第61話ゴンザレス、コルランに入る③

「さて、本日お越しいただいた件は、カストロ公爵領の一部を譲渡頂いた件ですね?」

 コルラン国の外相が口火を切る。


 それにはエストリア国外交官が否定する。

「譲渡では無い、貸出しただけだ。

 それもエストリア国としては預かり知らぬことですがね!」


 キッと俺を睨む外交官。

 俺は目を逸らす。


 俺も預かり知らぬーーー!!!

 カストロ公爵様が勝手にやったことです!

 犯人は見たこともないカストロ公爵様です!

 わたくしではございません!!


「そうですか。

 しかし、カストロ公爵とは正式に手続きを踏んでお借りしたもの。

 特に文句を言われることは無いかと?」


 コルラン国外相は俺をチラリと見ながらそう言う。

 それに反論するように、エストリア国外交官は、俺に怒鳴る。


「カストロ公爵! これは利敵行為と取られかね無い行動ですぞ!

 一体、何をお考えだ!」


 状況は何となく分からなくも無いが、何をそこまで怒るのか、俺には実は分かっていない。

 良いじゃん、余った土地を貸すぐらい。


「利敵行為とは……?

 貴国は我が国と戦争状態にある。

 そう言いたいのですかな?」


「いや、それは……」


 目の前でエストリア国外交官は、コルラン国外相に押し込められる。


 そりゃあ、仮想敵国で関係も宜しいとは言えないとはいえ、ハッキリと貴方は敵です、と言ってはいかんわな?


 というか、外交官なんだよね?

 冷静さ欠いてない?

 なんで?


 とにかく『俺のために』この場はフォローをせねば。


「落ち着け。外交官。

 土地を貸しただけで利敵行為などと、『思っても無いことを』

 そのような駆け引きなど無用だ」


 思ってないよね?

 そういうことにしてね?


「ぬけぬけと……」

 外交官は怒り心頭。


 状況が全く分からないので、隣のハムウェイに聞く。

(ねえ? 外交官のオッサンなんでこんな怒ってんの?)


(君、エストリア国でもそんな態度なんだね?

 カストロ公爵が外交無視で、コルラン国に土地を貸出して、しかも取りまとめたもんだから、そこの外交官メンツ丸潰れ、怒り心頭。

 これをなんとかしないと、自分の首がヤバいから躍起になってるってわけ。)


 へー、どうでも良いな。


「勝手に土地を貸し出されるのが、気に入らないなら、カストロ公爵領をエストリア国に全部返却してもらったら?」


 まあ、俺のものじゃないし、好きにしたらいいんだが。


 ザワッ!


 参加した全メンバーが一斉に動揺する。


「ほ、本気か……?」

 何故かコルラン国外相まで動揺する。


「え? そりゃまあ、俺がそう思うだけで……」


 エストリア国外交官も、なぜか俺に聞いてくる。

「カストロ公爵領の者をどうするつもりだ?」


「そりゃあ、勝手にするんじゃ無い?」

 俺関係ないし。


 エストリア国外交官はドンっと机を叩き、立ち上がる。

「カストロ公爵! それはあまりにも……!」


 それに、俺は冷静に返す。

「俺、カストロ公爵じゃ無いけど?」

 エストリア国外交官は口をパクパクとさせた後、顔面蒼白にして椅子に座り込んだ。


 周りの人も同様に青い顔をする。

 なんで?


「それでは……爵位など不要、と?」

 そこからは何故か、コルラン国外相に質問される。


「そりゃ、そうでしょ?」

 詐欺師に爵位って訳分かんなくない?


 俺の答えに、コルラン国外相も顔を青くして息を飲む。


 何、この空気?

 俺にどうしろと?


 暫し、沈黙が流れる。

 何故かとーっても俺が悪いような雰囲気。


「……あー、じゃあ、土地貸出の条件として代わりに奴隷譲ってよ?


 もしくは兵士の捕虜とか、カストロ公爵領に国外追放とかすると治安維持の手間も省けるし、そちらも助かるんじゃ無い?」


 保釈費用分を土地貸出で賄えば、お互いの国にとって良いよね?


 エストリアも戦争で捕らえられた兵をコルランから解放させてあげないと、国としての信用にも関わるし。


 その人たちの再就職先がカストロ公爵領にすれば、人口も増えてさらにハッピー。


「それならまあ……」

 コルラン国外相が、絞り出すように返事をした。


「じゃあ、それで決まり!

 どう? エストリア国の外交官。

 これは条件としてどう?」


 ことさらに明るく言ってみる。

「は、はい。カストロ公爵様のおっしゃる通りに……」

 蒼白な顔だが、少しだけマシな顔付きで俺に答えた。


 公爵呼びから、何故か公爵様呼びに変わった不思議。

 あと、公爵じゃ無いから、俺。


 ……伝わらないね? 何故?


 それから、エストリア国外交官は呆然と俺に尋ねる。

「カストロ公爵様は最初からこれが狙いで?」

 いや、違うけど?


 違うよ? と肩をすくめて見せる。

 ホッとした顔をしたので上手く伝わったようだ。


 俺もホッとする。


 No.1ハムウェイは大笑い。


「なるほど、人同士で争っている場合ではないと。

 面倒ごとはこちらに任せておけば良いと言っているんだよ。カストロ公爵は」


 そんなこと言ってない。

 そういうお題目ってこと?


「これでエストリア国としても妥当じゃない?

 捕虜解放をもぎ取ったわけだし」


 エストリア国外交官は、何度も首を縦に振る。

 コルラン国外相はその様子を見て、深くため息を吐く。


 なんとも言えない雰囲気のまま会談は終わった。


 え? この空気、俺が悪いのか?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る