第41話熱砂のゴンザレス①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、元男でも関係無く愛せる慈愛の人

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0





 熱の〜砂漠を〜、一人〜行く〜。

 どうも〜、アレスですうー。


 ゴンザレスかもね〜。

 ジャックじゃないぞ?

 あれは奴隷だ。


 今、砂漠に居る。


 俺はなんでこんなところに来てしまったんだ……。


 帝国でははお尋ね者だし、コルラン国はNo.1が襲ってくるし、いっそエストリア国でNo.8に手を出してどろどろ執着されても良いかなぁ、と思ってしまった。

 顔は良いしなぁ、No.8。


 そこでウダウダ歩いてたら気付いたら南の国バーミリオンに入っていた。


 ついでだし、行ったことのないバーミリオン首都に向かおうと進んでたら砂漠に入っちゃった。


 やーっちゃったやっちゃった。


 やっぱり大人しくエストリア国でNo.8に手を出しておけばよかった、と思うぐらい砂漠はキツい!


 水!

 水くれ!!


 と心で言いながらもなんとかオアシスの大都市オフィーリア。


 ここはかつてオフィーリアという娘が情熱的にダンスを捧げて、うんぬんかんぬん。


 そんな訳で、この街は情熱の踊りの聖地と呼ばれている。


 ドンドコドコドコドコ。


 街の至る所から、タイコの音が響く。

 路上で踊りまくる男ども。


 この街のダンスは基本ツーマンセル。


 踊り手と鳴らし手の2人がダッグとなる。


 ジャック時代に看守から貯めたなけなしの金でもって、酒場で情報収集。

 酒場の姉ちゃんを口説く余裕もない。


 余裕があっても、前の様に口説きたいと思えなくなってしまった。


 すっかりメメちゃんに調教されてしまい、あのランクでないと、なかなかこちらから行こうという気が……。


 いかん! いかんぞ!

 なんと危険が危ない兆候だ!


 あのクラスに出会える可能性など一生に一度あるかないかだ。

 つまり、俺のような詐欺師には詐欺にかけても無理だ!


 ……あれ? メメちゃんといい、No.8の女といい、俺って一生を何回繰り返したんだろうという感じだ。


 そういう訳でモヤモヤしているので、柄にもなくダンスでも見てみよっかなぁと思ったりした訳だ。


 なんと言っても、もうじき国を上げてのダンス大会が開かれる。

 その賞金額なんと金貨100万と副賞ダンスマスターとしての道場開設許可!


 うん、副賞はいらんね。


 こういう魔獣蔓延はびこる辛い時期だからこそ、明るく楽しむ気持ちを忘れないのだとか。


 うん、どうでも良いやね。


 そもそもこの国ではダンスは職業として確立しており、催事に限らず魔獣討伐でも有名ダンサーが上位冒険者にもなっているとか。

 この国で1番強い冒険者もダンサーだそうで。


 うん? ダンスでどうやって?

 まあ、どうでもいいや。


 そんな訳で、俺はダンスに燃える若者を探し出し詐欺さぎることにした。


 そんな訳で街をぶ〜らぶら。


 街角では彼方此方からタイコの音と踊る男共で、うるさいしむさ苦しい。


 女はおらんのか女は。


 このダンスは昔から求愛行動としての側面もあるので、どうしても男の方が多い。


 いつでもモテない男は辛いね、詐欺師のゴンザレスも思わずホロリだ。


 この街のオフィーリアの伝説もだからこそ有名なのだ。


 女性が神に求愛してその愛を獲得したとかなんとか、胡散くさ!


 そんな訳で目は自然と女を探す。


 すると一組の男女が目に入る。


 男が踊り手で女が鳴らし手。


 男の方は筋肉質のそこそこイケメンだが、女が口の半分ぐらいを透明なベールをつけ、紫の紅。何処か扇情的な格好でエキゾチックな南国美女だ。


 この男女を是非詐欺ろう。

 あわよくば女を頂こうと近寄る。


 さて、こういうのは始めが肝心なのだ。


 ジーっと彼らの踊りを何処となく偉そうな雰囲気を出しつつ、見守る。


 ふふふ、分かる。

 分かるぞ?


 男の方が俺の様子が気になっているのが!

 ……どうせなら美女の方に興味を持って欲しいなぁ。


 まあ、いい。

 今は仕込みだ。


 俺は顎に手をやり男のダンスが佳境に入る頃、首を横に振り声も掛けずに立ち去る。


 ついでに他のダンサーたちの情報と過去の優勝者の経歴を探る。


 ふむふむ。



 そして、次の日もあの男女のところへ。

 また佳境に入るところで残念そうに首を横に振り立ち去る。


 次の日は行かず、さらに次の日。


 佳境のところで首を横に振り立ちさろうと……。


「待ってくれ!」

 男は俺に声を掛けた。


 掛かった!


「俺のダンスになんの不満があるんだ?」

 男は胸に拳を当て俺に呼び掛ける。


 俺は僅かに振り返り、一言。


「分からないか? 分からないならそれがお前の限界だ」

 意味ありげに立ち去る。


 男のダンスは上手いよ?

 多分、そのままでもいいところ行くんじゃないかな?


 優勝するかは分からんけど。

 ていうか、ダンスそこまで分からんし。




 その日の夜、少ない酒をちびちびと。

 あの男がやって来た。


 女を連れていないのは残念だが仕方ない。


 男は俺の前に座る。

「アンタは俺に足りないものが分かっているんだろ? 教えてくれ」


 俺はちろりと男を見る。

 そして無言で、酒をちびり。


 少ない酒だから大事に飲まないとすぐ無くなる。


 間を置いて口を開く。

「分からないか?

 ……アンタの胸の内に聞いてみたらどうだ?」

 男はグッと何かに気付いたようだ。


 少し押しておこう。

「前に比べダンスが楽しくないんじゃないか?」


 さらに男は息を呑む。


 そりゃ、悩んで俺のところにまで来るぐらいだ。

 楽しいわけない。


 当たり前。

 この当たり前を指摘するのが詐欺の手口だ。


 ちなみにだが詐欺師に近いエセ占い師も同じ手を使うが、そもそも占い師はカウンセラーの技術の方を使うことが多いので、似て非なる物だと俺は認識している。


 話が逸れたが要は相手の心の隙を突く、それが詐欺師だ。

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