第37話奴隷ゴンザレス⑦

 ついに防衛線が限界を迎えたので、俺たちは作戦通り、全員坑道内へ入った。


「予定出口の開通は?」

「もう少しなんだが……」


 ふむ、こういう時は切り替えるのが正しいな。


「引き続き作業しつつ副案のこちらを開けよう。

 開けた先は崖かもしれないが、閉じ込められるよりはマシだ」


 周りの看守たちは頷き、急いで指示を飛ばし指示した看守自らも走り出す。

 ジッとしていると恐怖に負けてしまうからだろう。


 もう誰も準男爵看守には指示を仰がない。

 まとめて俺に騙されている。

 プクク。


 元軍人オッサンも抜き身の剣を持ったまま戻ってきた。

 無事だったんだな、すげぇな。


「このまま、坑道入り口で時間を稼ぎます。

 ……頼みましたぞ?」

 俺はオッサンの言葉に頷く。


 美少年は最後に俺の盾にするから任せろ。

 しかし何故か俺に丁寧語になったね?

 騙されやすいなぁ。


 オッサンは美少年の前に跪き、一言。

「では、行って参ります」


 美少年も頷き、一言だけ。

「エイブラハム。御武運を」


 少女と思えるような高い、されど威厳のある言い方だった。


 奴隷たちで騎士ごっこやってたんだろうな。そんなんでもないと奴隷稼業辛いしね!


 俺もせっかくなので、のっておこう。


「オッサン! 死中に活アリだ!」


 俺は適当に本に載ってた格好いい言葉をオッサンに投げかける。

 俺、格好いい。



 オッサンは俺の言葉に目を見開くと、右手拳を左手で包むようにして胸の前に持って来て、一礼した。


 とってもサマになっていて格好良かった。

 ちくしょー。





 そこからは急展開だった。


 そりゃそうだ、すぐそこまで魔獣が近づいている訳だから。


 坑道内の所々に爆破のための火の宝珠が設置され、用意が整ったタイミングでようやく脱出口が開いた。


 なんとか間に合った。


 結局、当初案の出口予定は岩盤を抜くことが出来ず、途中で掘削ポイントを切り替えたのが正解だった。


 しかし……開通した出口は崖の中腹、下には川が流れる。

 そこに向けて飛び降りれば助かる可能性は高いが。


 飛び降りるこの場所も高い。

 見下ろすだけでクラッとする。


「こ、こんなところから脱出するんですか〜!?」

 美少年が女の子みたいな声を上げる。


 えーい、だまらっしゃい! 男だろ!

 はよ行け、という思いで蹴り出す。


「え!? きゃあああああーーー!!」

 きゃあ、じゃねぇ!


 目の前の視界が開いたので、俺も意を決して飛び出そうとして背後が爆発した。


 後からの想像でしか無いが、脱出口を開く時に使った火の宝珠が不発で残っており、それが爆発したのだと思う。


 ちゃんと安全点検しとけー!!!


 そうして大きく飛び出した俺は本来落ちるはずだった川を越え、対岸の木々に突っ込んだ。


 ……だが!


「俺は生きてる! 生きてるぞー!!!!」


 坑道の脱出口からは、開いた穴から次から次へと人が川へ飛び込む。


 最後にあの元軍人オッサンが何かを作動させる動きをして、川に飛び込むと同時に鉱山のあちらこちらから爆発が起こる。


 どうやら上手くいったようだ。


 坑道内に魔獣を誘い込み鉱山ごと爆破。

 奴隷や看守は開けた穴から脱出する作戦。


 完璧と言って良い。


 ……いいや、それ以上だ。


 うししっと俺は笑う。


 当然、奴隷解放の恩赦なんて嘘っぱちだ。

 奴隷共は変わらず奴隷のまま。


 しかし俺はこうして奴らの目から逃れ、自由の身!


「世の中、騙される方がバカなのさ!」


 俺はルンルン気分でスキップしながら、木々の間を抜けて自由への道を進むのだった。

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