第34話奴隷ゴンザレス④

 看守は何も俺の言うことを全面的に信用した、ということではない。


 どのみちなんらかの対処をしないことには、魔獣のお腹の中に入るだけだ。


 俺は借りたぼろぼろの看守服を上から羽織り、奴隷と他の看守たちをそれぞれのエリアごとの区分で並べさせる。


 ちなみに看守(コード準男爵というらしい)の隣に立って腕組み。

 さも看守の腹心のように。


 俺を見たことのある他の看守は戸惑い気味だが、コード準男爵が口を挟まないので戸惑いつつも従っている。


「よし! 集まったな! じゃあ、看守さん、いや、コード準男爵! ここの連中に恩赦を出すんだ」

 恩赦、つまり、奴隷解放しろってことね。

 犯罪奴隷でも。


「ば、バカな!? そんなこと出来るわけがないだろ!」


「おや、だったら死ぬの?」


 この奴隷たちが居る前でそれを宣言しちゃう?


 ちなみに、このやりとりは演技である。


 奴隷たちを集める前にコード準男爵だけにコッソリとある提案をしていた。


 そのまま奴隷に指示したところで命懸けで戦う訳がない。


 よって、それなりの餌が必要となる。


 ここで金銭云々は僅かながら効果はあるかもしれないが、解放されない奴隷にお金を使う機会がどれほどあるか?


 ……そう考えてしまう奴隷も多いだろう。


 そこで! 恩赦を出すと言えば、生き残りさえすれば解放されるというイメージを、夢を持たせられる。


 しかも! 戦わずに逃げ出せば恩赦はなく逃亡奴隷の烙印、もしくはそのまま処刑となってしまう。


 ならば、必死に戦い未来を自らで掴み取る方が良い! そう思わすのだ。


 当然、恩赦など出来るわけがない。

 準男爵風情の権限でそんなこと出来るか!


 そこで準男爵の看守は一度は出来ないと叫ぶ。

 しかし、それ以外に自分の生きる道が無い。

 故に、こう言うのだ。


「……ぐぬぬ。

 ……しかし、私はこれでもカストロ公爵アレス殿と懇意にしている。

 あの方のお力を借りることが出来れば……あるいは。

 しかしそれでは私の立場はさらに…-…準男爵とは言え一族は……。


 いや! いいや!! それしか無い!


 よろしい!!


 無事にこの苦難を乗り越えれば、皆に恩赦を与えられるようにカストロ公爵アレス殿に頼んでみせる!


 彼は帝国の英雄! 必ずや恩赦をもぎ取ってくれることだろう!!」


 俺はビックリしたように皆を見る。

 さもそれが可能であるかのように。


「聞いたか! 皆! 俺はこの看守さんから、カストロ公爵アレス様のことを聞いたことがある!

 懇意にしているのは間違い無い!

 俺たちは解放してもらえるぞーー!!!」


 俺は拳を高くあげる。

 この時、雰囲気が大事だ。


 事前に看守がカストロ公爵アレスと懇意にしているかのように、俺が行った会談の内容とか奴隷たちに洩らしておいた。


 そんな深い内容まで知っているのならば、看守がカストロ公爵と懇意なのもあるいは事実であると考えることであろう。


 というかそう考えて下さい、奴隷の皆さん。


 会談の話とか事実だしね。

 俺がカストロ公爵の名前で詐欺しただけで。


 後、サクラとして何人かにタバコと交換で俺が拳を上げたら、合わせて拳を上げて雄叫びを上げてくれと頼んである。


 話の流れで拳を挙げても問題無さそうとサクラ共も判断したのだろう。


 一緒に拳を挙げ雄叫びを上げる。


 釣られて殆どの奴隷が拳を挙げ雄叫びを上げる。


 他の看守は困惑。

 美少年を囲む一団も困惑しているが気にしない!

 流れで押し切れ! 俺が生きるために!


 こうして奴隷解放宣言が為された。


 無論、詐欺だが。

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