第25話船の上のゴンザレス③

 釣り糸を垂らすけど全然釣れねぇなぁ、と思いながら隣で作業する兄ちゃんに話しかける。


「釣れねぇけど、何でか知ってる?」

「潮目が違うんですよ。後10分すれば風が変わるので釣れだしますよ」


 そんな詐欺みたいなと思ってたらほんとに丁度10分後に釣れだす。


「すげぇな……兄ちゃん。風とかわかんの?」


 なんだかなよっとした兄ちゃんだけど、ちょっと感動。人ってなんか特技あるよな。


「へへへ、海が好きで昔から船乗りになりたかったんだ。けど身体付きがこんなだろ? 雑用ばっかりでさぁ。


 今回の船も急だから手が足りない、てことでなんとか見習いに滑り込ませて貰ったんだ。


 あんちゃんは商人か何かなのか?

 ウラハラ様と時々話しているみたいだけど?」


「あ〜、そうそう、商人みたいなもんなんだけど、なんか偉い人に揶揄からかわれてるみたいでな。

 ほんと困ったもんだよ」


 詐欺師と商人は似たようなもんだ。


「お偉いさんにか? そりゃ大変だなぁ。逆らったりしたらそれで人生終わったりするからなぁ」

「だろ? いやぁ〜、分かってくれる人が居て嬉しいよ。

 特にそのイリス・ウラハラが俺をある……「商船が襲われている!」」


 俺と兄ちゃんは、叫んでいる奴が指差す方向を見る。


 大型の商船らしき船が、軍からの横流し品のような船に海賊旗を立てた3隻の船に襲われている。


 あー、あれ海賊船か?

 3隻もいやがるなぁ。


 あの商船も運が悪かったな。


「あの商船は、我らが買い求める品を運んでいるカーバル商会の船です!

 至急、救援に向かいましょう!」


 あー、No.8の女が何か言ってるなぁ。

 まあ、人外のNo.8なら余裕だろう。


 スピードを上げ、救援に向かう。

 このままなら十分救援が間に合うだろう。


 そう思った時に俺はある不安がよぎった。

 第六感という奴。


「あー、コレ何かある?」

 絶対、何か悪いことあるパターンだ。

 ゴンザレス学んだ。


 あー、ほらなんというの?

 フラグ踏んだってやつ?


 え? と隣にいたさっきの兄ちゃん。

 No.8は身構える。


 その先の海面が大きく泡立つ。

 激しい波が立ち、そこに大きなイカ。


 ……うん、なんかそんな感じのパターン予測出来てた。


「……流石はあるじ様。クラーケンの出現を予想されておりましたか。


 わたくしめの想像力不足、大変申し訳ございません。


 この上は、私が責任をもってあのイカを始末致します」


 言うや否や、船から飛び出しクラーケンに躍りかかるNo.8。


 わお! No.8さん、流石! 海面走ってる〜。


「え? 商人のあんちゃん、今、ウラハラ様にあるじ様って……!?」

「気のせいだ! そんなことありえん!」


 俺は言い切る。


「お、おう。それもそうだよな?」

 兄ちゃんは常識的な奴らしい。

 久々にまともな奴を見た気がする。


 ところで何でこのままこの船、海賊船に突っ込んでるの?

 馬鹿なの? ねえ、馬鹿だよね!


 馬鹿だと言うよ! バーナード!


「旦那ー! このまま突っ切るけど、指揮頼んだぜ!! 海賊3にこちらは1! 圧倒的に不利だぜ!


 どうする!」


 どうするじゃねー!!!!!


「え!? あれ? 今度は船長にも指揮とか言われてるけど!? あんちゃん、商人なんだよな?」


 詐欺師を商人と呼ぶなら、そうだよ!

 間違ってもNo.8のあるじでも無いし、この船の持ち主でもねえぞ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る