第26話船の上のゴンザレス④

「兄ちゃん。どうしよう?

 なんか良い方法ない?

 今にもこの船、あの海賊船に突っ込んで行ってるんだけど?」


 隣の普通の人っぽい、なよっちい兄ちゃんに俺は聞く。


 こうしている間にぐんぐん船は海賊船に突っ込む。


「へ? とりあえず帆を返してタッキングして、上手回しに」

「聞いたな! 船長! 帆を返しタッキングして上手回しに!」


「この距離でか!?」

 海賊風船長バーナードが叫ぶ。


「他に手があれば好きにして良いぞ!」

 俺は言い返す。


 というか自分で勝手にやれ!


「くっ! ねえよ! 旦那! 信じるからな!」


「信じるなー! テメェの腕の方を信じろよ!」

 俺は即座に全力で言い返す。

 海賊風船長は何故かニヤリと嬉しそうに笑った。


 コイツ……マゾか!


「テメェの腕の方を、か。

言ってくれるな。

もちろんだ!!

 俺らの腕でなんとかしてやろうじゃねぇか。


 聞いたな! 野郎どもぉお!!


 テメェらの腕、旦那に見せつけてやろうぜ!!!」


「「「「おお!!!」」」」


 何か燃えてんね?

 俺を信じるなと言っただけなのに。


 とりあえず兄ちゃんに聞く。


「次! 兄ちゃん、次、どうする急げ!」


 頼む、なんとかしてくれ。


 俺と海賊風船長のやり取りを聞いて、ポカーンとしていた兄ちゃんを促すと、戸惑いつつ次の動きを指示する。


 それを俺はそのまま海賊風船長に伝え、海賊風船長と海賊風船員は躊躇わずにそれを実行する。


 少しは躊躇ためらえよ!


 なんだか横に揺れ、縦に揺れ、一回転して急加速。


 へ〜、船ってこんな動き出来たんだ〜、と俺は遠い目をする。


 翻弄された海賊船は、俺たちを追いかけようとして互いで船をぶつけ合ってしまい、遂には……3艘同時に座礁した。


 それから、海賊風船長たち(俺の隣の居た兄ちゃんも)は襲われていた商船の方に乗り込み、海賊どもを一掃した。


 スゲェー。


 その光景を見ながら、俺は穂先でエロエロ〜と海に俺の内容物を吐いていた。


 やがて完全に掃討も終わり、座礁した海賊船は放置したまま船が動き出した。


俺は部屋にでも帰って寝転ぶことを、近くに居た海賊船船員に伝える。


「部屋帰って眠らせてもらうわ〜。」

「は! ご苦労様です! バーナード船長に伝えておきます! ごゆっくりお休み下さい!」


 海賊風船員はそれを船長に伝えてくれるらしい。


「まあ、いいや。俺もう行くわ。またな」


 海賊風船員はそれに何故か少しだけ首を傾げたが、すぐに何かに気づいたように敬礼して立ち去った。


 なんかもう俺、ほんと、どんな立場なんだよ?


 ふらふらと手すりを持ちながら進むが、僅かに船が揺れた際に。


 また足を滑らせた。


 忙しく走り回る海賊風船員たちは、こちらを見ることはない。


 ぽちゃんと落ちた俺を、誰も気付くことなく船は商船と共に去っていった。



 こんなんばっか、かよ。


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