第30話海賊のゴンザレス②

 出世した。


「おい! ジャック! 次、アレ持ってこい! あれ! あっちじゃないからな!」

「へい! 兄貴!」


 このあれとかアレとかあっちとか、物の名前で言えよ! どれかわかんねぇだろうが!


 それかお前の頭の中身ばら撒け! そのまま海に投げ捨てるから。


 奴隷稼業から海賊稼業の下っ端に昇格した。

 それ、昇格と言っていいのか?


「よう? 兄弟、頑張ってるか?」


 マイケルが俺の肩に手を置く。

 気持ち悪いんだよ、放せよ。


 やはり、というか、マイケルは奴隷の中に混じって、海賊の下っ端になれそうな奴や、反抗する奴を洗い出す役目を持った海賊の下っ端だった。


 最初っから分かってたし、そうとなればマイケルと仲良くなって、海賊の下っ端になれるように行動した方がずっと良い。


 すぐに始末されたりはしないが、奴隷のままだとやっぱりいつ捨てられるか分かったものではない。


 魔獣なんかに襲われたら真っ先に見捨てられるからな。


「よう、マイケル。ついに俺も海に出れることになったぜ?」

「マジか!? はえーな、まあ、オメェは最初から見所がある奴だったからな」


 海賊になる見所って、どう考えてもろくでもないよな。

 まあ、当たってるな。

 詐欺師だし。


 修復の作業も頑張った。

 修理担当の棟梁にも褒められた。


「オメェは見込みがあるな、頑張んな!」

「へい! 棟梁!」

 俺は勢い良く返事をする。


 見込みがあるのも海賊なら頑張ってなるのも海賊。

 うん、人として駄目だよな!


 それでも褒められれば、人として間違っていても嬉しいもので、出世して頑張ろうとか思ってしまうのが人の性分だ。


 俺は思わんけれど。


 島はちょっとした村みたいになっており、島で奴隷と海賊が暮らしている。

 女は海賊幹部が囲っているから、ほとんど見かけねぇけど。


 早くこんな島出たい。


 そんな俺の努力と才能のおかげで、ようやく海に出る日が来た。

 俺も含め下っ端どもは略奪の期待で目がギラギラしている。


 これが海賊どもが命も惜しまず勇壮に戦える理由の一つでもある。

 色々と飢えてる。


 当然、奪うことばかりを考えるので、この時点でこの環境から逃げ出そうなんて思いつきもしない。


「野郎ども! 行くぞー!!」


「「「「おお〜!!!」」」」


 俺たちは修理された海賊船に乗り込み、意気揚々と海へと出た。


 道中はずっと作業をしながら、下っ端連中と奪えるかどうかも分からない獲物の話ばかり。


「俺はとにかく女だ!」

「俺は食いもんだな、腹一杯食いたい」

「馬鹿だな、オメエら、やっぱ宝石だよ、宝石。取って幹部たちに届ければ、顔も覚えて貰って出世だ」


 下っ端の中にはマイケルも一緒だ。

 こいつも下っ端海賊だしな!


 取ってもいない獲物について、アレやこれや、ガッハッハ!

 海賊稼業も悪く無いってか?



 そうして船出から3日。


 あっさり帝国海軍に見つかり、圧倒的な力で叩き潰され全員お縄となりました。


 世の中、そんなに甘くないぞ!

 ゴンザレスからの忠告だ!

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