第21話ゴンザレスとエール共和国④

「そっち! 魔獣行った! こらえて!」

 激しく息を吐きながら、僕は牛の魔獣を一息で叩き斬る。


 荒い息を僅かの間に整え次の魔獣へと斬りかかる。


「モーリー! サーリー! 大丈夫!?」


 モーリーがサーリーを守りながら叫ぶ。

「キョウ! 大変だ。街の裏手に大量の魔獣が接近してるって! 数は……こっちと同じぐらい……」


 その言葉は勇者である僕であっても、絶望を感じさせるものであった。


 だが、と僕は思う。


 僕は勇者だ。

 そりゃ確かに、エストリア国に召喚されて名前だけで浮かれた時もあった。


 でも、あの日、僕の大切なものをあの男に奪われた日から、泣いてばかりの僕にサーリーとモーリーは言ってくれた。


『私たちには、貴方が(面白くて)大好きよ?』

 副音声っぽいものが聞こえた気がしたけど、気のせいだろう。


 気配読みとかのスキルが発動した訳ではないはずだ。


 それ以来、僕はこの世界を強く守りたいと思う様になった。


「崩れるな! 耐えるんだ! 必ず何か手はある!」

 共に戦う周りの冒険者たちを鼓舞し、彼らもまた、それに応える様に雄叫びを挙げた。


 魔力はもう殆どない。


 エール共和国のちょび髭元首の指揮の元、集められたエール共和国の冒険者と共になんとか、平原の数千の魔獣については、押し留めることに成功出来そうだが……。


 同じ数の魔獣を相手に出来る気力はもう誰にも残ってはいない。


 こういう時、突然、勇者の力に目覚めたりするものだけど現実は甘くはない。

 全ては日々の努力の積み重ねなのだ。


 チートを貰った僕が言えた話ではない。

 ちょっとの努力だけで伸びるスキル。

 最強という言葉に溺れた。


 そうして唐突に気付く。


 この世界にはたしかにスキルというものがある。

 けれど同時にスキルに表せられない力もまた同様に存在するのだ。

 努力というスキル。


 No.0はただそれを行っただけなんだ。


 奴はスキルなんてものに頼ることなく、最強になった。

 ただそれだけ。


 気付いてしまえば簡単で、そして当然のことだった。


 だが、それはどれほど激しく辛い苦難を乗り越えただろう。


 だからあれほど、この魔獣が蔓延はびこり絶望が漂う中でも、自分に全く関係がないとでも思っているかの様に飄々ひょうひょうとして居られるのだ。


 スキルなんてない世界から来ながら、それにようやく気づいたのだ。


『惜しいが今は仕方ない。刻を待とう』


 No.0が僕に会った後、去り際に言ったらしい言葉。


「待っていろ……、No.0。必ず僕は貴様の期待に応えてみせる」


 だけど、それにはまずこのピンチを切り抜けなければ!


 その時。


 ドドドドと激しい音が街の裏手の方から聞こえる。


「山が!!」

 誰かが、あるいは僕が叫んだ。





 ……やがて街から歓声が上がる。


 山が魔獣を飲み込み街は救われた、と。


 街から立ち去ったNo.0。

 彼が向かったのは今まさに魔獣を飲み込んだ山。


 そして彼以外にこの長雨で危険な山に入った者は居なかった筈だ。


「No.0、僕は必ず貴方の求めに応えて見せる!」


 それを後ろで聞いていたモーリーとサーリーが、貴方の(身体の)求めに応えて見せる! だってー!! と叫んでいるのはきっと気のせいだ。

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