第60話ゴンザレス、コルランに入る②

「アー、貴方様は光のハムウェイ様じゃありませんか!

お会いできて光栄です。私です、アレスです。いやぁ、お懐かしい」


 急いで俺は彼に握手してその手をブンブン振る。


「何言って……」

「いやいや、私ですか? 私はほら、偉い方のお付きでして」

 ハムウェイの言葉を遮り畳み掛ける。


 やめてやめて、こんなところでNo.0とか誤解を振り撒かないで!


「アレスさん?何しているんですか〜?

 あ……ハムウェイさん」


 パーミットちゃんもハムウェイを見て、不思議そうな顔。


「パーミットちゃん、彼を知ってるの?」

「はい……先生のところで一緒に助手を……」

「へ〜」


 パーミットちゃんは俺の後ろに隠れて、俺の袖を掴む。

「へ〜……」


 ハムウェイの反応が絶対零度に変わる。

 俺は首を必死に横に振る。


 今、この瞬間から、パーミットちゃんに手を出すことだけはしないと、固く心に誓う。


 圧力が凄い!

 世界ランクNo.1の圧力よ!

 つまり世界最強の圧力!!

 怖いわ! ちびりそうよ!


 パーミットちゃん、離して! わたくしのために!


「そう言えば、今度、カストロ公爵領になった地方の一部が、ウチに貸出されることになったらしいね?」

「へ、へ〜、そうなんですか?」


 あの内政官男、敵国に対して上手くやったんだ、凄えな。


「……白々しい。

 そのことは機密だけど、まあ、助かったよ。あそこはウチの中の小部族の一つが聖地にしている地域だから。

 それが領土問題の発端になってね」


 俺の後ろからパーミットちゃんが上目遣いで、ハムウェイを見る。

 頼むから、早く俺の後ろから出て?

 怖いの。


「あ、あの〜、ハムウェイさん?

 それって話してはいけない内容は……?」


 ハムウェイはニッコリ笑う。


「コレも秘密にしといてね?」


 パーミットちゃんは涙目になりながら、何故か俺に訴える。


「この方、いつもそうなんです! ヒョコッと研究室に現れては、私に国家機密話しては、秘密にしてね? って、もうお腹いっぱいです! 勘弁して下さいよう。世界ランクNo.1だから忙しいんじゃないんですか!? なんでいつも私にちょっかいかけるんですか!」


 俺はパーミットちゃんに袖を掴まれた状態のまま。

 再度、ハムウェイの視線に首を全力で横にフルフル!!


 パーミットちゃん、頼む、目の前の人怖いから、大人しく生贄になってくれ。


 キラーンとその瞬間、俺の頭の中で、光が灯った!


「おおっと! 俺、トイレ行きたかったんだ! ハムウェイ様! パーミットお嬢様を頼みます!」


 くるんとパーミットちゃんと俺の位置を交換し、トンとその背中をハムウェイの方に押す。


 ハムウェイ、ガッチリキャッチ!

 俺は親指をそっと上げる。


 ハムウェイも男でも見惚れる、いい〜笑顔で親指を立てる。


 今、俺たちの心が通じ合った。


「え? えっ?」と真っ赤な顔をするパーミットちゃんをハムウェイに生贄として捧げ、その場は危機を脱すのであった!!







 そして、後日、ハムウェイは当たり前の様に研究室に来た。

 そういえば、たまに来るって言ってたね。


「最近、忙しくて来れなかったからね〜?

 虫が湧いてないか、心配してたんだー?


 はい、パーミットちゃんお土産」

 パーミットちゃんには、蕩けるような笑顔を向けながらお菓子を渡す。


 俺には殺気を乗せた笑顔で。

 笑顔が怖いっすハムウェイさん。


「いつもありがとうございます。

 ハムウェイさん。

 昨日はすみませんでした、あれから私のお世話をさせてしまって……。

 ハムウェイさんの側に近寄りたがっていた御令嬢が、沢山いらっしゃったのに」


 ハムウェイはあの後は紳士的に、パーミットちゃんのフォローをしていたようだ。


「いいんだよ。僕も羽虫を追い払うことが出来たからね」

「羽虫ですか? 虫なんて入って来てました?」


「入って来てたよ? 気付かなかった?」

 ハムウェイの言葉に、不思議そうに首を傾げるパーミットちゃん。


 うん、分かったからね、ハムウェイさん?

 俺に威嚇しないで?

 怖くてもう手を出そうなんて、思わないから。


「それで? なんで君はここに居るのかな?」


「アレスさんですか? 先生とダム研究のことで意気投合したとかで、それ以来一緒に研究してますよ?

 ほら、魔獣から作る新素材。

 あれ、アレスさんの発案ですよ?」


 やめてやめて、パーミットちゃん、天然で俺を追い込まないで?


「へー!! カストロ公爵領から購入している魔獣素材を使ったアレねー!」

 やめてやめて、ハムウェイさん!

とっても怖い顔して近づいて来ないで!


 グイッと俺を引っ張り、隅に連れて行くハムウェイ。

(何を考えているNo.0)


 俺は首を横に振る。

(誤解です。俺はNo.0じゃありません)


 俺はただの詐欺師です。


(今更? ふーん? じゃあ、カストロ公爵アレス、何を企んでいる?)


 今更ってなんだ!?

 最初っから違うぞ!


(何も企んでません! そして、カストロ公爵でもありません!)

(ふーん、あくまでシラを切ろうと?)


 シラを切るも何も真実だ!

 信じてくれ!

 詐欺師だけど!


 そこにバグ博士がやって来た。


「あ、ハムウェイ君、来てたんだな。新素材のアレどうだい?」

「なかなか良いですよ。

 あ、博士、彼、少し借りますね?

 手伝って欲しいことがあるんです」


 バグ博士はあっさりと、

「ああ、構わないよ」


 お・れ・が、構うわー!!!


「あー、羽虫が居るなぁ、切って捨てないとね……」

「お供させて頂きます、ハムウェイ様」


 羽虫は生きるのに必死です。






 ……そして、


「……カストロ公爵殿?

 これは一体、どういうことかね?」


 直接は会ったことは無いが、エストリア国の外交官が俺を睨みつけながら、尋ねる。


 俺はコルラン国側の席。

 隣には世界ランクNo.1閃光のハムウェイがにこにこしながら、座ってます。


 またしても、どうしてこうなったーー!?

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