第57話ゴンザレス、連れていかれる?③

 里は平和そのものだった。


 俺は生まれも育ちもシティボーイ(スラムだけど)だから、こんな感じの田舎暮らしは初めてだ。


 山間の村での生活?

 朝から畑耕したり、家畜の世話をしたり。


 最近は魔獣の被害が増えて、人手が足りないらしい。


 ここでも魔獣か〜。

 あと、水害。


「雨季になると、鉄砲水がこの山間の村に流れ込んでしまう。

 だから家々は高台にあるが畑はそうはいかない。

 鉄砲水で畑が流される事がよくある。

 反対に乾季では水が不足する。

 辛いものさ」


 棟梁、ラーゼッヒという名前らしい。

 言いづらいから棟梁で。


「ふ〜ん、ダムとか作ったらどう?」

「ダム?」

「ダム知らない?」


 知ってはいるが、どのようにすれば良いか仕組みなど専門的なことは流石に知らないそうな。

 あー、それもそうか。


 ああいうのって国家事業とかだから、その手の研究者とか、技術者とか、政治家が主導で行うもんなぁ。


 俺?

 俺の本好き舐めんなよ!


 むしろそれが狙いで、世界中でちょこまかちょこまか詐欺師しながら旅しているんだからな!


 図書館があるような大都市では、なんとかして詐欺して入り浸ってる。

 すぐバレて逃げるんだが。


 普通に?

 1日銀貨数枚掛かるようなところ入れるか!

 保証料に金貨預けるとかエゲツないんだ。

 本は金持ちのモンだからな。


「というわけで、にわかで良ければ分かるぞ?」

「なら、是非頼みたい」


 棟梁がそう言うので人の采配やら計画やら話し合う。

 人の手も掛かるし、素材やら時間も掛かる。


 ただ、もうじき雨季に差し掛かるので、急ぎたいとのことで急ピッチで実行。

 いつに間にか監視もなくなり、次第に村の住人とも打ち解けてきた。


「ゴンザレス! 立派なキュウリが取れたぞ! 少し分けてあげる!」

 シティボーイの俺は、村のおばちゃん連中にモテた。


 若い子は囲い込みされているので、回ってこないけど……。


 どちらにせよS級に慣らされてしまった俺は、村の女に食指が動かないけど。

 なんたる悲劇!


 だんだん我慢するのも辛くなってきたけど、相手が居ない!


 ちくしょー!

 俺は何故、カストロ公爵領の楽園から抜け出してしまったんだ!


 ……殺されそうだったからだな。

 うん、再確認すると落ち着いた。


 それはそうと、ダムの工事は着々と進んだ。

 里の人間も手順をかなり覚え、技術者の顔立ちになってきた気がする。


 どんな顔立ちか分からないけれど。


 雨季が始まりなんとかダムの完成が間に合い、棟梁と2人で酒を飲んでいた。


 その棟梁がポツリと。

「ゴン。オメェ、この里の人間になる気はねぇか?」

 と聞いてきた。


 棟梁は俺の名前を略してゴンと呼んでいた。


 村の娘と結婚して、所帯を持ってこの里の人間になったらどうかと。

 俺は少し悩んだが、首を横に振った。


 それは出来ないことだったから。


「そうか……。

 オメェさんは、この里で埋もれるような器じゃねぇかも知れないからな。

 やるべきことがあるんだろ?」

 俺は頷いた。


 ヤるべきこと。


 それは……S級美女と一夜を過ごすこと!!


 無理なんだ!

 もうアタイの身体はS級美女にしか反応しなくなってしまったの!


 恐るべし! メメとエルフ女!

 まさか、こんな恐ろしい後遺症が残るなんて!


 もう、田舎では生きていけない身体なのだ……。


「そう思い込むな。まあ飲め」

 そう言って棟梁は俺に酒を注いでくれた。


「棟梁。あんたたちは街には下りないのか?カストロ公爵領なら今、人手が足りない。きっと棟梁たちの暮らせる場所もあるはずだが。

 ……俺は行けないが」


 俺が行くと何故か担ぎ出されるし。

 俺、一般市民でいいんだけどなぁ?


 棟梁は笑いながら、酒をグイッと飲み干す。

「ふふふ、この里が無くなるようなことでもなけりゃあ、行かないな。

 ダムも無事出来たし、つまり無いってことだ。

 ……まあ、いずれにせよ、オメェはオメェの道を行け。それで良いんだ」


 俺の道って、詐欺師なんだけど……。






 次の日、ダムの様子を見に行く当番だったので、俺は夜明け前にダムのところに行きサボって二度寝していた。


 ふと目が覚めダムの前方下を見ると大きな雄牛の魔獣。

 俺とバッチリ目が合って威嚇してる。

 ちなみに俺はダムの上。


 このダムは木を合わせて出来ており、流石に雄牛の魔獣の突進を抑えられるように出来てはいない。


 ……つまり、そういうこと。


 雄牛は魔獣であれど、猛々しい闘牛の性質のままダムに突っ込んできた。

 普通の牛より自分に自信があるのか、それとも単純に頭が悪いのか。


 どちらにしろ、突っ込んで来た雄牛によりダムは崩壊。


 咄嗟に近くの木に飛び移った難を逃れた俺は、呆然と大量の水に流される魔獣を眺めていた。


 通常、ダムは川上に在りこのダムもその例にもれない。

 さらに雨季が始まり水が溜まり、その大量の水が下へ流れていった。


 村へ……水が、レッツゴー!


 里の家は高台にあるから、人は無事だろうが、せっかくの畑が全て台無しになることだろう。


「……しーらね」


 スタコラサッサ〜、早く逃げよう!


 あばよー! 棟梁たちー!!

 強く生きろよー!!


 俺も俺の道を行くよ!

 つまり……詐欺師、頑張るよ!


 そうして、俺は次の旅に出るのであった。

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