第59話ゴンザレス、コルランに入る①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、元男でも関係無く愛せる慈愛の人

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0






 あ、どうも〜アレスです。


 詐欺師です。


 ゴンザレス? 山賊の里から逃げた奴なら、そっちの角を曲がりましたよ?


 どうやって山賊から逃げ出したって?

 フッ……、ちょっと不幸な事故が起こったからだとだけいっておくよ。


 け、決して俺が壊したダムが山賊の里を滅ぼしたとか、そんなことはないはずだよ?(声震え)



 現在、俺は小綺麗な格好で、コルラン国にある図書館の中に居ます。


 お金は隠して持っていたカストロ公爵領の館から掻っ払った宝石を売り払い、服を買い、初日だけは金を払って中に入ります。


 宝石のことは、里ではなんだかんだ言いながら、見逃して貰った感じ。

 棟梁ありがとー、強く生きろよ!


 本は金持ちの物、つまり、図書館は金持ちだらけなのです。


 本を物色しながら、獲物を探す。

 ある程度の当たりを付けて、ターゲットの近くで相手が興味を持っていそうな本。


 つまり、相手と同じ分野の本を積み重ねる。


 今回のターゲットは……。


「ほう? ダムですか? 私もこの間、木造のダムの造成指導を行ったところですよ?」


 ダムの本を開き、ウンウン唸っていた研究者のようなオッサン。


「なんと? 木造の?」

「ええ、その地方は木造が豊富でして。その逆に都合の良い石などが手に入らなかったのです」


 こう言った研究者系の人間は知識はあるが、現場の生の経験が少ない。


 だから、現場で試行して行う応用力が不足している。

 その中でも、それを補おうと努力する者と、知識だけでゴリ押ししようとする者がいる。


 基本、後者のような者は騙しやすいが、話が通じないことも多い。

 オッサンは前者のようだ。


 俺は今まで得た知識と実践とを組み合わした話を、オッサンは理論と知識と研究成果を、互いに披露する。


 話は盛り上がり、オッサンは明日も話したいと言ってくれた。


 今日は気になって図書館で本を見ていたが、エール共和国への帰国の途中で、あまり持ち合わせを用意していない。


 何日後かなら、使用人の者に持って来させられるが、その頃になると逆に帰国しなければならない、と話す。


 エール共和国にしたのは、現状と地形、更には国家元首のことなど、事情を詳しく知っているので、バレ辛い。


 カストロ公爵領?

 コルラン国からしてみたら敵のはずだぞ?

 殺されるわ!


 するとオッサンは、ならば我が屋敷に逗留とうりゅうし、話をしようではないかと言ってもらえた。


 お手持ちの論文など有れば読ませて欲しいと告げると、大層喜んでくれた。

 研究者は自らの知識をひけらかす場所を求めているものなのだ。


 よし! 飯と読書の日々ゲット!


 こうして、俺はバグラッシュ伯爵(バグ博士と呼んでくれたまえと言われたが)の屋敷で見事、居候生活を送ることになった。


 バレるか追い出されるまで寄生しよう!


 バグ博士は博学ではあったものの、その立場からどうしても世界を旅して回るという訳には行かず、国外の情報を欲していた。


 俺は世界各地を無駄に回っているだけに提供するネタは尽きなかった。


 暫く互いの意見交換、そして研究の日々が始まり、いつしか俺はバグ博士の助手のようなことをしていた。


「バグ博士〜。今度、国の上層部へのプレゼンがあるはずでは?

 論文の準備はいいんですか?」

「待ちたまえ、ぐぬぬ、この土地の土壌から鑑みるに。ぐぬぬ」


 バグ博士は研究者であると共に、国お抱えの技術管理者でもあった。

 必然、国の治水工事や街道整備あらゆることに関わっていた。


 俺も遣いとして何度か王宮に足を運んだ。


「アレスさん! 間に合わないのでこっちで書いちゃいましょう!

 大体、この魔獣素材を使った新素材の提案はアレスさんの発案でしょ!」


 同僚のパーミットちゃんが紙資料をドンっと、俺の作業机の上に置く。


 そうなのだ。


 まだ、世界的に利用価値について試行錯誤している段階ではあるが、魔獣素材を各分野土木にも応用出来ないかと論文を書いてみたが、大受け。


 丁度、カストロ公爵領から安価な素材を購入出来ることもあり、直ぐに活用出来るように研究のお達しが下ったのだ。


 ちなみに、同僚のパーミットちゃんも伯爵貴族のお嬢さんで、丸メガネで野暮ったい格好をしているが俺のS級レーダーが反応している。


 この娘は化ける!




 そんな日々の中、それなりに研究成果が認められ出し、バグ博士たちは社交界つまり夜会やらダンスパーティーへ研究成果の宣伝のために足を運ぶようになった頃。


 何故か俺も夜会に引っ張り出されることになった。


 え? なんで?

 パーミットちゃんのエスコート役らしい。

 つまり、虫除け。


「アレスさんも身なりを整えるとそれなりですね〜」

 パーミットちゃんが着飾った伯爵令嬢姿でそう言ってくれる。


「そう? パーミットちゃんもとーっても可愛いよ」

「あー、はいはい」

 そう言って興味なさげだが、思っていた通りパーミットちゃんは化けた。


 これは確かに虫除けしないと、盛りのついた男どもに囲まれまともに話も出来ない。


 もう超可愛い。

 本人は、いつもの丸メガネで野暮ったい格好の方が良いらしい。


 だけど、夜会ということはそれなりのお偉いさんも当然いるということで。


「あれ? No.0、何やってんの?」


 世界ランクNo.1閃光のハムウェイに見つかった。



 ヒーーヤーーーー!!!!!

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