第14話カストロ公爵再び⑤

 あの会談のミスはセントラル川のことだけではない。

 ユーフラテス山脈の麓から魔獣が現れるようになった。


 どうも森が焼失したことで、多数の魔獣がそちらに流れたようだ。

 商業連合国はその支配範囲を拡げたが、同時に守るべき土地も増えたことになる。


 帝国はその逆だ。

 そこから経済は一気に逆転した。


 しかも帝国はその焼けた森の跡地で国営の一大農園を作った。


 帝国は何十万もの魔獣に襲われるという国難から一転、一気に飛躍を遂げた。


 商業連合国の内部から、人と金が帝国に大量に流れた。


 元々が商人の連合体だ。理に聡い集団が帝国に流れるのは、当然であり必然でもあった。


 それら全て、何者かの手によって森が焼き払われその情報が出回る前に、商業連合国からこれ以上ない条件を引き出させた、何者か。


 何者か。

 言うまでもない。

 カストロ公爵アレス。


 元ウラハラ国の公爵遺児で、何故かエストリア国にウラハラ国の領地を認めさせ帝国にも存在を認められた異端の公爵。


 元ウラハラ国王女、世界ランクNo.8が堂々と我があるじ、と宣言し。

 滅びたとはいえ、公爵が自国の王女を部下にしてしまうという訳がわからない人物。


 その存在はエストリアのカストロ公爵領でも、普段は表には出てこない。


 今回もどんなトリックを使ったか世界ランクナンバーズに次ぐ、と言われる実力者の帝国ランクNo.1を、愛人とほざいた訳が分からない男。


 セントラル川周辺を得る口実をウラハラ国の復権のためかのように見せた。


 事実、渡された手紙には可能な限りカストロ公爵に配慮する旨が書かれていた。


 それは帝国側がカストロ公爵に何らかの借りがあり、この交渉でウラハラ国の領土復権もある程度は認める動きがあったと伺えた。


 全てのカラクリにあの時点で気付ける訳がない。

 あの大森林が焼失したことも予想外であるし、魔獣に襲われぼろぼろのはずの帝国が全てを見据えたかのように行動するなど。


 だが仕掛けられた。

 たった、あれだけの僅かな時間で。


 しかも会談直後はあくまで商業連合国の都合の良い形で。


 そしてカストロ公爵アレスは、帝国に帰りその栄誉により出世することもなくその姿を消した。


 ベルファレスはその不気味な存在にある人物を想定せざるを得なかった。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、ランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0



 この日、商業連合国の全土は帝国の支配下となった。


 ただそれ以後、帝国はそれ以前の覇業を停止し、世界に蔓延はびこる魔獣討伐のための支援に本腰を入れた。


 それは世界ランクNo.2カレン姫が魔獣に襲撃され、謎の人物により救出されたことと無関係ではない。


 人々は噂した。

 ある人物が世界救済のために、本気を出し始めたのだ、と。



 世界ランクNo.1の上に表示された『魔王』、そして灰色に染まったナンバーズ。


 だが、人々は絶望しなかった。

 この世界には、世界最強No.0が居るのだから。


 世界ランクを示す世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。

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