第35話奴隷ゴンザレス⑤

 奇跡的にではあるが、無事に扇動出来た俺と看守は他の看守と奴隷たちの中でのチームリーダーを決め話し合う。


 その中には美少年とそれを囲っていた代表格の男も何故かいた。


 その代表格の男は軍事経験があるらしく、率先して話を行ってくれる。元軍人ぽいオッサンである。

 便利〜。


「ここから魔獣が山を登って来るなら、この山の入り口に防衛線を張るべきだ」


 俺はそれを腕組みで聞いている。

 その作戦を元に安全に俺が逃げられるポイントを探るためだ。


「粘ってどうする? 援軍は無いぞ?」

 準男爵の看守が腕を組みキリリと言う。


 援軍来ないのアンタの政治力の無さのせいだよね?


 いくつか意見を出し合うが、生き残る具体的な策は誰も浮かばないようだ。


 美少年が心配そうな顔で俺たちを見つめる。


 俺はどんなに可愛くとも男は趣味ではないが、それでもこのようなむさ苦しい奴らばかりなら堕ちる奴も多いだろう。


 実際に堕ちた元軍人らしきオッサンがここに居る。


「なあ、ジャック。何かいい考えはないか?」

「……一つ策がある」

「なんだ?」


 元軍人オッサンがずいっと身体を寄せる。

 むさ苦しいから寄るな。


「だが、危険だ」

 ……案はあるが、危険な任務をどうやって押し付けるかなぁ〜。


 元軍人オッサンが俺の言葉を聞いて笑い出す。

「このままなら仲良く魔獣の腹の中だ。どんなことだろうと可能性があるならやってみる価値はある。」


 いや魔獣の腹ん中にはてめらだけで行けよ?

 俺はその間に逃げるから。


 要はどれが俺が1番安全に逃げられるか、だ。


「鉱山の穴の中に魔獣を誘導し、魔獣ごと爆破させる」

 準男爵看守が口をあんぐりと開け、元軍人オッサンがピュイと楽しそうに口笛を鳴らす。


 周りもざわざわとする。


「どうやってそこまで誘導する?」

 元軍人オッサンが楽しそうに尋ねる。


「誘導する必要などない。全員で鉱山の穴に入れば良い」


「それは全員で生き埋めになると言うことだぞ!」


 俺は呆れたように首を横に振る。


「鉱山の穴を馬鹿正直に下に潜る気か?

 道が無ければ作れば良いだろうが。


 爆発用の火の宝珠も、道具も、何よりも人数も居るんだ。

 今すぐ動けば、十分間に合う……と言いたいがな。


 多少なりとも足止めと、魔獣の動きを探る人間が居る。


 ……頼めるか?」


 俺は元軍人オッサンに死ね、と頼んだのだ。


 元軍人オッサンは嬉しそうに笑う。

「上等だ。その任務、俺と俺の部下でやらせてもらう」


 このオッサン、マゾだな。

 それかアホだ。


「その子は俺が連れて行く。良いか?」

 オッサンどもに対する人質だ、ゲヘヘヘ。


 オッサンは俺を睨む。


「間違っても手を出すなよ? 手を出せばどんな状態でもお前の喉を引きちぎる」

「俺にその趣味はない」


 ノータイムで言い切る。

 すげぇ殺気だな、オッサン。


 ん? なんで周りはケツ抑えて少し俺から離れるんだ?

 全員で痔にでもなったのか?


「ま、まあ、分かった。信じる。頼んだぞ」

 オッサンの稚児には手を出さねぇよ、男は趣味じゃない。


 ま、無事に山を降りてオッサン死んでたら売り払うのも手だがな。


 あー、でも帝国の奴隷のままだから足が付くからやめとこ。

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