第17話ゴンザレスとキョウちゃん③

 僕はキョウ・クジョウ。


 異世界から来た最強の勇者の男の子、だった。


 暫く前にアレスと名乗った男に大切なモノを奪われて、女になってしまった。


 一時はエストリア国でも肩身が狭くなっていたけど、今度の魔王事件で遂にお鉢が回ってきた。


 勇者として魔王を討つ!

 僕は仲間の美しいモデル体型の剣聖サーリーとワガママボディを持つ聖女のモーリーと共に、エール共和国に来ていた。


 ここで冒険者として活動しながら魔王の情報を集めるためだ。


 そこに僕の大切なモノを奪ったヤツがいた。


「よくも僕の大事なものを奪ってくれたな!」

 僕はNo.0に詰め寄る。


 お陰でサーリーとモーリーに初めてを貰ってもらう夢が消えたじゃ無いか!


「貴様だ! No.0! 聞いてるのか!」

「いえ、人違いです」


 周りがNo.0、大切なものを奪われた、とか言ってるが僕は気にしない。


 キスをしようとして来たので、咄嗟に殴りにかかったがあっさり避けられた。


 ちっ! 流石は世界最強と言ったところか!

 僕の鑑定でも変わらず詐欺師のみ、しかもレベルが上がっている。


 存在自体が詐欺みたいなヤツだ。



「行こうか、メメ」

「待て! No.0!」

「その名を呼ぶな!」


 僕の存在を気にすることなく、No.0は立ち去る。


「僕の、大切なものを奪っておいて……!」


 その後、何故かサーリーとモーリーが優しかった。

 後、どっちが太刀? 猫? とかよく分からないことを言われた。


 猫の方が好きだけど? と答えておいたら何故かとても喜ばれた。


 どういうこと?





 この日、アレスたちが勇者キョウと揉めた場所が、酒場なのが不味かったのか。

 酒の肴を求めていた酔っぱらいたちは自分の見たNo.0の強さをそこらかしこに広めた。


 事実、最強勇者の一撃を軽く避けて見せた。

 その時の勇者が放った剛拳を、放ち終わる前に気付けた者は居なかった。

 それを軽く。


 世界最強の一端を目の前で見ることが出来た酔っぱらいたちが、大興奮しない訳はない。


 連れていた女性も超S級。

 しかもご主人様と、心より心酔しているかのようにも見えた。

 それをさも当然のように振る舞うNo.0。


 噂では大国2国に認められた異端の公爵であり、金には何ら困っていないとか。


 事実、彼自身は支払いなどは一切行っていない。女性の方が少し店主に話したのみだ。


 そんな酒場に入った瞬間から悪目立ちの2人が、何故場末の酒場に現れたか。


 その理由はNo.0がポツリと洩らした一言。


『惜しいが、今は仕方ない。刻を待とう』


 勇者の覚醒は未だ成らず。

 魔王討伐には今暫くの刻が必要なのだと。


 No.0は最強勇者キョウ・クジョウの状態を確認しに来ていたのだ。

 あれほどの剛拳を見せつけた相手をして、まだまだである、と。


 その言葉を聞いていた者たちは、それを周りに一生懸命広めた。


 それは世界最強No.0が世界に絶望をもたらした魔王について、動き出している証拠。


 人々は希望を求め、それをさらに世界に広めた。


 それと同時に、異世界勇者の元男キョウ・クジョウは大切なモノをNo.0に奪われてNo.0に大人の女にされた、と。


 No.0は元男でも構わず食っちまうらしい、と。


 こうして、No.0の新たな伝説が生まれたのであった。

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