第42話熱砂のゴンザレス②
「……何が悪いか分からないんだ。昨年は上位入賞出来た。だけど、それ以上になると壁が乗り越えられない」
そりゃ、それ以上は運とかもあるしな。
実力者同士の差なんて明確に示せんだろ?
世界ランクNo.1とNo.2の差なんてどれほどかなんて言えねえし。
No.10だったあの女が前No.8を倒せた理由も、目の前で見せられてもよく分からんかったし?
あれ、実力はどう見ても前No.8の方が上だったしなぁ。
世界最強ランクNo.0って言ったところで、意外とただの詐欺師だったりするぐらいあると思うね、俺は。
あ、俺、違うからね?
危険なことに巻き込まないでね?
無理だからね?
誰にでもなく言い訳する。
「一万だ」
「は?」
鈍いねぇ、わざとかい?
「俺の指導料金貨一万だ」
相手がふざけんな、と一言口を開く前に。
「……だが俺も引退した身だ。金貨100枚で良い。
俺からしてもお前のダンスは気になっていた」
金蔓としてな!
「……少し考えさせて貰っていいか?」
考える時間を与えると、詐欺に気付かれるから畳み掛けたいところだが。
「……俺もこの国には長くは居ない。悩みがあるなら急ぐことだ」
金が無くなるから急いで金蔓さん!
そこで俺は話を変える。
「そう言えば、お前の鳴らし手……」
「俺の? ああ、ユウナのことか?」
ユウナちゃんと言うんだ!
良い名前!
是非夜に一戦!
「……良い鳴らし手だ。恋人か?」
超大事な質問だ。
妹とかなら、お兄様! 妹を俺に下さいと言わなければ。
「いや、アイツは幼馴染で……」
「ほう?」
あんな美女の幼馴染だと?
万死に値する。
「何か理由があるのか?
ああ、酒でも飲むか?
……すまんが酒を追加で」
支払いは……先行投資か、ここで支払いさせると金の面で疑われる。逆に奢ると金に困っていないと勝手に勘違いしてくれる。
昔から家が関係が近くユウナともよく一緒にいたらしい。
そのユウナとダンスの腕を磨き、もう少しで相手の両親に認めて貰えるかもしれないそうだ。
……恋人みたいなもんじゃねぇか!
肉体関係は?
無いだと!?
奪っとけよ! なんだその甘っちょろい考えは! お前もお坊ちゃんだろ?
それでなくとも魔獣が蔓延る中で明日無事に居られるかも分からんのに、のんびり恋愛を楽しんでて良いのかねぇ?
意外に思われるかも知れないが俺は初めての女は相手にしない。
したとしても、そういう商売の相手か冒険者とか一夜限りの関係で済ませそられそうな相手だけ。
後腐れなく生きたいからな。
後は、どーしても我慢出来ない時だけだ。
メメちゃん?
あんなS級が俺相手に初めてとか誰が想像出来るんだ!?
ありえん! ありえんことが起こってしまった!
それこそ俺が実は世界ランクNo.0なほどあり得ん!
まあ絶対無いけど。
それぐらいあり得んぐらいの奇跡だ、と言うことだ。
まあ今更、帝国には帰れない訳で、メメと会えないから考えても仕方ないけれど、ぐぬぬ。
「とにかくお前の原因はソレだ。ダンスに色気がない」
適当に指摘。
「俺の色気……?」
男は酒を片手に聞き返す。
ほんのり顔が赤くなっている。
酒でだぞ!
男が酒に弱そうで良かった。
酒豪なら金が足りん。
まあ、その時は是が非でも支払わせるがな!
適当に言ったが、そこそこ的を得ていると俺は思っている。
「このダンスをなんだと思っているんだ?
これは求愛ダンスだぞ?
色気のない男なんてなんの魅力がある?」
ズガーンと雷に撃たれたかのような衝撃を与えられたようだ。
そんな顔をしている。
しめしめ。
結局、当たり前なことを指摘しただけだが、当たり前ってやつを忘れずにやっている奴はそう多くないと言うことだ。
しかぁし! これで仕込みは十分だ。
俺は立ち上がる。
「……サービスし過ぎたな。金貨100枚だ。忘れるなよ?」
まるでさも相手の悩みの一つを指摘してあげたかのように、良いところで立ち去る。
もっと詳しく聞きたい! そう思わせるのが大事だ!
カモーン! 金蔓ちゃん!
翌日、予定通り酒場に男はやって来た。
女を連れて。
「俺のパートナーもアンタを見たいと。それで判断する」
流石、頼りないパートナーをフォローする女か。
ふむ、さてこちらを睨んでいるな。
愛しい男を騙すなってか?
だとすれば俺もやり易い。
俺は警戒を解くように軽く手を振る。
「少し彼女と話せるか?」
男に尋ねる。
ここで女に聞かず、男に聞くのもポイントだ。
男を仲介することで立場を明確にするとか、男と女の関係をそういう風に見てるとアピールすることで警戒を解く意味もある。
男は戸惑いつつ女に確認する。
女も戸惑いつつ頷く。
駄目だよ〜?
わっるーい男と二人っきりになったりしたら、どんな言いくるめしてくるか分かんないよ〜?
詐欺にはまず、チャンスを与えない! これ大事。
超超ベテランの交渉人なんかは会話が成立した瞬間に、どんな相手だろうと交渉が可能とみなせるらしい。
言葉のプロのステージに乗ってはいけないのだ。
んでもまあ、今回は大丈夫。
狙いは女の身体じゃないから。
金が狙いだから。
男には見える範囲で席を離れて貰うだけ。
女は少しだけホッとした表情を見せる。
やはり世間に揉まれてない。
表情でバレバレだ。
俺が金狙いで良かったな!
男が少し離れたところで彼女に優しく話しかける。
この時、見た目より大人の雰囲気を出すのがコツだ。
慌てずトツトツと話す。
「君は彼の目的が何かは知っているか?」
彼女は戸惑ったまま、口を開く。
「ダンス大会で優勝を、すると……」
「そうだね。では、その本当の目的は分かっているかい?」
この時、否定から入らず、逆に意見を受け入れるように話すことが大切だ!
「え? 本当の目的……?」
ふっ! かかったな!
この心の隙を突くのだ。
俺は優しく諭すように女に伝える。
「彼は君と添い遂げることこそが目的なのだよ」
言い切る。
ここは違っていても言い切る!
「皮肉なことに、彼が君と添い遂げるために必要なことこそが彼を優勝から遠ざけている」
女は怯えるように震えながら。
「私が、私の存在が彼の、邪魔に……?」
それに俺はゆっくりとだが、確かに首を横に振り否定する。
「いいや、逆だ。
君たちが添い遂げる条件としてのダンス大会優勝。
そのためには……まず、君たちが結ばれなければならない。
そうしなければ、彼は優勝に必要なための、『色気』を手に入れることは出来ない」
そして、俺は意味ありげに口の前で両手を組み彼女を見る。
「……さて、君に。君たちに、その覚悟はあるか?」
女がゴクリと息を飲むのが分かる。
俺は席を立ち彼を呼ぶ。
そして酒場のマスターに2階にある宿の鍵を手配。
彼らの前にその部屋の鍵を置く。
「覚悟が決まったらその鍵を持って行くといい」
そう言いながら、彼らの前で口の前で両手を組んだまま待つ。
彼らは暫し迷った後、互いに見つめ合い。
鍵を手に取り立ち上がった。
俺は微笑み、頷く。
彼らも覚悟を決めた顔で頷き二人で2階に向かった。
ヤッテ来い!
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