第54話ゴンザレス領地(?)に帰る③
「奴隷を使うとは、一体……」
「奴隷、色んな国に沢山居るでしょ? 連れて来て働いてもらったら良いじゃん。
ね? 元軍人……エイブラハムだっけ?」
「は! エイブラハムであります! その節は大変お世話になりました」
お世話になりましたって嫌味なんだろうなぁ。
第一、帝国の奴隷のはずのあんたが、なんでここに居るんだ?
もういいや、この状況自体が訳分かんないんだ。
考えてもサッパリだ。
「そちらの隣の美しい方は?」
オッサンから挨拶を受けるより、美女に挨拶して貰いたいよね!
それもS級!
エルフ女が相変わらずと呆れた顔をするが、気にしない。
美女は緩やかに立ち上がり優雅な礼をする。
あ、やんごとなき人だわ、これ。
「その節はお助け頂きありがとうございます。
私は、エイブラハムと共に助けて頂いたあの時の少年です」
あの時、助けて頂いたカメです、みたいな感じだよね〜、ってあん時の美少年か!
美少女だったのか!
失敗した! 手を出しておけば良かった!
そんな暇無かったけど。
コイツも助けてもらったとか言ってるけど、川に蹴り落としただけだけど?
(どういう事?)
エルフ女に聞く。
(何でも聞かないでよ! あんたと一緒で私も何も知らないわよ?)
そりゃそうだ。
ということでこれも流してしまおう。
「この2人は元々奴隷だった筈だ」
ですよね?
2人は頷く。
「他国でも奴隷を使いながらも、持て余してる所もある筈だ。
それを買い集めて成果をあげた奴は恩赦を与えて、解放する条件を付けるとやる気を出す。
そのまま領民になって貰えばいい。
あとスラムな。
仕事がないからスラムで犯罪に甘んじることも多いが、仕事を与えてやれば、スラムに戻りたくたない一心で懸命に働くさ。
代わりに治安維持は怠るなよ?
あー、それに戦災孤児やら旦那を亡くした女も沢山居るだろ? 受け入れろ」
特に未亡人は最高だ。
尽くしてくれるし子の為によく働くし。
色んな意味で包容力もあって最高だ。
「あと学校な。学ばせろ。そして実地で理解させろ」
詳細はお前らが考えろ。
俺は知らんぞ?
俺は次から次へと思い付くままを口にした。
無論、ヤケだ。
「土地は今回のお館様のおかげで足りてますが、資金が……我々はいくらでも働きますが」
内政官男が代表で言うと全員が頷く。
ばっかじゃねぇの!? こいつら。
頭にきた!
何で俺があくせく汗水かいて詐欺師してると思ってんだ!
金のためだぞ!
「ただで働くなど、ふざけたことは今後言うな!
まず、テメらの食い扶持を確保。
その上で余剰分でなんとかしやがれ。
金がないなら、あー、コルラン国に土地を貸すとかどう?
領土問題になるかな?
……あと魔獣な?
奴隷やらスラムやらから人が来たら、その『資源』を有効利用したらいい。
狩って加工して。
どうせ『タダ』だ」
魔王のおかげで無尽蔵にあるしな。
冒険者共は食い扶持がいっぱいあって、魔王様様だろ?
「もうじき勇者のキョウちゃんがここに来るから、あの娘に魔獣討伐やって貰ったらどうだ?
補佐として腕っ節のいい奴らを付けたら、そいつらの訓練にもなるし良いじゃないか?
あと取った『獲物』を加工するのを、狩りの腕に自信がない奴らがやれば、立派に『産業』が成り立つ。
キョウちゃんの修業にもなるし丁度良くない? エルフ女」
呆れた顔で腕組みしながら、エルフ女は答える。
「そこでアタシに振るんだ?
……そうだね。
丁度いい修業になるだろうね?
ナンバーズ? というのが万クラスの魔獣をお相手出来るなら、そのクラスにはなって貰わないといけないからね」
うんうん、と俺は頷く。
これで、どう?
全員が呆然と俺を見ている。
……ダメ?
うん、責任押し付けられたら怖いから何処かで逃げよう。
俺は心に固くそう誓った。
天才執政官として名を馳せた自分スラハリでも、お館様、カストロ公爵アレス様を理解するには至らない。
お館様の行うことは、奇抜。
まるで思考の穴を狙うかのようだった。
出会った頃からそうだった。
奴隷からの突然の抜擢。
国を失い、希望を失い、信念を失うところだった。
お館様は同僚のセボンと私をいきなり見出し、途端に領の全権を渡して来た。
最初聞いた時は、「は?」と答えるしか無かった。
奴隷をなんの根拠もなく大抜擢など、普通ではなくてもあり得ない。
だが、そこに居たのはあり得ない人物。
世界ランクNo.0。
私は当初、その伝説を信じてはいなかった。
当たり前だ。
胡散臭過ぎるのだ。
出てくる伝説が何処の聖人だ? と言いたくなる。
だが普段はお嬢、イリス・ウラハラに任せ何もしないが、問題が発生し対処を尋ねると的確に答える。
場合によっては首を傾げるような指示もあるが、実行してみると十全以上の結果が出た。
恐ろしいお方だ。
娼館の元主人で大政治家と呼ばれた女傑セリーヌとも、お館様の凄さについて語り合ったものだ。
コルラン国との大戦は見事の一言であった。
私は執政官としての能力には自信があるが、戦についてはまるで分からない。
だが同行したセボンから言わせると、軍神と呼ぶに相応しいお方だ、と。
実力もありシースルー国では騎士団長であったセボンだが、その太々しい態度が貴族から嫌われ、懲罰房に入れられている間にコルラン国に国が滅ぼされた。
故にセボンは活躍の場を切望していた。
コルラン国との大戦は水を得た魚のように大活躍だったようだ。
だが、その日を境にお館様は忽然と姿を消した。
セボン曰く、死ぬような状況でもなくそのまま何処かに馬で走り去ったと。
その後のお嬢は見ていられなかった。
世界ランクNo.1というお館様を除けば、最強の敵を相手に1人で持ち堪えて見せた強さを持ちながら、お館様が居なくなったことを聞いてその日は泣き崩れていた。
気丈にもその次の日には皆に笑顔を見せ、お館様が帰ってこられるまでこの領地を守ると皆に誓ってみせた。
この領が世界最高と呼ばれているのも、お館様のお力はあるのは当然としてお嬢の奮闘も大いに関係している。
お館様にはなんとしてもお嬢を娶って欲しいというのが、この領の者全員の願いだ。
領地を守っている間、次から次へとお館様の噂は入って来て、それが真実である証拠に、ついには帝国からもカストロ公爵領への支援が行われるようになった。
領内の経済は活発化し人も増え逆に少し手狭に感じ始めた頃。
お館様が戻られた。
広大な領地と生ける伝説を連れて。
……まったく、いつまでも飽きさせないお方だ。
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