃げるのに邪魔になるから。


「実際問題、いつまでも2人分、金は払えないぞ? 

 それとも俺と一緒に仕事するか?」


 仕事はもちろん詐欺師。

 エルフ女なんて目立つからすぐ足がつきそうだから、その時は結局置いて逃げるがな!


「あー、詐欺師は勘弁かなぁ。

 でもアレス、ほんとにただの詐欺師なの?

 詐欺師がなんで密林に迷い込むの?

 ヤバい案件に首突っ込んで逃げてきたんじゃないの?

 そういうところ、アレス迂闊そうだし」


 人のいる場所で詐欺師と言うなら、もっと声を抑えろ!

 人に注目されたままなんだぞ!


 酔っ払いは常に酒の肴を求めている。

 酒の肴が無くても、酒を飲んでしまうが、酒の肴がある方がより酒は旨くなる。


 人の不幸なら、更に最高だ!


 後、俺が迂闊ってなんだ!

 俺ほど慎重でしっかりしている奴など、ほとんど居ないぞ!


「え!? 一般の人ってそんなに迂闊なの!?」


「そうだぞ!

 ……ってそれならやっぱり俺が迂闊だと、言ってるようなもんじゃねぇか!」


 え!? 違うの? とか言ってやがる。

 迂闊な詐欺師って、もう終わってんだろ。


「アタシ、勘はかなり鋭いと思うんだけど……。

 最強勇者とか言われてるキョウって子に呼び止められてたのって、アレス、貴方よね?」


 あー、その話をするのは流石に此処ではなぁ〜。

 酒の肴程度ではなくお縄になっちまうか、No.8あたりにバレて切り殺されちまう。


「それ以上その話が聞きたいならベッドでなら良いぞ?」


 場所を変えるという意味でそう言った。


 エルフ女はそれをどう捉えたかは分からないが少し顔を赤くして、良いよ、と。


 そうエルフ女が返事をしたので、俺たちは酔いが足りない感じはしたが少し早めに宿に引き下がった。


 まあ、そういう雰囲気になったんなら遠慮なく頂きますけどね!






 朝起きて、とにかく今日は全面休みと決めて部屋で昨日の話の続きをする。


「No.0? 何それ?」

 エルフ女は世界ランク自体を知らなかったのだから、そう答えるのも当然だ。



 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、元男でも関係無く愛せる慈愛の人

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0



「それがアレスなの?

 詐欺じゃないの?」


 俺は諦めたように肩をすくめる。


「詐欺と言えば、詐欺だ。

 だが言い訳のつもりはないが、俺はそこまで騙したりする気は毛頭なかった。


 当然、No.0なんて俺は会ったこともない。


 なのにどうやったら俺をNo.0と勘違い出来るのか、さっぱりだ」


 エルフ女は呆れた顔をするが、詐欺師と名乗っても特に嫌悪の色は見えない。

 1000年も密林に居たのだ。

 世俗的な話はどうでも良いのだろう。


 もっともそれだから俺に引っ掛けられているのだが、密林からここまで金を出し連れてきているので、その分は返却済みだと思っている。


「そもそもの発端が、そのNo.8とかいう女の子を騙そうとしたからなのよね?

 その子も騙され続けているとしたら、かなり純粋な子だったからじゃないの?」


 俺はそっと目を逸らす。


「……元王女様の純粋培養のはずだ」


 それにはエルフ女は軽蔑する目を向け、冷たい声で言う。


「……それはあんた、最低だわ」


 ……だって俺、詐欺師だし。

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