第29話海賊のゴンザレス①

 あ、どうもアレスです。


 詐欺師のはずですが、今は海賊の奴隷です。


 ここ最近の立場の変動が激しいです。

 もうね、今ならあのヤバい女No.8も愛せるよ?


 後に来る恐怖さえ考えなかったら最高の女だしね!


 美人だし、飯食わせてくれるし、動いてくれるし、俺を立ててくれるし、鞭打ちしないし……あれ? 俺、何をこだわってたんだろ?


 あの日に〜戻りーたい〜。


「オラー! 奴隷ども! キリキリ働け!」

 壊れた帆船の代わりに動力は奴隷の手漕ぎ。


 なんとか移動しております。

 はい、海に落ちてあの海賊船に捕まりました。


 調子に乗って、あのなよっと兄ちゃんが座礁させた船です。


 3隻のうち1隻が手漕ぎでなんとか移動出来そうだったらしく、他の奴隷仲間と一緒にギッタンバッタンと櫂を漕ぐ。


 船が動かないようなら見捨てられていたので、良かったのか悪かったのか。


 周りは男しか居ない。

 それはそうだ。

 女ならすぐに売り出すか、海賊共のおもちゃになるだけだ。


 全員黙って、漕ぐ。

 話せば体力は無くなるし何より鞭が飛んで来る。


 奴隷辛いー。


 かつて書物で読んだ伝説のブラックキギョーがこんな状態だと聞く。

 疑問が抱けなくなるのだ。


 次第にこんな状態なのに働きがいとか感じだすぞ! 注意しよう!


 そうしてたどり着いたのは何処かの島。

 ここが海賊のアジトなんだなぁ。


「おい! 奴隷ども! 荷物を運べー!」

 海賊Aが指示を出すのを、へーいと返事。


 これには鞭が飛んで来ない。

 従順な奴隷にいちいち鞭を飛ばしてたら、すぐ潰れてしまうからだ。


 何気に奴隷の中でよく働く奴は海賊に昇格したり出来るらしい。

 出世か!


 そんな訳で潰れないためにも奴隷にも休憩がある。


 食事はパンと魚のスープ。

 海だから魚は豊富だ、むしろ野菜が殆どない。


 俺はパンをスープに浸しながら何度もパンを噛む。


 硬ぇんだよ、このパン。

 隣に誰かが座る。


「よう、新入り。調子はどうだ? 俺はマイケルだ」

「俺はジャックだ。よろしくな」

 求められた握手に応じる。


 マイケルは、なるほどマイケルって顔をしている。

 陽気な気遣い屋って、感じか?

 もちろん、そういう風に見せているだけだろうがな。


「調子のいい奴隷ってのは、あんまり聞かないな」

 マイケルは俺の答えに陽気に笑って見せる。


「違いねぇ! まあ、ここは奴隷ってより海賊見習い養成所って捉えた方が良いかもな。

 その辺のスラムよりよっぽど環境が良いぜ?」


 まあ、そうだな。

 スラムでは飯が食えること自体が贅沢だ。

 働けば飯が食えるだけマシとも言える。


 スラムには飯を食うための仕事自体が無いから、まさに八方塞がりだ。


 だからスラム上がりは仕事が無くて、飯を食うために犯罪をするしかなかった。


 俺の詐欺師稼業もそうやって始まった。


 それを思うと、この『奴隷稼業』も実に身の丈に合ったものと言えよう。


「ただなぁ、女がなぁ……」


「そいつも出世すれば、おこぼれがあるらしいぜ? 全ては上に認められれば、な」

 マイケルは親指を立ててニカッと笑った。


 目、笑ってないから、こえーんだよ!

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