第28話船の上のイリス②

 彼と共にエストリア国の大臣に交渉し、私たちは領地を得た。


 当然、そのアイデアも彼が提示したものだ。

 小娘でしかない私にそんなアイデアは出せない。


 ……彼もそんなに歳は変わらないはずだけど。


 そのアイデアを口にした時、彼は沢山お酒を飲んでいて、酒の席の戯言のように軽い感じだったけれど。


 国を取り戻すのではなく、国を新しく作った方が早い。


 さらりと言った彼の言葉がどれほど無茶か。

 だが、結果は彼の言った通りになった。


 ケーリー侯爵に話を持ちかけたタイミングで、彼が勇者を撃退しケーリー侯爵がその条件を飲んだ。


 何もケーリー侯爵は脅しに屈したというだけではない。


 世界ランクNo.8と勇者を圧倒的な力で下す世界最強のNo.0が、田舎地方一つで繋がりを持つことができるのだ。


 他にも理由はあっただろうが、あの瞬間にケーリー侯爵がそれらを考慮に入れたのは間違いない。


 つまりNo.0の彼は自身の力を営業しに行って、見事契約をもぎ取り私に『国』を渡した、そういうことだ。


 新しい領地でようやく私は共に戦う仲間を得た。


 彼の領地で、彼の元で私はようやく生きる意味を得る事が出来た。


 でも彼は去った。


 分かっている。


 彼にはやるべき事がある。


 魔王の件で会合が行われた際、No.1閃光のハムウェイは言っていた。

 No.0は魔王出現前から敵の存在に気付いていた、と。




 彼の痕跡を追うため世界各地から情報を集めた。


 No.1を膝まづかせた。

 No.2を救い、数十万の魔獣を撃滅し帝国を救った。

 カストロ公爵が商業連合国を帝国に吸収させた。

 カストロ公爵がエール共和国に居る。


 直ぐに手配してエール共和国に走った。

 もちろんカストロ公爵領は新しい領地で、全体的に人手不足だ。


 私もしなければならない仕事が山のようにある。


 それを皆が協力してくれて送り出してくれた。

 あるじ様を頼む、と。


 一目でいいからあるじ様に逢いたい私の気持ちを、仲間たちは分かってくれていたのだ。


 分かってる。

 彼はNo.0はもう……いいえ、最初から小国の元王女如きが、添い遂げられるような相手ではない。


 それでも叶うなら彼のハーレムの末席でも良いから入らせて貰えたら、そう夢見てしまう。


 それでやっぱり彼はまた旅立った。


「……やっぱ、遠いなぁ〜」


 両目から涙が溢れる。


「……お嬢」

 強面だが気の優しいバーナードがそう声を掛ける。


 バーナードもまた、彼が見出した1人だ。

 多くの奴隷の中に居た。

 けれど彼は気付いていたかどうか。


「バーナード、彼はやっぱり遠いよ……」


 バーナードはお気に入りの海賊帽を、目深に被る。


「お嬢が惚れたのは世界最強、そして最高のおとこですぜ?


 ……そう簡単に手に入ったら女は誰もが皆、あの方の女になっちまいやすぜ?」


「うん、そうだね。そうだよね……」


「それに……あの方は、またな。そう仰ったそうですね?

 前回とは違いやす」


 ああ、そうか、そうだよね。


 私はその言葉の意味に、また涙が溢れる。


「彼は、また……会いに来てくれるんだものね……」


「……たく、旦那も罪なおとこですぜ? お嬢みたいな可愛い娘を泣かすんですから」


 ふふふ、と私は涙を流しながらも笑う。


「俺を信じるな、自分の腕を信じろ。旦那に言われやした。

 本当にあの旦那はでっかいお人ですぜ。


 ああ、そうだ。

 今日もまた旦那に1人見出されやしたね」


 私は、彼が釣りをしていた時に彼と話をしていたなよっとした男を見やる。


「ええ。海軍の将軍になって貰いましょう。

 エストリア国、それがダメなら帝国に働きかけましょう。


 海の将は陸の将とは違う。

 その才能は容易に見つけられるものではないはずなのに。

 ふふふ、彼の前では関係ありませんでしたね。


 ……きっと、海の将の力が必要な時が来るのでしょうね。

 だから彼はここに大人しく付いてきた、そう言う事でしょうね」


 私は恋焦がれる彼を思う。

 いつか、また、彼と再会出来る日を心待ちにしながら……。

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