第43話熱砂のゴンザレス③

 ふんふ〜ん、簡単なものさ。


 2人に必要とか言って、背中を押すだけで良いんだ。


 だいたいだ、女の親と約束したんだろ?

 その前に手を出したら、ダメだよな?


 そうは言っても、ダンスでも壁にぶつかり不安いっぱい、さらにはお互いの気持ちがギリギリまで高まってしまっている状態で、この誘惑に抗える訳がない。


 ま、これでアイツらは引き返せなくなったから、怪しかろうと俺に指導を求めてくるしか無くなった訳だ。


 ごっつあんです!





 次の日、俺は朝のがら空きの酒場に1人座っていた。


 そこに2階から、あの2人が寄り添いながら降りてくる。


 お熱いことで!

 彼らが近づくと俺はにやりと笑う。


「どうやら、覚悟は出来たようだな。

 ……金貨100枚だ。どうする?」


 男は懐からガシャッと音を鳴らし、布袋をテーブルの上に置く。最初から用意していたのだろう。


 中を見ると……ウホッ。

 金貨たっぷり。


 それを受け取り俺は言う。


「これで俺もお前たちも、後には退けなくなったな。」

 この2人は相手の親との約束破っちまったから退けねぇけど、俺は関係ないけどね!


 俺は立ち上がり、男に向けて拳を出す。

 男も俺の拳に拳を当ててにやりと笑う。


「優勝へのサクセスストーリーの始まりだ。

 今日はゆっくり休んで、明日トレーニングの再開だ。

 いいな?」


 2人は覚悟を決めた目で頷いた。




 ……そして、俺は当然のように、この街から逃げ出した。


 あーばよー!


 騙されてやんの〜!

 金貨100枚サンキュー!!!








 ダンス大会、決勝。


 踊り手の男、王族シャーリース・バーミリオンと鳴らし手ユウナ・ヒンス公爵令嬢の2人のコンビは、会場全てを魅了した。


 2人が醸し出す圧倒的なまでの色気。

 それは激しく乱れ昇る竜のように、舞台に溢れ立ち昇る。


 見るもの全てが情熱の国バーミリオンのダンスは、かくあるべしと実感せざるを得なかった。


 そもそも情熱の国バーミリオンにおいてダンスとは神聖にして、そして神への祈りである。


 その祈りのダンスは魔力を練ることで、魔獣をも弾き飛ばす戦闘舞踊でもある。


 故にダンス大会優勝とは国1番の強者の証でもあった。


 シャーリースのダンスの壁とはその表現を形作る魔力の凝縮度。

 それをするには精神の有り様は大きく影響される。


 つまり命すらも賭ける覚悟は、魔力そのものをより洗練されたものへと変える。


 王族の中でも10番目の子となるシャーリースには誰も期待は抱いてはいなかった。


 幼馴染のユウナと恋仲でありながらその立場の弱さから、婚約者とは認めてもらう事が長い間出来なかったのだ。


 その中での神聖なるダンス大会。

 これに優勝しさえすれば王もヒンス公爵も2人の仲を認めると言った。


 ……反対に優勝出来なければシャーリースとユウナは引き裂かれ、2人は別々の相手と結婚させられることになっていた。


 2人にはもう時間は残されていなかったのだ。


 そこに突如として現れた胡散臭い男。


 彼は2人に言った。

『覚悟を示せ』と。


 それは確かに2人に足りなかったもの。

 王と公爵に認められる前の婚前交渉は、王家への反逆にすら値する。

 つまり優勝出来なければ処刑される。


 2人は命を賭けた。

 魂を。

 愛の全てを。

 それが圧倒的な密度の高い魔力を生み出した。



 そして2人の命を賭けた愛により、ダンスをより情熱的に、より色っぽく燃え上がり神に捧げられた。


 それこそが命を賭した愛のダンスなのだから。

 それこそが情熱の国バーミリオンの最強武闘のダンス。





 この日、期待されることのなかった10番目の王子が王の後継者となった。


 その傍らには新しい立太子の愛すべき幼馴染の公爵令嬢ユウナ・ヒンス妃の姿があった。


 やがて彼らはある結論に至る。

 あの日、2人に奇跡をもたらした男の正体に。



 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、元男でも関係無く愛せる慈愛の人

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0



『覚悟を示せ』

 人々にNo.0が告げる言葉。


 人々は確信する。

 その言葉はやがて大きなうねりとなり、魔王すらも穿うがつであろう、と。





 世界ランクを示す世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。

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