第45話エルフ師匠、通称エルフ女登場②

「なんか、騙された気がする……」


 密林をエルフ女の案内で抜け、帝国の端っこをかすめるように慎重に通りながらエストリア国に入り、そこから更にエール共和国に向かって移動中。

 事あるごとにエルフ女はそう言った。


 気がするんじゃなくて騙されたんだけどな。

 まあ、そこは口にしないけど。


 今も街に向け移動中にダラダラ話しながら、街道を歩いている。


 当然、エルフ女の特徴の耳は帽子で隠している。

 普通に美女と2人旅。


 ふふ〜ん、だ。


 何かあったら置いて逃げるけど、そうでなければこのままキョウちゃんのところに案内しても良いかな、と思ったぐらいにはエルフ女は美女だ。


 メメやNo.8の時とは違って金は俺が出している。

 ま、酒場の姉ちゃんに金を出す気分かな?


 バーミリオン国で詐欺の仕事をしてあぶく銭出来たし。


 意外かもしれないが俺は別にケチじゃないぞ!

 チンケな詐欺師だからいつも金が無いだけで!


 ま、普通、スラム上がりが金持っていたり良い女はべらかす方がおかしい。

 それでいうと今の状況もおかしい。


 普通に性格はともかく、エルフという種族が美形揃いの例に漏れず、エルフ女も良い女には違いない。


 思えばNo.8との出会いからここ最近の俺の詐欺師生活も、ビッグウェーブに乗っているのかも知れない!


 いいや違うな。

 明らかに危険なことの方が増えてる。


 何度も殺されかけたし、何度も捕まったし、何故か奴隷や海賊にもなった。


 ついには密林でエルフ女を拾うという事態にまで。


 本来なら今まで俺の身に起きた危険の、どれか一つでも起これば一巻の終わりだったはずだが……なんとか今も生きてる。


 人生よく分からんものだね〜。


「まあ、こんなところでその最強勇者コースだっけ? それをする気にはなれないからな。それに俺、勇者じゃないし。


 本物のところに案内するよ」


「究極最強コース! やっぱり騙されたのかなぁ……?」


 そう、俺は選んだけれど俺が修行を受けるとは言っていない。


 そもそも、勇者が受けるような修行を俺が受けると俺死んじゃうんじゃね?


 無理よ?

 ということで、キョウちゃんのところにご案内中。

 頑張れ! キョウちゃん!


 ただ、このエルフ女。

 1000年も密林に閉じこもっていたので、なかなか世間知らずだ。


 世界の叡智の塔の世界ランクも知らなかった。


「まあ、いいか!

 それで、その世界ランクの塔ってなんなのか分かる? 1000年前にも無かったし」


 そう、世界の叡智の塔は突如世界に突然現れた。

 だが、それがいつ現れたのか、誰も知らない。歴史書にも残っていないのだ。


「結局、その世界ランクナンバーズ? 勇者より強い人たちというのが訳わかんないわね」


 まあ確かに、化け物揃いのナンバーズが訳わからないのは確かだ。

 第一、何を基準に見て『強さ』と考えるかそこが分からない。


 ナンバーズだろうと首を切られたら死ぬし、実際、魔獣によりナンバーズも半数近くがお陀仏だ。


 魔獣一匹一匹がナンバーズより強かったりはしないだろう。それでも数の暴力でナンバーズは負けている。


 帝国の森で見かけたグレーターデーモンは別にして。

 あれはNo.2もヤバかったもんな。


 油の沼を爆発させて逃げられて、本当に良かった。

 もう遭遇しないことを祈る!


 あ、大量の魔獣プラスグレーターデーモンが居たからやられたのかもな?


 まあ、ナンバーズがどうなろうとどうでも良いんだが。


 なんにしても、世界の叡智の塔に関する本でも有れば読んでも良い。


 そういえば、世界ランクナンバーズ年鑑みたいなのもないよなぁ?

 過去にナンバーズが居なかったはずもないのにな。


 ま、本になってないならどうでもいいか!

 俺、ナンバーズ関係ないし!

 現存するほとんどのナンバーズと遭遇してるけどな!


 1人はあるじ様とか、言いやがるけどな!


「エルフ女も強いんじゃなかったっけ?」

「エルフィーナ!

 勇者の師匠に当たる立場になるからね。

 それなりに強いよ」


「密林から出て良かったのか?」

「どうせ1000年間誰も来なかったしね。

 お役目だからね〜。

 種族特性? みたいなもんかな? 私にもよく分かんない」


 なんで1000年間も大人しく待ってるんだ。

 出て来いよ。


 よく分からないことが分からないが、他人事なのでどうでも良いな。


 エルフ女は更に続ける。


「どうせ後100年ほどで、お役ご免で寿命死んじゃう死ね〜。

せっかくだし1000年ぶりに会えた人にこうして付いて行くのも、なんかの運命かな、ってさ」


 両手を広げ、平原の空気を吸い込むように身体を伸ばしながら、エルフ女はあっけらかんと言う。


 身体を伸ばした時にスタイルの良さが分かってムラムラっとする。

 もうじき街にもつくし夜には一戦願おう。


「寿命残り100年ほどなのか?」

「そうよー、生まれて約1000年お役目のために過ごして、ここから人と同じように歳取って寿命を迎える、そういう定め」


 少し寂しそうに笑うエルフ女。


 エルフの人生の大半密林に居たんかい。

 しかも、勇者来なかったらしいからお役目何にも無しか!


 ま、俺には大して関係はないが。


「ふぅ〜ん、じゃあ此処からが人生の始まりだな」


 何気に俺はそう言った。


「へ?」

 エルフ女は突然、立ち止まり俺を見る。


「なんだ? キョトンとして。

 残り寿命100年『も』あるんだろ?


 人の人生なら大往生だ。


 言っちゃあなんだが、美人で強いんだろ?

 だったら人生薔薇色じゃねぇか」


 俺なんか腕っ節なんか全くないから、いつもこの天才的な頭脳と美貌でどうにかしているというのに。


 ……酒場の姉ちゃんに、黙ってそれなりの格好していれば、それとなくイケメンという評価のあるイケメンだぞ!


「……そっかぁ、そうだよね。これから、『アタシ』の人生が始まるのかぁ……。しかも薔薇色かぁ」


 いや、知らんし。

 エルフ女は何故か嬉しそうにクスクス笑う。


「成る程ねぇ、これが運命って奴かぁ。


 1000年間アタシ何やってるんだろ、と思ってたけど、この為だと思うと案外悪くない気がする。


 うん、悪くない!」


 何か自分で勝手に納得した。

 後1000年間もほんとあんた何してたの、とは思うぞ?

 さっさと気づけよ?


 エルフ女はだーっと駆け出し、そして振り返る。


「アレスー! 早く行こー! 人生は短いんだよー! 楽しまなくちゃー!」

 へいへーい。


 エルフ女、なんかガキっぽくなってないか?

 まあ、1000歳だろうと人に関わらず、密林に居続ければ成長するわけも無いか。


 こうして簡単に俺に騙されてるし。


 ま、俺にとっちゃ甘い蜜が吸えるし、これもまたウィンウィンの関係って事で。


 こうして本来は勇者の師匠になるはずのエルフ女を、何故か俺はゲットしてしまった。

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